元秘書3人有罪 小沢氏は「天の声」も説明せよ

朝日新聞 2011年09月29日

陸山会の資金 「挙党」で疑惑を隠すな

民主党は、政権交代を果たした2年前の総選挙のマニフェストに「企業・団体献金禁止」を掲げていた。だが、そのための法案はちっとも出さない。

だから、なおさら小沢一郎元代表の資金管理団体・陸山会をめぐる有罪判決への腰が引けた態度は許し難い。民主党への失望感を倍加させる。

3人の元秘書に有罪判決が出た以上、野党が小沢氏の証人喚問を求めるのは当然である。

だが、野田首相は「政治家の出処進退は本人が判断する。証人喚問は国会で議論いただく。司法の判断へのコメントは差し控えたい」と繰り返す。自民党政権と何も変わらない「言い逃れ原則論」を並べるだけだ。

さらに、小沢氏の刑事裁判が近いことを理由に挙げているのも、法廷で問われる刑事責任と、国会議員が果たすべき政治責任を、混同しているとしか思えない。

秘書が逮捕されてから2年半あまり、ずうっと国会での説明を拒み続けてきておいて、この言い分は通じない。

公共事業の談合で「天の声」を出した。受注希望のゼネコンから献金を集めていた……。

判決が指摘した数々の問題は、政治と行政の公正をゆがめるもので、重大である。小沢氏の政治力なしに、秘書が勝手にできることなのか。

首相は小沢氏にきっぱりと国会での説明を求めるべきだ。

さもなければ、首相が築いた「挙党態勢」は、実は「疑惑隠し」のためだったのか、と皮肉られても仕方あるまい。

「秘書3人が有罪となり、責任をとらなかった政治家を思い出せない」。自民党の谷垣禎一総裁の発言に、多くの人々がうなずいている。

野党の攻勢は強まり、与野党協議の行方も怪しくなりかねない。それで政策を遂行できなくなるのなら、せっかくつくった「挙党」の意味がない。

大震災や原発事故への対応に総力を注ぐべき時に、こんな問題を国会で取り上げていること自体が情けない。民主党は「たるんでいる」の一言に尽きる。

一方で野党には、冷静かつ理性的な対応を求める。

小沢氏の問題を追及するのはいい。だが、「政治とカネ」を理由に、政治をまたも迷走させてはならない。震災対応の第3次補正予算案だけでなく、経済対策や社会保障と税の一体改革も滞らせないでほしい。

追及の先に目指すべきは衆院解散ではなく、山積する課題を解決していく国会論戦でなければならない。

毎日新聞 2011年09月27日

陸山会事件有罪 小沢元代表の責任重い

民主党の小沢一郎元代表側にとって極めて厳しい司法判断となった。

資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)に問われた元秘書3人の判決で、東京地裁は執行猶予付きの禁錮刑を言い渡した。

元公設第1秘書、大久保隆規被告は、中堅ゼネコン「西松建設」からの違法献金事件でも併せて有罪と認定された。注目されるのは、判決が小沢事務所とゼネコンの長年の関係にまで踏み込んだことだ。

岩手県や秋田県の公共工事では談合で業者が選定され、小沢事務所が決定的な影響力を持っていた。小沢元代表の秘書が「天の声」を発し、02、03年ごろからは大久保被告がその役割を担っていた--。地裁が示した「西松建設」事件の背景だ。

「陸山会」の土地購入をめぐる事件では、「水谷建設」からの1億円の裏献金が焦点となった。衆院議員、石川知裕被告と大久保被告に04年と05年、5000万円ずつ手渡したとの当時の社長の証言は他の関係者証言などと合致しており、「信用できる」と地裁は判断した。

その上で、当時「陸山会」事務担当者だった石川被告が政治資金収支報告書に虚偽の記載をした動機を判決の中でこう推認した。「小沢元代表から4億円を借り入れた時期に土地を購入したことが収支報告書で分かれば、その原資がマスコミから追及され、水谷側からの裏献金の事実も明るみに出る可能性があると恐れた」というのだ。ほぼ検察側の主張に沿った認定である。

ゼネコンとの癒着こそ両事件の本質だと判決は切り込んでいる。

事件を巡っては、「形式犯に過ぎない」との批判もあった。だが、判決は民主政治の下で政治資金収支を公開する意義を強調し、多額の虚偽記載を「それ自体悪質というべきだ」「国民の不信感を増大させた」と厳しく批判した。同感である。

4億円の原資について、小沢元代表側の説明は二転三転した。また、昨年来、小沢元代表は国会で説明をせず、特に自身の強制起訴が決まった昨年10月以後は、「裁判の場で無実が明らかになる」との姿勢を貫いてきた。もちろん、刑事責任については、来月始まる刑事裁判の場で争えばよい。とはいえ、秘書を監督する政治家としての責任はまた別だ。

判決は、元秘書3人の刑を執行猶予とした理由を「小沢事務所と企業との癒着は、被告らが小沢事務所に入所する以前から存在しており、被告らが作出したものではない」と指摘した。小沢元代表は民主党の党員資格停止中だ。自身の刑事裁判の動向も踏まえ、自らけじめをつけるべきだと改めて指摘したい。

読売新聞 2011年09月27日

元秘書3人有罪 小沢氏は「天の声」も説明せよ

元秘書の刑事責任を明確に認定した司法判断である。民主党の小沢一郎元代表の政治責任は極めて重大だ。

小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡る事件で、東京地裁が、政治資金規正法違反に問われた石川知裕衆院議員や会計責任者だった大久保隆規被告ら元秘書3人に対し、有罪判決を言い渡した。

この事件では小沢氏自身も、検察審査会の議決に基づき、元秘書らの共犯として強制起訴され、初公判を来月に控えている。

前哨戦とも言うべき元秘書の裁判で、全員に有罪判決が出されたことは、小沢氏の公判や政治生命にも影響を与えよう。

判決で注目されるのは、公共工事を巡る小沢事務所とゼネコンとの癒着を認定し、小沢氏の“金権手法”を浮き彫りにした点だ。

小沢事務所は長年、談合を前提とする公共工事の業者選定に影響力をもち、大久保被告は「天の声の発出役」として、ゼネコン各社に献金を要請していた。

陸山会事件で、小沢氏が用意した土地購入原資の4億円などを政治資金収支報告書に記載しなかった理由は、東北地方のダム建設工事の受注に絡み、中堅ゼネコンから受領した裏金が表ざたにならないようにするためだった。

判決が指摘したこれらの事実は、虚偽記載が、小沢氏が主張してきた「形式的なミス」ではなく、明確な故意に基づく極めて悪質な犯罪であることを示すものだ。

小沢氏はゼネコンからの裏金を一貫して否定し、事件に関する詳細な説明を避けてきた。土地購入原資の4億円の出所に関する説明も、「金融機関の融資」「個人資金」などと次々に変えている。

小沢氏の説明責任が不問に付されてはならない。民主党は、小沢氏が疑問に答える場を党内や国会に設けるべきだ。それができないなら、民主党には自浄作用が働かないことになる。

一方、この事件は、検察の捜査の在り方にも課題を残した。

検察側が証拠請求した被告の供述調書の多くを、地裁は「取り調べで検察官による供述の誘導があった」として採用しなかった。

地裁は、石川議員らの法廷供述の矛盾を検討し、有罪を導いた。刑事裁判が「調書中心」から「公判中心」に移行しつつあることの証左といえる。

検察は供述調書に依存する従来の捜査手法を見直すとともに、検察官の公判での尋問技術を磨いていく必要があるだろう。

朝日新聞 2011年09月27日

3秘書有罪 小沢氏の責任は明白だ

「公共工事をめぐる企業との癒着を背景に、政治活動の批判と監視のよりどころである政治資金収支報告書にウソを書き、不信感を増大させた」

小沢一郎氏の政治資金団体に関する裁判で、東京地裁はそう指摘し、元秘書3人に有罪を言い渡した。中堅ゼネコンから裏金が提供された事実も認定した。政界の実力者の金権体質を糾弾した判決といえる。

秘書らは「有罪としても軽微な事案」と訴えていたが、これも退けられ、執行猶予つきながら公民権停止につながる禁錮刑が選択された。起訴後も衆院議員にとどまってきた石川知裕被告は、潔く辞職すべきだ。

小沢氏の責任も極めて重い。刑事責任の有無は氏自身の公判の行方を見る必要があるが、政治的責任は免れない。疑惑発覚以来、その場その場で都合のいい理屈を持ち出し、国民に向き合ってこなかった。判決は、問題の土地取引の原資4億円について氏が明快に説明できていないことをわざわざ取り上げ、不信を投げかけている。

私たちは社説で、こうした氏の姿勢を批判し、古い政治との決別を図るため、政界引退を迫ったこともある。判決を受け、その感はいよいよ深い。

小沢氏は民主党の党員資格停止処分を受けた際、「秘書の不祥事の責任をとった政治家はいるが、それは秘書が容疑を認めた場合だ」と唱えていた。その秘書にそろって有罪が宣告されたいま、改めて身の処し方を考えるのが筋だろう。

裁判での秘書らの言い分は、国民の常識や正義感からおよそかけ離れたものだった。

例えば、小沢氏の政治団体間で資金のやり取りがあっても、ポケットの中身を移すようなものだ。報告書に記載することもあれば、しないこともある。カネの動きと記載時期がずれても問題はない――。判決がこれらを一蹴したのは当然である。

他の政治家も政治資金規正法の目的を胸に刻み、自らに関連する資金の流れを緊張感をもって報告してもらいたい。

描いた構図がほぼ全面的に認められたとはいえ、検察にも反省すべき点は多い。捜査段階の調書の多くは、威迫と利益誘導を織り交ぜながら作られたとして証拠採用されなかった。

供述に頼らず、客観証拠を積み上げ、それによって物事を語らせる。取り調べでは相手の話をじっくり聞き、矛盾を法廷に示し判断を仰ぐ。そんな方向に捜査を見直すことが急がれる。丁寧に立証していけば主張が通ることを、判決は教えている。

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