朝日新聞 2009年10月20日
新型インフル 流行を賢く乗り切ろう
新型の豚インフルエンザの流行がいよいよ本格化し始めた。
全国の医療機関から報告された1週間の患者数の平均が先々週は12.92人になり、「注意報」の基準10人を初めて超えた。前週からほぼ倍増である。
北海道で38.96人と「警報」の基準である30人を超えた。愛知、福岡、神奈川でも20人を超え、沖縄、東京、大阪など都市圏を中心に広がっている。
今年初めの季節性インフルエンザのピークは約38人、昨年は約18人だった。同じような規模になりつつある。さらに拡大しても不思議はない。厚生労働省や自治体、医療機関は、対応を急ぐ必要がある。
ワクチン接種も始まった。だが、最優先の医療従事者を対象に、予定通り昨日から始めたのは23府県だ。最も遅い東京都は来週になる。すみやかに接種態勢を整えてほしい。
子どもへの接種は12月からの予定だが、患者の急増と重なると医療現場が混乱しかねない。あらかじめ、対応策を考えておく必要もあるだろう。
接種の順番などについて問い合わせが殺到して、医療機関の大きな負担になっている例も少なくない。副反応を心配する人もいる。厚労省や自治体は、ワクチンの有効性と限界なども含めて、できるだけ丁寧に接種にかかわる情報を提供すべきだ。
厚労省は、専門家会議の合意に基づき、接種回数を1回とすることを検討中だ。1回ですめば大勢が受けられる。有効性を確かめて決めてほしい。
もっとも、ワクチンで感染が完全に防げるわけではないし、免疫ができるには時間がかかる。さまざまな対策を総合的に進めることが欠かせない。
とりわけ気がかりなのは、子どもの重症例が目立つことだ。入院患者の大半は中学生以下で、5~9歳が4割を占める。脳症になったり呼吸機能が落ちたりして、急速に悪化しやすい。
子どもの患者が急増した北海道では、医療機関がパンク状態になり、外で何時間も待つ例もあった。医療機関は連携して、重症患者を診る態勢を整えておく必要がある。
医療機関をマヒさせないためには、流行を分散させることが大切だ。それには、私たち一人ひとりの行動がかぎを握る。手洗いで予防し、感染したら外出を控え、せきエチケットを徹底して人にうつさないようにしたい。
不要不急の受診は控え、まず電話してから受診するなど、受診者のマナーも忘れないようにしたい。
学級閉鎖などが広がっている地域もある。学校や地域で催しが多い季節である。場合によって行事の中止という判断もあるだろうが、過剰に反応せず平静な社会生活の維持を考えたい。
正確な知識と入念な準備で、流行を賢く乗り切ろう。
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毎日新聞 2009年10月20日
新型ワクチン 安心できる情報提供を
自分や子どもは、いつ、どこで接種できるのか。そんな不安や戸惑いを感じている人が多いのではないか。新型インフルエンザの国産ワクチンの接種が19日から始まった。しかし、誰もがすぐに接種を受けられるわけではないからだ。
まず、医療関係者から始まり、妊婦やぜんそく患者などの接種は来月からだ。1歳から小学校3年生の子どもや、1歳未満の乳児の保護者への接種は、さらに後になる。
多くの人が軽症で治るとはいえ、重症化のリスクが高い人たちは不安を抱えているはずだ。なるべく早く受けたいと願う人がいるのは当然だ。にもかかわらず、市民への情報提供は十分とはいえない。
情報不足は混乱を招く元であり、問い合わせが殺到すれば医療機関への負荷を増すことにもつながる。国や自治体は接種の手順などをさまざまなチャンネルを使って迅速に情報発信すべきだ。季節性と新型のワクチンが同時接種できるといったことも、市民が知りたい情報だ。
新型ワクチンは2回接種が必要と考えられていたが、健康な成人なら1回で効果があるとわかった。接種できる人数は大幅に増え、接種時期も早められるかもしれない。
しかし、医療機関の接種態勢が整わなければ、逆に遅れる恐れもある。国や自治体、地域の医師会は、情報を効率よくやりとりし、混乱なくスムーズに接種できる態勢の整備を急いでほしい。
ワクチンの限界やリスクについて、国民によく説明しておくことも欠かせない。
インフルエンザワクチンは、患者の重症化や死亡を防ぐ効果があるが、感染そのものを阻止できるわけではない。数千万人に接種した場合、まれではあるが、重い副作用が出ることがありうる。ワクチンとの関係がすぐにはわからない場合もあるだろう。その際に社会的混乱を招かないよう、副作用をできる限り早く見つけて重要性を検討し、情報公開していく必要がある。
新型対策にとってワクチンが万能でないことも、改めて肝に銘じたい。重症者を守るには、医療体制をパンクさせないことが大事だ。単に心配だからと医療機関を受診したり、インフルエンザの「陰性証明書」を病院に求めたりすることは避けたい。患者を振り分ける「発熱外来」の有効活用も、改めて見直してはどうだろうか。
新型インフルエンザの流行は拡大を続け、「注意報レベル」に達している。子どもが重症化するケースも目立つ。パンデミックを乗り切るには、ワクチンや抗インフルエンザ薬を有効利用しつつ、柔軟かつ迅速に対応することが欠かせない。
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読売新聞 2009年10月19日
新型インフル 診療は重症患者を優先的に
新型インフルエンザの流行拡大で医療機関がパンクしつつある――。厚生労働省が、そんな警告を発している。
全国約5000の定点医療機関の報告では、最新1週間の新規患者数の平均が、1機関当たり10人を突破した。前週から倍増しており、厚労省の基準で「注意報レベル」に当たる。
新型用ワクチンの接種も、今週から全国で、まず医療関係者を優先対象として始まる。
流行のピークはまだ先で、これからが正念場と言える。厚労省と都道府県、医師会は、診療やワクチン接種が円滑に進むよう連携を密にせねばならない。
診療を巡る問題の一つは、救急患者向けの医療機関の混雑だ。重症者を24時間体制で受け入れる前提だが、軽症者が多数来る。
特に夜間・休日は患者であふれる。外で7時間待ったという例も北海道で報告されている。
これで重症者に対応できるのだろうか。新型インフルエンザでは重症者を早期に治療できるかどうかが命を左右する。
特に小児の感染は深刻だ。東京都の例では重症例の6割以上を10歳未満が占める。全国でも小児の重症者や死者が続発している。
もう一つの問題が「念のため」受診だ。家族が感染した時、自分は感染していないと勤務先に証明するなどの目的があるが、これが混雑に拍車をかける。
軽症、まして発熱などの症状がないのであれば安易に病院に行かないよう、政府は呼びかけてもいい。開業医の夜間・休日診療も増やせないか。企業や学校も、インフルエンザの疑いで休む時は、診断書を求めない配慮が要る。
ワクチン接種も課題が残る。
接種業務を受託する医療機関の決定が各地で遅れており、東京都など一部地域では、接種の開始がずれ込む恐れが出ている。政府は手続きを加速すべきだ。
ワクチン接種は政府の対策の柱だ。発症や重症化を防ぐ効果が高い。接種率が上がれば、重症者が集中発生するのを抑えられ、医療機関の負担も軽減できる。
ただ、ごくまれに発熱などの副作用がある。重い副作用を補償する制度もあるが、接種率を上げるには、効用やリスクについて理解を広める努力が欠かせない。
もう一つ、インフルエンザ流行のピークが来年の受験の季節と重なることにも気を配りたい。10歳代での感染拡大を考えれば、大学などは、今から入学試験の追試も検討しておいた方がいい。
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産経新聞 2009年10月19日
新型ワクチン 混乱なく接種を進めたい
国内の新型インフルエンザの流行が本格化する中で、19日からワクチンの接種が始まる。最初は患者の治療にあたる医療従事者が対象となり、妊婦や基礎疾患を抱える人たち、子供などへの接種も来月から順次、開始される。
厚生労働省によると、インフルエンザのワクチンには感染を防ぐ効果は期待できないが、重症化防止には一定の効果が期待できるという。重症化リスクを抱えた人をみんなで守る手段としてワクチンをとらえ、全国の医療機関で混乱なく優先接種が進められることを期待したい。
接種開始に先立ち、厚労省と専門家の意見交換会では、13歳以上のワクチン接種は2回ではなく、1回接種が妥当とする見解が示された。成人を対象にした調査で、以前にかかった季節性のインフルエンザやワクチン接種により、新型インフルエンザに対してもすでに何らかの基礎免疫を持つ人が多いと考えられるからだ。
子供が新型インフルエンザにかかっても、両親はかからないケースもある。すでに基礎免疫を持っている人が多いとすれば、重症化防止の面でも朗報である。
厚労省は国産ワクチンの年度内供給見通しを2700万人分としていたが、1回接種なら供給能力はさらに増す。優先対象ではない人たちにも、希望があれば輸入分を回せるようになるだろう。
いまのところ新型ワクチンには輸入、国産とも重篤な副作用は報告されていない。それでも大規模な接種になるだけに、臨床試験だけでは予測できない事例もあり得るだろう。接種開始後も副作用情報の迅速な把握と共有に万全を期し、多くの人が安心してワクチンを受けられるようにしたい。
一方で、ワクチンはいますぐ打っても免疫がつくまでに2週間程度はかかるし、効果も万能ではない。当面の流行には対応できないことも認識しておくべきだ。
国内の定点医療機関からの患者報告は、5~11日の1週間で1医療機関あたり12・92と前週(6・40)より倍増した。全国の患者数に換算すると1週間で64万人、累計では推定234万人になる。とくに大都市圏では5~14歳の患者報告が急増している。
安定的な医療提供体制の維持や手洗い、うがいなど個人の感染防護策による流行の拡大防止といった対策の重要性も、改めて認識しておく必要がある。
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