朝日新聞 2011年09月23日
パレスチナ 米国は拒否権使わずに
国連総会で、中東和平が焦点になっている。いっこうに進まないイスラエルとの交渉にしびれを切らしたパレスチナが、国家として正式に国連に加盟しようとしているからだ。
米国は止めようと必死だ。オバマ米大統領は、パレスチナが申請しても、安全保障理事会で拒否権を使うと明言した。
パレスチナ自治区のヨルダン川西岸では、国連加盟を求める市民のデモが起きている。「アラブの春」による民衆革命の刺激もあり、なぜ自分たちは主権国家として認められないのか、という不満が募っている。
93年にイスラエルと暫定自治で合意してから、自治政府は選挙などで実績をあげてきた。人口は西岸とガザ地区を合計すれば400万人を超える。
一方、交渉を続けてもイスラエルは占領地への入植をやめない。パレスチナの立場は弱くなるばかりという失望は深い。
国連加盟は象徴的な意味だけではない。国際刑事裁判所(ICC)や国連人権理事会にも加盟できる。占領地での不法行為を国際的に糾弾すれば、イスラエルには打撃になるだろう。
ここまで事態をこじらせたのは、仲介役の米国の責任が大きい。昨年9月に和平交渉を再開し、1年以内の和平合意を目指すと確認した。ところが、直後にイスラエルが西岸占領地で入植地の建設を再開した。それを止めることができなかった。
オバマ氏も板挟みだ。
拒否権を使えば、アラブ世界から「二枚舌外交」と反発をかう。しかし来年に大統領選挙を控えているので、米国内に支持者が多いイスラエルに圧力をかけるのも難しい。国内では右派から「テロリストとイスラエルを同等に扱っている」と批判される状態だ。
国連でオバマ氏は「イスラエルの安全保障への米国の関与は揺らぐことはない」と語った。米国が「公正な仲介者」の地位を失うことは、イスラエルの利益にもならないはずだ。
パレスチナが国連加盟を求めることは理解できる。ただ、安全保障理事会は採決を急ぐ必要はない。米国も頭から拒否権を行使するのは控えるべきだ。
国連加盟について、自治政府と統一政府を目指すイスラム組織ハマスは反対しているという。内部で意見が割れているとすれば、その意思統一の時間も必要だろう。
イスラエルには熟考を求めたい。周囲の民衆に敵視されたままでの安全保障はありえない。「2国家共存」を受け入れる以外に選ぶ道はないはずだ。
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毎日新聞 2011年09月23日
パレスチナと米 正面衝突避ける知恵を
パレスチナには大きな賭けと言えよう。国連で「オブザーバー」の資格しかないパレスチナが、アッバス自治政府議長の国連演説を機に、23日にも国連への正式加盟を申請するという。他方、イスラエルの同盟国たる米国は、パレスチナが加盟申請に踏み切れば安保理で拒否権を行使すると公言している。
穏やかならぬ局面である。だが、双方が激突して和平交渉の枠組みを壊しては元も子もない。冷静な歩み寄りを期待したい。と同時に、米国は和平仲介のありようを厳しく反省すべきだと私たちは考える。
オバマ米大統領は昨秋の国連演説で今年9月までの課題として、独立したパレスチナ国家の国連加盟につながる合意形成を挙げた。だが、米国が仲介するイスラエル・パレスチナの交渉は暗礁に乗り上げたまま。イスラエルは国際社会の批判をよそに入植活動を続けているが、米国は強く止めもせず、2月にはイスラエルの入植活動を「違法」とする安保理決議案に拒否権を行使した。
米国の研究者によると、米国が拒否権で葬ったイスラエル関連の安保理決議案は、72年から06年までに40余りに上る。こんなに米国が懸命にかばう国は他にはあるまい。
オバマ大統領は「イスラムとの対話」を強調し、パレスチナ和平では第3次中東戦争以前の境界を基本とする考えを示してイスラエルの不興を買いもした。だが、和平はいっこうに進展しない。パレスチナの国連加盟申請には、オバマ大統領に対して「もうあなたは信用できない」と言い放つような意味合いがある。
コソボも南スーダンも独立を宣言したのに、なぜ我々は独立できないのか、というパレスチナ側の気持ちはわかる。「アラブの春」によって、パレスチナ問題の公正な解決をめざす機運が高まっているのも確かだ。米国とイスラエルは中東で起きている構造変化に注目すべきである。
だが、パレスチナも正面突破を図るだけが能ではない。米・イスラエルとの対立は和平交渉の決裂を招き、独立国家樹立はさらに難しくなる。来年の米大統領選で仮にオバマ大統領が敗れれば、より「親イスラエル」の大統領が誕生するかもしれない。パレスチナ側にも妥協は必要だ。
オバマ政権は、安保理での採択を遅らせるべく種々の提案を作成中とされる。正式加盟が無理なら、パレスチナのオブザーバー資格を現行の「組織」から「国家」に格上げしようと提案した国もある。それも一つの手だろう。持続的な和平交渉を保証する枠組みも必要ではないか。米国はイスラエルの利益のみを考えてはいられまい。オバマ政権の指導力と公正さが問われている。
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読売新聞 2011年09月25日
パレスチナ 国家樹立と和平に近道はない
パレスチナが真の独立国家の地位を得るには、イスラエルとの交渉しか道はない。交渉の早期再開こそが重要である。
パレスチナ自治政府が23日、国連に加盟申請書を提出した。交渉による国家樹立の道を棚上げし、国連加盟国に直接、国家としての承認を求めたものだ。交渉の仲介役を務めてきた米国には不信任状を突きつけた形だ。
国連加盟には、安全保障理事会による総会への加盟勧告が必要だ。安保理は近く、パレスチナの加盟申請の扱いを協議する。
常任理事国の米国は拒否権を行使する意向を示している。安保理で採決する事態となれば、問題はさらにこじれる恐れがある。米国の拒否権行使によって反米感情が高まり、中東情勢は一層不安定化するだろう。
それを避けるためにも、イスラエル、パレスチナ双方をできるだけ早く交渉の席に着かせる道を探らなければならない。
米、露、欧州連合(EU)、国連の4者は双方に、1か月以内に交渉の議題を決め、来年末までに妥結させる新たな行程表を示した。その実現に、国際社会は全力を挙げる必要がある。日本も、後押しすべきだ。
自治政府が国家としての承認を焦るのは、中東和平プロセスが始まって20年たった今も、国家樹立の展望が開けていないからだ。
パレスチナ側は、イスラエルとの合意で自治は獲得した。だが、その後、国家樹立をめぐる交渉は頓挫したままだ。
この間、パレスチナ側が将来の国家領土と考える土地では、ユダヤ人入植地が次々に建設され、イスラエル領化が進んでいる。
自治政府はその袋小路を脱する最後の手段として、加盟申請に踏み切ったのだろう。
しかし、オバマ米大統領が21日の国連演説で語ったように、イスラエルと自治政府の合意がなければ、パレスチナ国家の樹立も2国家の平和共存も達成できない。そこに至る近道はない。
自治政府側には、イスラエルの存在を認めようとしないイスラム原理主義組織ハマスが自治区の一部を支配しているという問題がある。自治政府はまず、この足元の分裂を正すことが重要だ。
イスラエルは、中東における自国の安全保障の要だったトルコ、エジプトとの安定的な関係を失いつつある。これ以上の孤立化を避けるためにも、パレスチナ側が求める「入植凍結」に踏みきり、交渉を再開すべきである。
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