復興増税 消費税を排除するのは問題だ

朝日新聞 2011年09月17日

復興増税 野田新体制の試金石だ

東日本大震災の復興財源の柱となる臨時増税について、政府が選択肢を示した。増税対象として、政府税制調査会が(1)所得税及び法人税(2)この二つにたばこ税なども加える案(3)消費税の3案をまとめ、野田首相が消費税案を退けて2案に絞った。

政府が今後5年で必要と見込む財源は、2回の補正予算で確保した6兆円を除き、補正予算に流用した基礎年金財源分などを加えて16兆円前後に達する。

まずは復興債を発行するが、その返済財源を臨時増税と歳出の見直し、国有財産の売却などで確保する。増税分は国と地方合わせて約11兆円になる。

私たちは、所得税と法人税を中心に検討するよう主張してきた。消費税は今後、膨張が避けられない社会保障費に充てるべきだと考えるからだ。野田首相の判断を支持したい。

所得税の増税期間について、政府税調は5年と10年の2案を示したが、野田首相は「10年」を指示した。たばこ税の増税を絡めない場合、本来の納税額から5.5%増やすことになる。

法人税では今年度に予定していた5%幅の減税と租税特別措置の縮小を実現した上で、3年間に限って納税額を10%増しにする。増税期間を短期間にとどめることで、景気への悪影響や空洞化への懸念に配慮した案になった。

議論の舞台は、民主党税制調査会に移る。2年前の政権交代後、政策決定を政府に一元化する方針に従って廃止したが、政策決定にかかわれないという党内の不満を受けて野田政権が復活させた。

党内では、税調の役員を含め増税への反対・慎重意見が少なくない。もちろん、増税額を抑える取り組みは大切だ。自公両党を加えた3党で合意した子ども手当の見直しや高速道路無料化の見送りにとどまらず、歳出はまだまだ見直せるはずだ。

政府資産の売却では、JTや東京メトロの政府保有株などが候補に挙げられている。ほかにもないか検証したい。

だが、増税から逃げようとするあまり、売却の条件が整っていない資産に飛びついたり、特別会計から安易に借金したりしては本末転倒である。

「復興に伴う負担を後の世代に先送りしない」という理念は、すでに成立した復興基本法や民自公の3党合意でも確認されている。政府のムダを徹底的に削る作業を進めつつ、必要な増税は国民に正面から問いかけなければならない。

税調を復活させた野田新体制の真価が問われる。

毎日新聞 2011年09月21日

復興増税 政権党の覚悟を決めよ

東日本大震災の復興財源にからみ、増税論議が活発化してきた。所得税、法人税を中心に、総額11・2兆円の増税を盛り込んだ政府案を受けて、民主党内の意見集約作業が進められている。しかし、早々と増税開始時期の先送りや、増税期間の引き延ばしを求める声が出ており気がかりだ。「税以外の収入で全額まかなえ」などと増税を全面的に否定する意見さえ聞かれる。

増税案に100点満点など、まずない。今回の政府案も改善の余地がある。だが、社会保障費の財源に充てることになっている消費税を復興増税から外したことも含め、おおむね妥当な内容ではないか。来年度から実施というのも当然だ。これを基に党の税制調査会で改良を加えてほしいところだが、内容の吟味以前に、先送りとしか受け取られない発言が相次いでおり、これで国民に負担増への理解を請えるのかと不安にならざるを得ない。

政府案の責任者である安住淳財務相が増税期間は10年にこだわらないとの姿勢を見せたり、党税調の藤井裕久会長が来年度実施に慎重な発言をしているのは情けないとしか言いようがない。指導者の決意が何より試されている時なのに、である。

増税先送り論の理由として景気への配慮がよく挙がる。しかし政府の試算でも民間エコノミストの予測でも、影響は軽微という。むしろ復興需要による浮揚効果から、12年度の成長率は2・9%と今年度の0・5%から大幅に改善する見通しだ。

この先、日本経済を取り巻く環境がどう変わるか分からない。できるだけ短期間に増税を終えるのが原則だ。10年超は長すぎる。

その点、法人税の増税期間を3年としたのは適切といえよう。問題は個人の負担増とのバランスだ。3年限定なら、もっと踏み込んでいい。

できるだけ多くの税目を組み合わせ、負担の集中を避けるのが基本である。政府がまとめた2案の大きな違いはたばこ税の扱いだが、増税はやむを得ないだろう。

一方、増税額を圧縮するため、税外収入をもっと増やすべきだとの意見が強まっている。だが、国有財産の拙速な売却は慎むべきだ。国が保有する株式も、国民の資産である。将来の緊急時などに備え、できるだけ蓄えておくのが賢明だ。

13兆円という復興費は何に使うのか、納得のいく説明が大前提だ。民間資金も積極的に活用できるよう工夫する必要がある。だが、世界的に財政規律への要求が高まっている中、日本に時間稼ぎの選択肢などないことだけは明らかだ。責任ある政権党でありたいのなら、民主党は現実をもっと直視する必要がある。

読売新聞 2011年09月17日

復興増税 消費税を排除するのは問題だ

東日本大震災の復興財源に充てる臨時増税について、野田首相は消費税を外し、所得税と法人税を中心に検討するよう安住財務相に指示した。

だが、巨額の復興費用を国民全体で支えるには、広く負担する消費税を増税の柱に据えるべきだ。首相の判断は疑問である。

政府税制調査会は16日、復興増税の規模を約11兆円と見込み、増税の手法について〈1〉所得税と法人税〈2〉所得税、法人税とたばこ税などの個別間接税〈3〉消費税の3%引き上げ――の3案を示した。

首相が消費税の増税案を退けたため、政府・与党協議で残る2案を検討することになった。

所得税は、5年または10年間、一定の割合で定率増税を実施する案だ。これについても、首相は10年間の増税を指示したが、臨時増税としては長期間すぎる。

そもそも所得税は、払っている人が限られているうえ、増税の負担が中高所得層に偏る不公平感が否めない。経済の活力を奪うとの懸念もある。

首相の増税方針は、負担を求めやすい層から徴税する発想から抜け切れていないのではないか。

一方、法人税の増税は、2011年度改正で予定していた5%の引き下げを実施したうえで、12年度から3年間に限り、税額を一定程度上乗せする内容だ。

現行より約2%の引き下げとなるが、それでも日本の法人税率は国際的には高水準である。

法人税率を下げて、企業の国際競争力を向上させるべきだ。過剰な負担を企業に求めるだけでは、日本の成長戦略に逆行する。

これに対して、消費税収は増税1%分で2・5兆円に上る。3%上げ案は増税期間が2013年10月から1年半と短期間で済む。

全国から集まる消費税収は、復興支援に役立てられ、被災地は負担を上回る恩恵を受ける。消費税増税が被災地に過大な負担を強いるとの見方は当たるまい。

所得税と法人税の税収は景気動向に左右されるのに対し、消費税は安定的に税収を確保しやすい利点もある。

政府・与党は6月、社会保障と税の一体改革案で「消費税率を10年代半ばまでに段階的に10%に引き上げる」と明記した。

政府・与党は、復興増税と税制抜本改革をどう両立させるか、正面から議論しなければならない。復興費用の確保と、その緊急性を考え、本来は社会保障財源とする消費税収を一時的に活用することを選択肢とすべきだろう。

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