東日本大震災の復興財源に充てる臨時増税について、野田首相は消費税を外し、所得税と法人税を中心に検討するよう安住財務相に指示した。
だが、巨額の復興費用を国民全体で支えるには、広く負担する消費税を増税の柱に据えるべきだ。首相の判断は疑問である。
政府税制調査会は16日、復興増税の規模を約11兆円と見込み、増税の手法について〈1〉所得税と法人税〈2〉所得税、法人税とたばこ税などの個別間接税〈3〉消費税の3%引き上げ――の3案を示した。
首相が消費税の増税案を退けたため、政府・与党協議で残る2案を検討することになった。
所得税は、5年または10年間、一定の割合で定率増税を実施する案だ。これについても、首相は10年間の増税を指示したが、臨時増税としては長期間すぎる。
そもそも所得税は、払っている人が限られているうえ、増税の負担が中高所得層に偏る不公平感が否めない。経済の活力を奪うとの懸念もある。
首相の増税方針は、負担を求めやすい層から徴税する発想から抜け切れていないのではないか。
一方、法人税の増税は、2011年度改正で予定していた5%の引き下げを実施したうえで、12年度から3年間に限り、税額を一定程度上乗せする内容だ。
現行より約2%の引き下げとなるが、それでも日本の法人税率は国際的には高水準である。
法人税率を下げて、企業の国際競争力を向上させるべきだ。過剰な負担を企業に求めるだけでは、日本の成長戦略に逆行する。
これに対して、消費税収は増税1%分で2・5兆円に上る。3%上げ案は増税期間が2013年10月から1年半と短期間で済む。
全国から集まる消費税収は、復興支援に役立てられ、被災地は負担を上回る恩恵を受ける。消費税増税が被災地に過大な負担を強いるとの見方は当たるまい。
所得税と法人税の税収は景気動向に左右されるのに対し、消費税は安定的に税収を確保しやすい利点もある。
政府・与党は6月、社会保障と税の一体改革案で「消費税率を10年代半ばまでに段階的に10%に引き上げる」と明記した。
政府・与党は、復興増税と税制抜本改革をどう両立させるか、正面から議論しなければならない。復興費用の確保と、その緊急性を考え、本来は社会保障財源とする消費税収を一時的に活用することを選択肢とすべきだろう。
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