学力テスト縮小 不安な日教組寄りの転換

読売新聞 2009年10月18日

全国学力テスト 性急な見直しは禍根を残す

小学6年生と中学3年生を対象に、全員参加方式で実施されてきた全国学力テストが、わずか3年間で抽出調査に変更される見通しとなった。性急な見直しは疑問だ。

文部科学省は来年度予算の概算要求で、実施費用として今年度より21億円減の36億円を計上した。学級単位の抽出調査とし、全体の40%で行う。調査対象外でも、小中学校の設置者である市町村などが希望すれば参加を認める。

全国学力テストは1960年代にも全員参加方式で行われたが、日本教職員組合の反対闘争で中止を余儀なくされた。しかし、2004年に公表された国際学力調査の結果、学力の低下が浮き彫りになり、復活の機運が高まった。

このため、専門家らが実施方法を検討し、再三の国会審議も経て07年に43年ぶりに復活した。

日教組を支持母体に持つ民主党は、総選挙前から、予算の無駄遣いを検証する「事業仕分け」で学力テスト見直しを掲げていた。

だが、新政権発足後、専門家の意見を聞いたのは実質2日間だ。復活までの多様な議論に比べ、あまりに拙速ではないか。

そもそも学力向上への打開策として打ち出した政策を、「費用対効果」に重点を置いて見直すのは短絡にすぎる。しかも、削減できる予算は、20億円余りである。

政権公約で掲げた高校の授業料無償化の予算は、4500億円に上る。所得に関係なく授業料分を一律に助成するのをやめれば、学力テストの削減分は捻出(ねんしゅつ)できる。公約に固執すべきではない。

学力テストは、都道府県別結果が公表されたことで、下位の沖縄県が上位の秋田県と教員の交流を始めるなど、各地の取り組みが緒に就いたばかりだ。

全員参加で児童生徒や保護者、学校の学力向上への意識が高まり、それぞれの課題が把握しやすくなる。学校や市町村が結果を公表し、保護者や地域住民と共有すれば、協力も得やすい。

来年は、07年に小6としてテストに臨んだ子どもが、中3として受ける番だ。どんな勉強によって学力がどう変化したか。予定通り実施すれば、詳しく分析して今後の指導に役立てられるはずだ。

公立校では参加を望んでも、市町村が参加しないと、受けられない懸念も残る。

一方、実施科目は現在、国語と算数・数学だけだが、拡大が検討されている。妥当ではないか。

これまでの議論を踏まえ、国会でも十分審議してもらいたい。

産経新聞 2009年10月16日

学力テスト縮小 不安な日教組寄りの転換

川端達夫文部科学相は来年度から全員参加の全国学力テストをやめ、抽出方式にすることを決めた。復活してまだ3年目で、成績上位の自治体、学校に学ぶなど効果が出始めたばかりだ。廃止は早計である。

代わりに教科や対象学年を広げるというが、抽出方式の学力調査はこれまでも行われている。専門家も指摘するように抽出方式では参加しない学校、児童生徒は課題が分からず、意欲も削(そ)がれる。学力向上策として不十分だ。

全国学力テストは昭和30年代に日本教職員組合(日教組)が、教師の勤務評定とともに激しい反対運動を展開し、中止された。このときも抽出方式に縮小され、全国レベルで自分の成績を把握する手段がなくなった。失敗を繰り返してはならない。

ゆとり教育で学力低下が批判され、自治体独自に学力テストを行うケースが増えていた。首長の中からも全国学力テスト存続を求める要望が出ている。

川端文科相は抽出方式にする理由として「成績を上げることだけを競争するやり方には意味がない」とも言った。学力向上に競争は必要で、この発言も疑問だ。

先ごろ、鳥取地裁は市町村・学校別成績の開示を認めた判決で「序列化などの問題は生じておらず、開示しても過度な競争の恐れは乏しい」と判断した。

政府の規制改革会議の調査では、保護者の約7割が学校別の成績公表を望んでいる。過度の競争が起こるというのは杞憂(きゆう)で、成績が悪いと批判されるのを恐れる教師や学校の言い訳にすぎないのではないか。全国学力テスト復活後、秋田と沖縄の教員交流が始まり、大阪では知事の号令によって学力向上に取り組んでいる。こうした競争を歓迎したい。

民主党政権の教育施策は、ほかにも教員免許更新制を廃止するなど日教組の主張に沿ったものになりつつある。競争や評価を嫌うのは教育改革の妨げだ。

教師にはいま、子供の意欲を引き出す豊かな人間性や洞察力が求められている。10年ごとの免許更新制は独りよがりの授業をしていないか、ベテラン教師も指導法を見直す機会として有効だ。

教員養成課程6年制については、教育関係者からも反対がある。大学院を無駄に増やし、頭でっかちの教師ばかりつくることになるのではないか。

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