小学6年生と中学3年生を対象に、全員参加方式で実施されてきた全国学力テストが、わずか3年間で抽出調査に変更される見通しとなった。性急な見直しは疑問だ。
文部科学省は来年度予算の概算要求で、実施費用として今年度より21億円減の36億円を計上した。学級単位の抽出調査とし、全体の40%で行う。調査対象外でも、小中学校の設置者である市町村などが希望すれば参加を認める。
全国学力テストは1960年代にも全員参加方式で行われたが、日本教職員組合の反対闘争で中止を余儀なくされた。しかし、2004年に公表された国際学力調査の結果、学力の低下が浮き彫りになり、復活の機運が高まった。
このため、専門家らが実施方法を検討し、再三の国会審議も経て07年に43年ぶりに復活した。
日教組を支持母体に持つ民主党は、総選挙前から、予算の無駄遣いを検証する「事業仕分け」で学力テスト見直しを掲げていた。
だが、新政権発足後、専門家の意見を聞いたのは実質2日間だ。復活までの多様な議論に比べ、あまりに拙速ではないか。
そもそも学力向上への打開策として打ち出した政策を、「費用対効果」に重点を置いて見直すのは短絡にすぎる。しかも、削減できる予算は、20億円余りである。
政権公約で掲げた高校の授業料無償化の予算は、4500億円に上る。所得に関係なく授業料分を一律に助成するのをやめれば、学力テストの削減分は捻出できる。公約に固執すべきではない。
学力テストは、都道府県別結果が公表されたことで、下位の沖縄県が上位の秋田県と教員の交流を始めるなど、各地の取り組みが緒に就いたばかりだ。
全員参加で児童生徒や保護者、学校の学力向上への意識が高まり、それぞれの課題が把握しやすくなる。学校や市町村が結果を公表し、保護者や地域住民と共有すれば、協力も得やすい。
来年は、07年に小6としてテストに臨んだ子どもが、中3として受ける番だ。どんな勉強によって学力がどう変化したか。予定通り実施すれば、詳しく分析して今後の指導に役立てられるはずだ。
公立校では参加を望んでも、市町村が参加しないと、受けられない懸念も残る。
一方、実施科目は現在、国語と算数・数学だけだが、拡大が検討されている。妥当ではないか。
これまでの議論を踏まえ、国会でも十分審議してもらいたい。
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