野田政権の課題 政策決定 器より責任感の問題だ

朝日新聞 2011年09月09日

エネルギー政策 官邸主導で改革進めよ

原発・エネルギー政策の抜本的な見直しは、野田政権が前政権から引き継いだ最大テーマのひとつだ。

野田首相は、基本的に菅政権の方向性を踏襲する方針を明らかにしている。原発の新設が困難だという認識を示し、老朽化などで危険性の高いものから廃炉にし、中長期的に原発への依存率を下げていく考えだ。

妥当な判断であり、歓迎する。定期検査後の再稼働についても厳格に臨むよう求めたい。

未曽有の原発事故は、「絶対必要」「絶対安全」思考に縛られた原子力行政が電力会社との癒着を生み、情報の流れを阻んだり、改革の芽を摘んだりしてきた実態を浮き彫りにした。

野田政権は、こうしたゆがみを修正し、新しいエネルギー政策への転換に政治の意思を発揮しなければならない。

問題は、どのような枠組みで改革を進めていくかだ。

エネルギー政策は従来、経済産業省の所管だ。事務局をつとめる総合資源エネルギー調査会が、中長期の電源確保などを盛り込んだエネルギー基本計画を定期的に示してきた。内閣府では原子力の専門家による原子力委員会がほぼ5年に1度、原子力政策大綱を策定している。

それぞれ、9月中にも見直しへと具体的に動き始める。

だが、どちらも原発推進を積極的に担ってきた組織だ。とりわけ経産省はエネルギー政策の立案に熟知する一方、電力会社や原発利権と絡んだ政治家や役所OBとのしがらみも強い。改革案が具体的になるほど、こうした勢力の抵抗も予想され、経産省のもとで公正な判断が下せるのか、懸念がある。

菅政権は内閣官房に新たに関係閣僚によるエネルギー・環境会議を設け、政治主導で改革を進める姿勢を示していた。

7月末にまとまった同会議の中間整理は、原発依存度の低減と分散型の電力システム構築という将来像を示したうえで、電源ごとのコストの検証や発電と送電の分離など、改革の論点を網羅している。

野田政権も、この会議をエネルギー改革に向けた最高機関として明示すべきだ。知識と意欲をもつ官僚や専門家を集めて態勢を強化し、エネルギー調査会などの既存組織はその下で改革を肉付けするものとする。

もとよりエネルギー政策の大転換は省庁の枠を超えた政治課題である。中間整理にもある通り、国民的議論を反映させることが不可欠だ。

腰を据えた野田首相の官邸主導に期待したい。

毎日新聞 2011年09月08日

野田政権の課題 政策決定 器より責任感の問題だ

政府でようやく方針を固めても、与党内の反発で政策が右往左往--。民主党政権が繰り返し露呈した欠点だ。野田政権には、これを克服し、今度こそ物事を決めて実行する政権へと脱皮してもらわねば困る。

2年前、政権交代を果たした民主党は、政策決定の仕組みを大胆に変革しようとした。「政治主導」の看板のもと、内閣に権限を集中させ、政治家である大臣、副大臣、政務官を通じて各省庁を動かす体制だ。

同時に、予算の骨格や優先政策を省庁の壁を超えて練り上げる司令塔として国家戦略室を作った。

方向性は間違っていなかったが、機能したとは言い難い。何を優先して実現したいかが定まらず、省庁間や与党との調整も期待通りに運ばなかった。政策決定に参加できない民主党議員からは不満が噴出し、方針が二転三転する。政治主導を官僚排除と混同し、省庁が持つ情報や人材を使いこなすこともできなかった。

菅政権になり、党の政策調査会を復活させた。専門性の弱さは有識者の積極起用で補おうとした。だが結局、党内の不一致に阻まれ続けた。

失敗への反省からだろう。野田佳彦首相は、政策決定への党の関与を強める方針だ。当面の最重要課題となる税の分野で、党の税制調査会を復活させるという。多くの議員に政権党としての自覚、責任感を強めてもらう意味で有用かもしれない。

だが、党任せとなっては合意形成が難航するだけでなく、首相の方針から外れた結論となる恐れもある。どんな会議を作っても、仕組みを整えても、結局は、リーダーが何を目指し、その実現に向け、人材を活用しながら情熱と忍耐を持って説得できるかにかかっている。

民主党議員は、政策への考えを聞いた上で野田氏をリーダーに選んだ以上、支えていく責任を負う。「聞いていない」「反対だ」と抵抗するだけでは、与党の一員と言えない。

一方、野田首相は関係閣僚に日銀総裁や経済界代表などを加えた「国家戦略会議」を新設し、経済・財政政策の企画立案を一元化する構えだ。小泉政権が活用した経済財政諮問会議を意識しているようだが、「器」をあらためさえすれば、うまくいくというものでもない。

外部の意見を聞きたければ、随時、場を持つという方法もある。テーマごとに関係閣僚が集まったり、事務次官ら官僚を招くことがあってもいいだろう。

仕組みや会議は手段に過ぎない。機動的に議論し、迅速に合意を形成し、野党の協力も得ながら、物事を決め結果を出してほしいのだ。

読売新聞 2011年09月07日

エネルギー政策 展望なき「脱原発」と決別を

◆再稼働で電力不足の解消急げ◆

電力をはじめとしたエネルギーの安定供給は、豊かな国民生活の維持に不可欠である。

ところが、福島第一原子力発電所の事故に伴い定期検査で停止した原発の運転再開にメドが立たず、電力不足が長期化している。

野田首相は、電力を「経済の血液」と位置づけ、安全が確認された原発を再稼働する方針を示している。唐突に「脱原発依存」を掲げた菅前首相とは一線を画す、現実的な対応は評価できる。

首相は将来も原発を活用し続けるかどうか、考えを明らかにしていない。この際、前首相の安易な「脱原発」に決別すべきだ。

◆節電だけでは足りない◆

東京電力と東北電力の管内で実施してきた15%の電力制限は、今週中にすべて解除される。

企業や家庭の節電努力で夏の電力危機をひとまず乗り切ったが、先行きは綱渡りだ。

全国54基の原発で動いているのは11基だ。再稼働できないと運転中の原発は年末には6基に減る。来春にはゼロになり、震災前の全発電量の3割が失われる。

そうなれば、電力不足の割合は来年夏に全国平均で9%、原発依存の高い関西電力管内では19%にも達する。今年より厳しい電力制限の実施が不可避だろう。

原発がなくなっても、節電さえすれば生活や産業に大きな影響はない、と考えるのは間違いだ。

不足分を火力発電で補うために必要な燃料費は3兆円を超え、料金に転嫁すると家庭で約2割、産業では4割近く値上がりするとの試算もある。震災と超円高に苦しむ産業界には大打撃となろう。

菅政権が再稼働の条件に導入したストレステスト(耐性検査)を着実に実施し、原発の運転再開を実現することが欠かせない。

電力各社が行ったテスト結果を評価する原子力安全・保安院と、それを確認する原子力安全委員会の責任は重い。

運転再開への最大の難関は、地元自治体の理解を得ることだ。原発の安全について国が責任を持ち、首相自ら説得にあたるなど、誠意ある対応が求められる。

野田首相は就任記者会見で、原発新設を「現実的に困難」とし、寿命がきた原子炉は廃炉にすると述べた。これについて鉢呂経済産業相は、報道各社のインタビューで、将来は基本的に「原発ゼロ」になるとの見通しを示した。

◆「新設断念」は早過ぎる◆

代替電源を確保する展望があるわけではないのに、原発新設の可能性を全否定するかのような見解を示すのは早すぎる。

首相は脱原発を示唆する一方、新興国などに原発の輸出を続け、原子力技術を蓄積する必要性を強調している。だが、原発の建設をやめた国から、原発を輸入する国があるとは思えない。

政府は現行の「エネルギー基本計画」を見直し、将来の原発依存度を引き下げる方向だ。首相は、原発が減る分の電力を、太陽光など自然エネルギーと節電でまかなう考えを示している。

国内自給できる自然エネルギーの拡大は望ましいが、水力を除けば全発電量の1%に過ぎない。現状では発電コストも高い。過大に期待するのは禁物である。

原子力と火力を含むエネルギーのベストな組み合わせについて、現状を踏まえた論議が重要だ。

日本が脱原発に向かうとすれば、原子力技術の衰退は避けられない。蓄積した高い技術と原発事故の教訓を、より安全な原子炉の開発などに活用していくことこそ、日本の責務と言えよう。

◆原子力技術の衰退防げ◆

高性能で安全な原発を今後も新設していく、という選択肢を排除すべきではない。

中国やインドなど新興国は原発の大幅な増設を計画している。日本が原発を輸出し、安全操業の技術も供与することは、原発事故のリスク低減に役立つはずだ。

日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ。

首相は感情的な「脱原発」ムードに流されず、原子力をめぐる世界情勢を冷静に分析して、エネルギー政策を推進すべきだ。

智太郎 - 2011/09/17 21:50
鉢呂吉雄前経済産業相が「放射能をうつしてやる」や被災地を「死の町だ」などと発言して辞任した問題を機に、大臣を辞任し、枝野幸男が新たな経済産業大臣になったが、民主党政権で建設産業は大打撃となっており、我が建設業界は大打撃となっている。
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