あす防災の日 3・11大都市の教訓は

朝日新聞 2011年08月31日

あす防災の日 3・11大都市の教訓は

3月11日の巨大地震は、首都圏でも広い範囲を襲った。

東京23区ほぼ全域で震度5強と5弱を記録。津波と液状化が加わり、1都3県で1万棟近い建物が全半壊。200万軒以上が停電、鉄道は長時間まひし、道路は大渋滞した。

郊外に向かう道は、歩き続ける人であふれた。三菱総合研究所の推計では、遠距離を歩いて帰宅した人600万人、あきらめて会社や店や知人宅で過ごした人260万人。日本の大都会が初めて経験したことだ。

直下型地震も、いつどこで起きるかわからない。耐震化や防火策に加え、帰宅困難者の対策は大きな課題とされてきた。

備えは、できていたか。

東京都は、あらかじめ都立の高校などを災害時の帰宅支援拠点に指定していた。震災当日はほかに、本来は地域の避難所である小中学校や区役所などが、次々開放された。公共施設で夜を明かしたのは10万人近く。都の想定を大きく超えた。

いくつかのターミナル駅ではご近所の自治会や商店街が組織をつくり、帰宅困難者の誘導や受け入れをする計画があった。だが現実は訓練とは違う。みな目の前のことに追われ、担当者間で連絡がつかなかった。

地震後、子どもたちを一斉下校させた小中学校が、少なくなかった。ところが保護者から苦情が相次ぐ。親が帰宅困難になって家にだれもいない事態を、考えていなかったのだ。

いくつもの穴があった。

全体として混乱が少なかったのは、東京が「あの程度の揺れで済んだ」からだ。

首都直下地震では震度6強も予想される。数十万棟が壊れ、火の手が同時多発的に上がる。行政は救助や消火にかかりきりだ。都心でけがを免れた人が一斉に帰宅を始めたら、今回と比べものにならない事態に陥る。道路をふさぐ車に火が飛べば大惨事になりかねない。

当座の安全を確保できた後は「むやみに帰宅を始めない」のが原則だと、改めて肝に銘じたい。状況に応じ、翌日以降に帰宅するのが望ましい。

企業で学校で家庭で、心構えや計画の再点検を急ぐ。安否の連絡手段、食料の備え。たまたま外出中だった人が一時身を寄せる施設を、行政は事前にもっと考えておく。民間の協力を得るには、協定や条例といった枠組みを検討してもいい。

人々が過度に集中する大都市のもろさを、震災はさらけ出した。弱みはほかにもいくつもある。起きたことに学ぶと同時に想像力をめぐらせたい。

毎日新聞 2011年09月01日

防災の日 想定に縛られぬ備えを

きょうは「防災の日」だ。未曽有の被害を出した東日本大震災は、防災意識の重要性を改めて示した。

1日は全国各地で防災訓練が行われるが、訓練を先送りした自治体も少なくない。今回の震災によって災害の想定は大きく覆された。これまでの防災計画に基づく訓練では不十分だとの判断があるのだろう。

その典型が原発を抱える自治体の訓練だ。地震がきっかけで起きた福島第1原発の事故は、運転上のトラブルや機器の故障などを前提とした従来の事故想定を大きく上回った。

国の防災指針では、原発事故が起きた際に屋内退避などを決める目安となるEPZ(原子力防災対策の重点地域)を原発から半径8~10キロと規定する。だが、半径20キロ以内が立ち入り禁止となった福島の事故は、想定を大きく超えた。国はEPZを含めた原発事故の被害想定見直しに着手しており、多くの自治体は結果を待って訓練を検討する意向だ。

だが、いざ大規模災害が起きた時、日ごろの訓練が生死を分けることは、今回の震災の津波への対応を見ても明白だ。いくつかの原発立地県は「国の見直しまで待てない」として、避難範囲を拡大して年度内の訓練を検討している。災害はいつ起きるか分からない。やはり早い時期に訓練を実施すべきだろう。

一方で、東日本大震災を踏まえた対応もみられる。警視庁は1日、都心への車両通行を一時的に止める大規模な交通規制を初めて実施する。震災時の大渋滞を受け、緊急車両通行帯をどう確保するか探る狙いだ。

また、東京23区には帰宅困難者誘導や避難所開設の訓練を実施するところもある。経験を生かした実践的な訓練を工夫してもらいたい。

数ある災害の中でも、大地震に対する備えが最も重要だろう。東海、東南海、南海の各地震、最悪の場合は3連動型の地震や首都直下地震の発生が懸念される。とはいえ、わが国は、いつどこで大地震が起きてもおかしくない。想定外だった阪神大震災や新潟県中越地震の発生がそれを物語る。東海地震対策では、かつて予知を前提とした訓練も行われたが、その限界は明らかだ。

東日本大震災復興構想会議は6月、提言の中で「減災」を強調した。過去に起きた災害など歴史にも学びつつ、被害を最小限に減らすよう備えたい。行政の責任は言うまでもない。だが、「自助」、つまり一人一人の防災への積極的な取り組みこそが自らの命を守ることにつながる。

自宅の耐震診断、家具の転倒防止、勤め先や自宅周辺の避難場所の確認、備蓄品確保、家族との連絡手段の検討など、「防災の日」をきっかけに、もう一度チェックしたい。

読売新聞 2011年09月01日

防災の日 「想定外」の被害をなくそう

きょう9月1日は「防災の日」だ。

88年前のこの日、関東大震災が起き10万人を超える犠牲者が出たことにちなむ。

今週、これに合わせて各地で、防災訓練が実施されている。政府の集計では、きょうだけで、35都道府県が行う訓練に、住民など51万人超が参加する。

死者、行方不明者が2万人以上に上る東日本大震災は、発生から間もなく半年だが、復旧・復興の道は険しい。原子力発電所の事故が起きた福島県では、災害は、まだ現在進行形という状況だ。

「災害列島」の日本は、地震や津波、水害など、どこでも自然災害と無縁ではいられない。今回の震災から教訓を学び、防災訓練などを通じて備えを強化したい。

今年の政府の総合防災訓練は首都直下型地震が発生したとの想定で、閣僚の安否確認や、関係自治体への物資輸送手段の確保・点検を重点項目に据えている。

東日本大震災で緊急用通信網が途絶し、物資輸送も大幅に遅れたことの反省を踏まえている。

一方、都道府県など自治体には実践的な訓練が目立つ。

大阪市は、これまで直下型地震の対応に比重を置いて来たが、今回は、津波被害も想定し、小中学生が校舎3階以上へ逃げる訓練を初めて行う。

高知県では、南海地震に備え県内で一斉避難訓練を実施する。過去最多の住民4万4000人が参加する予定だ。

原発の防災訓練は例年、政府や自治体と連携し「防災の日」と別に行われているが、中部電力は独自に浜岡原発で、大津波襲来時の対応を実地検証する。

他の電力会社は、自治体の防災訓練と重なることに配慮して今回は見送ったが、地震・津波対応の一層の強化は当然のことだ。

いずれも訓練だけに終わらせず結果を詳しく分析して、必要な対策を講じることが肝要である。

避難路の整備はその一つだ。東日本大震災では、身近な避難路の有無が津波から逃げる際に生死を分けた。災害被害を軽減する「減災」対策のヒントを、訓練から引き出すことが求められる。

その際、先人の知恵にも学ぶべきだ。宮城県内で、海岸沿いの旧街道や宿場が津波被害を免れたのは、決して偶然ではあるまい。

日本列島は本格的な地殻活動期に入ったと言われる。各地で地震が続く。東海、東南海、南海地震の3連動や、それ以上の巨大地震発生まで懸念されている。今度こそ「想定外」をなくしたい。

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