野田新首相 政治の歯車、着実に回せ

朝日新聞 2011年09月03日

野田新内閣スタート 「合意の政治」への進化を

野田新内閣が発足した。民主党の幹部人事と合わせた顔ぶれには、野田首相なりの配慮がくっきりとみえる。

一つめは党内融和だ。小沢グループからも2閣僚を起用している。その結果もあって、政権全体の印象はかなり地味だ。非議員もいない。内閣の要の藤村修官房長官は多くの有権者にとって「Who?」だろう。

首相は党代表選のときに「支持率はすぐ上がらない。だから解散はしない」と語っていた。その言葉を政権の布陣でも実証するかのようだ。解散風に右往左往する政治を改める一歩になるならば、いいことだ。

二つめは世代交代だ。首相が戦後3番目の若さだし、閣僚には5人の40歳代を配した。菅、鳩山、小沢各氏による民主党のトロイカ体制を終わらせ、党を担う人材を育てる狙いも込められているのは明らかだ。

そして、首相、外相、官房長官、党政調会長という政権中枢が、いずれも1993年の自民党政権崩壊の総選挙に、日本新党などから挑んで初当選した点も時代の変化を象徴する。金権腐敗を指弾された自民党政治の終焉(しゅうえん)を改めて見る思いだ。

政治家としての力量不足を危ぶむ声もあろうが、経験を積むことで成長する期待も込めて、前向きに評価する。

三つめは、東日本大震災からの復興と、原発事故対応については担当相を再任し、喫緊の課題で継続性を重視した点だ。

さらに社会保障と税の一体改革を担う国家戦略相と厚生労働相には、これまで党と内閣で担当してきた政治家を充てた。一から勉強している余裕などないテーマだけに、妥当な人事と言えるだろう。

この5年で、6人目の首相である。私たちは、この新内閣が懸案を処理していくためには、国会が忘れてしまった合意形成の技術を取り戻し、政策を遂行する能力を身につけるしかないと考える。

かつての55年体制では、野党第1党の社会党は過半数の候補者を立てず、実質的には政権奪取をめざしていなかった。

そのぶん、政策で実績をあげることに存在意義を見いだそうとしていた。牛歩戦術や審議拒否といった派手な抵抗は、世論の関心を高め、与党に主張をのませるための策だった。

それが2大政党による政権争奪選挙の時代になると、野党は倒閣にひた走り始めた。与野党間の政争が日常化し、こんな問題で対決するのかとあきれられる場面が増えた。

そして衆参ねじれが、すべてを止めてしまう。

しかし、イデオロギー対立はとうの昔に終わっている。グローバル化や出生率低下、高齢社会の制約から、動員できる政策の幅は狭まり、手段も限られている。原発新設の道は事実上閉ざされ、原発が減るのはどの党も認めざるを得ない。

こんな現実を見据えれば、民主、自民両党の立ち位置に抜きがたい違いがあるようには見えない。折り合える課題はもっと多いはずだ。

野田首相は、一体改革など三つのテーマについて、民自公3党の協議機関設置を提案した。自民党は応ずるべきだ。

年金などの社会保障制度は、政権が交代してもくるくる変えられない。その財源の手当ても与野党共通の重要課題だ。だからこそ、与野党が協力して一体改革に取り組んだほうがいい。

いまこそ、「対決の政治」を「合意の政治」へと進化させる好機なのだ。

現状では、野党が反対すれば法案は通らないので、「合意の政治」の主役は実は野党だ。強引な丸のみを要求せず、わかりやすい修正案を繰り出して真摯(しんし)に妥協を探るなら、きっと野党の側が評価される。

有権者の側も、政党に対する評価の尺度として、政策実現への貢献度をきちんと見極める必要がある。

いま政治の対立軸は、2大政党の間よりも、むしろそれぞれの党の内側にある。

たとえば、増税政策を巡っては、民主、自民両党ともに容認派と反対派を抱え込んでいる。これが、政権奪取だけで結束してきた民主党と、政権維持だけで一致してきた自民党という2大政党の悲しい現実だ。

衆参ねじれと、政策ねじれという「二重苦の国会」に、新内閣は船出していく。

ますます、解散・総選挙が視野に入ってこざるを得ない国会論戦で、与野党の合意を得られなければ、またしても短期間で沈んでいかざるを得ない。

この政権の先行きを左右するのは、有権者に違いない。

国会で飛び交うであろう「選挙目当て」の甘言の実現性を確かめ、その信用性を聞き分けるかどうかだ。

政治を変えるのは結局のところ、有権者である。

毎日新聞 2011年09月05日

論調観測 野田内閣スタート 政争からの決別に期待

野田佳彦内閣が誕生し、国民の間に何とはなしの安堵(あんど)感のようなものが漂っている。民主党政権2年間の政治の迷走、不毛な政争に国民はうんざりし、政権交代当初の輝きは色あせていた。その反動が、野田首相の安定感のある演説と真摯(しんし)な政治姿勢への評価へつながり、政治が変わるのではないか、という期待が生まれたのだろう。

新内閣発足を受けた3日付各紙社説にも、国民のそうした率直な思いが反映された。

国家再生より党内融和を優先させたとして「これで前に進めるのか」と批判した産経を除いて、各紙は総じて好意的、ないしは党内融和路線に一定の理解をみせる姿勢を示した。読売は「華やかさはないが、国政を前に動かそうという野田首相の意欲を感じさせる」と書き、朝日は世代交代が進んだ政権中枢の顔ぶれを「経験を積むことで成長する期待も込めて、前向きに評価する」と論評した。

足の引っ張り合いや非難合戦より復興を前に進めるため与野党は協力すべきだ、という主張も各紙にほぼ共通する。

毎日は、政治がこれまで復興の足をひっぱってきたと指摘。与野党が総力を結集して「希望のシグナルを被災者に送る」よう求め、朝日はいまこそ「対決の政治」を「合意の政治」に進化させる好機だと書いた。「自民党もいたずらに対決姿勢を強めるだけでは責任を果たすことにはならない」(日経)、「ねじれ国会では野党も国政運営の責任を共有する。ただ解散を迫るだけでは無意味だ」(東京)として、野党の責任にも言及する論調が目立っている。

鳩山由紀夫、菅直人の過去2代の民主党政権で遠ざけていた官僚の能力を生かすよう注文したのが、読売と日経だ。読売は「鳩菅政治」からの決別が急務だとして、経済界との関係修復や民間の知恵活用も提言した。また毎日は、日本の国際的な発言力の低下に歯止めをかけることも大事な課題だと強調。経済外交への取り組みも含め「内向きの政治から脱却し、外に打って出る」ことを求めた。

比較的温かい空気の中で船出した野田内閣だが、東京が「党内融和は政策を実現するための手段にすぎない」とクギを刺したように、震災からの復興や原発事故収束、エネルギー政策、税と社会保障の一体改革、外交立て直しなど、野田政権が直面する課題は山積している。前途は決して楽観できない。評価されるもされないも、これからの政策実行力次第である。【論説委員・小松浩】

読売新聞 2011年09月03日

野田内閣発足 国難乗り切る処方箋を示せ

「鳩菅政治」からの決別が急務だ

華やかさはないが、国政を前に動かそうという野田首相の意欲を感じさせる布陣だ。あとは政策をいかに戦略的に実現していくかである。

野田内閣が2日、発足した。閣僚に参院議員や国会対策委員長経験者が目立つのは、衆参ねじれ国会を乗り切るため、野党との連携を重視したのだろう。

民主党内の路線対立で政権党の体をなさず、野党との関係もぎくしゃくした菅政権の反省に立ち、党内グループの勢力均衡を図る人選となった。党執行部と合わせて、野田首相が腐心した挙党態勢はひとまず整ったと言える。

政官関係の見直しを

震災復興や原子力発電所事故の収束、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、財政再建、消費税率引き上げを柱とする社会保障制度改革、外交立て直し……。

一刻の猶予も許されない課題ばかりだ。早急に具体的な処方箋を提示する必要がある。

野田首相が掲げる復興増税などの重要政策を巡る党内論争は基本的には代表選で決着した。

その結果に各閣僚は従い、内閣が一丸となって取り組むことが重要だ。これまでのように、閣僚が勝手に発言し、閣内不一致を繰り返すようでは困る。首相も融和優先で妥協してはならない。

内閣の要の官房長官には首相の腹心である藤村修・前幹事長代理が起用された。首相の女房役として鳩山、菅両政権で混乱した首相官邸の機能を回復してほしい。

民主党政権はこれまで、誤った「政治主導」のもと、官僚を意思決定の場から排除し、官僚の離反とサボタージュを招いた。

震災後は、各府省連絡会議に各府省の次官を参加させるなど官僚機構を活用する姿勢を見せ始めたが、まだまだ不十分だ。本来の政治主導を実現するためにも、次官会議を復活させてはどうか。

官邸機能強化という観点では、首相が、組閣に先立ち、経団連の米倉弘昌会長ら経済3団体の長と会談し、首相官邸に設ける経済や財政に関する会議への協力を要請したことも注目に値する。

菅政権で悪化した経済界との関係を修復するとともに、乱立した経済関係の会議を統合・再編するのが狙いだという。官僚はもとより、民間の知恵とノウハウを活用するのは、妥当な考え方だ。

「震災」「原発」を迅速に

震災対策を迅速に進めるためには、平野達男復興相、細野豪志原発相らの再任は当然だろう。

原発については、菅政権のように、見通しのない「脱原発依存」を訴えるだけでは、経済も、国民生活も混乱するばかりである。

野田首相は、「原発の安全性をきっちり確保し、地元の理解を前提に原発を再稼働する」と述べた。細野原発相は、鉢呂吉雄経済産業相とともに、原発の再稼働に向けて努力すべきだ。

財務相には、安住淳・前国会対策委員長が起用された。手腕は未知数である。だが、歴史的な円高をはじめ日本経済をめぐる環境は極めて厳しく、財政悪化も深刻だ。国家の信用危機に陥ることのないよう対策を講じねばならない。

民主党政権の最大の弱点は外交・安全保障政策だ。玄葉光一郎外相、一川保夫防衛相はいずれも、外交・安保の分野に本格的に携わるのは初めてであり、その力量を問われよう。

野田首相が、オバマ米大統領との電話会談で、日米同盟が「日本外交の基軸」であることを確認したことは適切だった。

在日米軍再編の日米合意を踏まえ、沖縄の負担軽減を模索する中で、日米同盟を深化させるための知恵を絞る必要がある。

鳩山元首相が米軍普天間飛行場移設問題の対応で沖縄と米国から信頼を失い、菅前首相も尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件や北方領土問題を巡る失政で国益を損なったことを忘れてはなるまい。

TPP参加へ動こう

再任された鹿野道彦農相が、TPPへの参加に慎重姿勢を示しているのは気がかりだ。農政通としてTPP反対派を抑える役割を果たしてもらいたい。

野田首相は、民主党政権で3代目となる。民主党は、野党時代、選挙で国民の審判を受けていない政権は正統性に欠けるとして、首相交代を繰り返す自民党政権を批判してきた。そうであるなら、国民に信を問い直すのが筋だ。

復興を最優先の課題とし、「政治空白を作れる状況ではない」との理由で政権を担当する以上、山積する課題を処理して実績を上げるしかない。首相の「背水の陣」の成果を期待したい。

朝日新聞 2011年09月01日

野田新首相へ 外交の立て直しを急げ

野田新首相は、新しい日本の顔である。難問だらけの内政とともに、日本外交を速やかに立て直す重責を担う。

菅首相の退陣表明から3カ月、外交は停滞し続けている。今月前半の予定だった首相の訪米は延期された。尖閣問題で冷え込んだ日中関係を改善する出発点になる首相の訪中や、シャトル外交による韓国大統領の訪日の日程も決まらない。

幸い、今月下旬の国連総会を皮切りに、米ロが初参加する東アジアサミット、G20、アジア太平洋経済協力会議(APEC)と、11月まで各国が集う機会が目白押しだ。首脳外交を展開する好機である。

その前提として、新首相は外交・安全保障に関する包括的な考え方を、できるだけ早く国民に示す必要がある。

先進各国の経済の混迷と新興国の台頭で、国際社会の力関係は流動化している。アラブ諸国の民主化や、国際テロなどからも目が離せない。日本の針路をどう定め、どんな国をめざすのか。いまこそ、大きな構想と戦略が求められている。

先の民主党代表選で、外交問題はほとんど素通りだった。しかも野田氏は、財務相としてG7などには出たが、どちらかといえば外交の門外漢で、手腕はまったくの未知数である。

その一方で、「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」という見解に象徴される歴史認識と、中国を刺激する物言いが話題になっている。最近も、中国の軍事力増強や海洋進出に懸念を示し、「ナショナリズムをあおるために、ちょっかいを出される可能性もある」と語っていた。

中韓両国のメディアでは、すでに「タカ派」「強硬派」といった言葉が踊っている。

しかし、野田氏もいたずらに摩擦の種をまくのは本意ではあるまい。少なくとも、靖国神社参拝について「首相在任中はしない」と明言し、メッセージを発するのが賢明だ。

来年は米ロ中韓など、世界の主要国で大統領選挙が行われたり、首脳が交代したりする。各国とも指導者は国内世論を強く意識せざるを得ず、内向き志向になることが懸念される。それだけ、外交は難しさを増す。

鳩山政権での普天間問題、菅政権での尖閣問題など、民主党は外交の不手際で信用を失ってきた。そして「回転扉」「メリーゴーラウンド」と揶揄(やゆ)されるほどの短命首相続きだ。

「言うべきことは、遠慮なく言い合う」という野田氏には、思慮深い言動で首脳間の信頼関係を築いてほしい。

毎日新聞 2011年09月04日

野田政権の課題 借金頼みからの脱却を

野田佳彦首相の誕生が、事実上決まった先日の民主党代表選直後、東京市場では国債が買われ、株は売られた。「財政健全化は進むが、景気は冷え込む」という見方が広がった結果だ。しかし、首相は就任後の会見で、「財政再建と経済成長のバランスをとる」と述べ、その両立を目指す意向を示した。困難だが、国民の生活を守るためには、避けて通れない道である。

まず、課題になるのが、東日本大震災からの復旧・復興事業をめぐる財源問題だ。政府は、これまで6兆円を予算化したが、今秋の3次補正予算以降に見込む約13兆円の財源手当てができていない。首相は、菅政権の方針を引き継ぎ、通常の国債とは別管理の復興債を発行して財源を賄ったうえ、法人税、所得税などを中心にした期間限定の臨時増税で、大半を償還する考えを示している。

長期債務残高は、国と地方で約900兆円に達する。国内総生産(GDP)の2倍近く、主要先進国の中では突出して悪い。国内消化の頼みの綱である個人金融資産も、高齢化の進展で減少傾向に入り、いつまでもあてにはできない。一方、復旧・復興の負担は国民全体で分かち合うべきである。首相は「財源なくして政策なし」とも言っている。臨時増税は、避けがたいということだ。

もっとも、産業界が主張するように増税で景気が冷やされ、税源になる利益や所得が減って税収が落ち込んでは元も子もない。経済情勢に配慮するとともに、成長のための規制改革、円高対策などもあわせて考えなければならない。

事業の無駄を省く一方、国有財産売却、特別会計の見直しなどによる税収以外の財源をできるだけ増やすのは当然だ。

税と社会保障の一体改革に伴う消費税率の段階的引き上げも、財政再建への重要な課題になる。ただし、国民に負担増を求めるからには、毎年1兆円ずつ膨らむ社会保障費を抑制したり、公務員人件費削減などの行政改革で歳出を絞り込む努力は不可欠だ。首相は「行政刷新を徹底させる」と明言した。行政刷新担当相を専任にしたことは、そうした決意の表れとして評価する。パフォーマンスにとどまらず、着実に実績を残す取り組みが必要だ。

復旧・復興の臨時増税にしろ、社会保障のための消費税率引き上げにしろ、実現には激しい抵抗が予想される。民主党政調会の役割を見直すというが、意見集約が難航する可能性もある。財政健全化と成長を同時に軌道に乗せるため、野田首相の強力な指導力を求めたい。

朝日新聞 2011年09月01日

野田新首相へ 経済活性化へ具体策を

深刻な財政難のなかで、東日本大震災からの復興をどう描くか。閉塞(へいそく)感が強まる一方の日本経済を活性化できるか。野田新政権は、経済財政分野でも難しい課題に向き合う。

まずは復興の具体策を盛り込む第3次補正予算案の編成である。通常の国債と区別した「復興債」を発行し、その返済財源として臨時増税を行う方針だ。政府税制調査会が近く増税の選択肢をまとめる。

一方、高齢化で増え続ける社会保障費をまかなうため、2010年代半ばまでに消費税率を段階的に5%幅引き上げる方針も決まっている。

負担増が重なることをできるだけ避け、今後の復興需要を見込めば、復興増税は来年度から実施するのが合理的だろう。民主党代表選で臨時増税の必要性を訴えた野田氏が勝った後も、党内には慎重論が根強い。経済状況を見極めつつ、最後は野田氏が決断しなければならない。

同時に、日本経済のパイを大きくし、雇用や税収を増やす経済活性化策が不可欠だ。

菅政権が昨年6月にまとめた新成長戦略をはじめ、いったいいくつの「戦略」が打ち出されてきたことか。その多くは目先の予算獲得を意識した省庁からの寄せ集めだった。

ここは、従来の枠を超えた取り組みが必要だ。特に、新たな蓄電機器や通信機能を取り込んだ次世代電力網であるスマートグリッドの整備など、エネルギー分野は電力改革によって大きな成長が期待できる。

こうした日本の将来像と被災地の復興とを重ね合わせ、規制を大胆に緩和した特区制度も使いながら、具体的なプロジェクトを打ち出してはどうか。

たとえば、深刻な原発事故に見舞われた福島県に再生可能エネルギーに関する国際的な拠点を設ける。放射線医学や関連医療分野でも、同県の復興案に沿って産官学が連携した態勢作りが考えられるだろう。

復興事業などへの民間資金の活用や行政のムダを削る作業も欠かせない。民主党政調会長になった前原元国交相は先の代表選で、PFI(民間資金を使った社会資本整備)方式で仙台空港を整備する構想を披露した。野田新首相は行政刷新担当相を専任に戻し、行政改革に力を入れる考えを示した。問われているのは構想や人事ではなく、具体策の決定と実行である。

環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の検討など、対外経済政策も先送りできない。スピード感を持って政策を進めなければならない。

毎日新聞 2011年09月03日

野田内閣スタート 政治の総力を結集せよ

野田佳彦内閣が発足した。東日本大震災による被災は今もまだ続いている。まさに非常時の中のトップ交代である。成熟した民主国家の政治とはいいがたい現実をいちばん冷ややかにながめているのは、津波や東京電力福島第1原発事故の被災者ではないだろうか。そして新内閣の船出に希望を託しているのもまた、同じ被災者であるに違いない。

組閣で慌ただしい永田町から遠く離れた被災地では、仕事を失い、故郷を離れ、生活のめどがつかないまま途方に暮れている多くの人たちがいる。野田内閣は、なにより政治の力を必要としている被災者の現実を胸に刻み、その視線と向き合うことから始めなければならない。

東日本大震災は、日本の国のありようを変えてしまうほどの衝撃をもたらした。一瞬で数万人が犠牲になる不条理を体験・目撃し、多くの人が自分の生き方や社会のありようを見つめ直した。地震国・日本と原発の共存に無理があることも改めて浮き彫りになった。だが、忍耐強く困難に立ち向かう被災者に、政治は手をさしのべてきただろうか。がれき処理も放射能汚染対策も思うように進まない。「国民の生活が第一」どころか、政治はむしろ国民の足を引っ張ってきたのではないか。

野田内閣は、過去2代の民主党政権の失敗を踏まえて仕事にあたる必要がある。統治のあり方を変え、スピードと実行力の伴う政治を実践する。政争で浪費した時間を埋め合わせ、政治への信頼を取り戻す。でなければ、首相交代劇は何のためだったのか、ということになる。

まず取り組むべきは、震災復興のための第3次補正予算だ。内容や財源について議論を尽くし、早期に成立させることが肝心である。

野党も、政治空白の解消に大きな責任がある。被災者の暮らしより自分たちのメンツ優先の政治に、国民はうんざりしている。野田内閣の足を引っ張ることだけを考えるのではなく、今度こそ与野党が一体となって復興に全力を挙げてほしい。それが、政治が変わる希望のシグナルを被災者に送ることにもなる。

日本は今、過酷な試練のただ中にある。地震・津波・原発事故という三重災害の克服、原発事故を踏まえた今後のエネルギー戦略、円高・デフレの克服、社会保障や税制・財政の抜本改革、国際的な発言力低下の歯止め--。いずれも日本の生存がかかっている課題ばかりだ。

中でも財政や社会保障の抜本改革は、誰が政権の座にあろうが避けては通れないテーマである。「国民の耳に痛いことも言う」のが持論の野田首相には、覚悟を持って取り組むことを期待したい。だが、党首級の実力者である岡田克也前幹事長を断念し、財政政策の手腕が未知数の安住淳前国対委員長を財務相に起用した人事からは、野田内閣の明確な意思が伝わってくるとは言いがたい。人気取りのポピュリズム政治を排除するというなら、必要と考える政策は国民に説明を尽くした上で、説得する努力をしてもらいたい。

原発依存を減らし、再生可能エネルギーに転換していく前内閣の方針は、踏襲するのが当然である。野田首相は記者会見で、将来は原発に頼らない社会を目指す考えを明らかにした。そこに至るプロセスについて政権内で議論を加速させ、どんなエネルギー政策を目指すのか、具体的に示していくことが必要だ。

短命内閣が続く日本の政治に対する世界の目は極めて厳しい。今回の首相交代も、「まるで回転木馬」などという冷笑を浴びている。

海外の否定的な日本政治観に拍車をかけているのが、震災後の外交停滞である。野田首相と玄葉光一郎外相は、日本の国際的地位が危機的な状況にあるとの認識を持ち、日米同盟や近隣諸国との関係を一日も早く正常な軌道に乗せてほしい。

野田首相は記者会見で「元気になった日本で、これまで以上に国際貢献する」と語った。この姿勢を歓迎する。内向きの政治から脱却し、外に打って出ることは、野田内閣に課せられた大事な仕事である。

そのためには環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加問題など、積み残しになっている経済外交の課題にも果敢に取り組む姿勢を見せるべきだろう。日本が開かれた貿易体制の中で積極的なイニシアチブをとる構えを示すことは、震災後の日本を見る国際社会の目を、大きく変える力にもなるはずだ。

震災で町長を含む1400人以上が死亡・行方不明となった岩手県大槌町では先日、やっと町長選が行われた。碇川豊新町長は、プレハブの仮庁舎で「心をひとつに復興をなしとげよう」と職員に呼びかけた。震災からまもなく半年。「心をひとつに復興を」とは、政治に向けられた国民共通の思いではないか。

2年前、民主党は「ひとつひとつの生命を大切にする社会」をマニフェスト(政権公約)に掲げ、政権交代を果たした。マニフェストの理念を守ると言った首相の言葉は、被災地を救い、日本を復興・再生させるため、政治のすべての力を結集するという決意であってほしい。

朝日新聞 2011年08月31日

野田新体制 真の「挙党」をめざせ

野田佳彦新首相は、党幹事長に輿石東参院議員会長を、政調会長に前原誠司前外相を起用する人事を決めた。

とりわけ意を用いたのは、輿石氏の起用に違いない。小沢一郎元代表に近い輿石氏を党の要に据えることで、党内融和に踏み出した。

この人事の評価基準は二つある。ひとつは、輿石氏が公言してきた、小沢氏の党員資格停止処分の解除問題だ。私たちは、いま解除する根拠はないと考えるが、どうするのか。

二つめは政策面の対立解消につなげられるか、どうかだ。

マニフェスト見直しの3党合意を守り、消費増税にも取り組む野田氏と、マニフェスト固守を唱え、増税を嫌う小沢氏とは距離がある。野田氏の政策遂行を支え、小沢氏らに同調を促すのが輿石氏の役割のはずだ。

幹事長職が焦点になるのは、党の資金と選挙の公認権を握るからだ。それを小沢氏側がとるかどうかが「挙党態勢」の試金石のように言われる対応を、いつまで続けるのか。民主党は、その原因が時代遅れの党の体制にあることに気づくべきだ。

党内対立の原因をたどれば、小沢代表時代までさかのぼる。小沢氏は、20億円を超す党資金をみずからに近い党役員に「組織対策費」として渡していた。使途が明らかにされないため、配分が不公平だといった不満や疑念が党内に噴き出した。

こんな資金配分ができるのならば、幹事長職の奪い合いになるのは当然だろう。

だから「挙党態勢」に必要なのは、第一に資金面を含めた公正な党運営だ。要するに時のリーダーに左右される「人治」の政党を、規則に基づく「法治」の党に近代化することだ。

岡田克也幹事長は、300万円以上の組織対策費を個人に出す場合、外部監査の対象にすると決めた。このルールを明文化し、輿石氏も継承すべきだ。

第二には、すべての所属議員が何らかの形で政策形成にかかわれるような仕組みにすることだ。民主党は内閣に政策決定を一元化してきたが、政府外の議員は採決要員のように扱われているとの不満を募らせた。

衆参ねじれの現場では、政府の法案がそのまま成立するとは限らない。もっと与党議員が副大臣や政務官と連携し、野党との修正協議に臨んだ方が合意も得やすいだろう。

政調会長になる前原氏は、そんな改善策を実現すべきだ。

私たちは、グループごとのポスト配分争いより、もっと高い次元の「挙党」を望む。

毎日新聞 2011年08月31日

野田新首相 政治の歯車、着実に回せ

野田佳彦新首相が誕生した。5年連続の首相退陣劇という異常な状況での指名だ。東日本大震災の被災地復興や福島原発事故の収束の重責はもちろん、政治の歯車がうまく回らず、沈没しかねない危機のさなかに国政のかじ取りを担う。

政権交代を実現したさきの衆院選からわずか2年、民主党政権への信頼は大きく損なわれた。党の要の幹事長に輿石東参院議員会長を内定したが、前途は多難だ。包容力ある政権運営をこころがけ、税と社会保障の一体改革など懸案にひるまず取り組まねばならない。

「政界への人材供給ルートが固定化している。世襲議員は全議員のうち約5人に1人。あまりにも閉鎖的です」。今から26年前、85年に松下政経塾が出版した提言集には政治の道を志していた同塾第1期、野田青年のこんな思いが記されている。

政界進出に「地盤、看板、カバン」が必要とされ、2世議員や官僚OBが幅をきかせる中、松下幸之助氏が創立した政経塾は非世襲議員の有力な供給源に成長した。野田氏が日本新党から出馬し初当選した93年衆院選は「新党ブーム」で国会に多様な人材が参入した節目でもある。かつて野田氏自身が語ったように、政界への人材供給ルートの変化を新首相誕生は象徴したと言えよう。

とはいえ54歳、衆院5期で首相の座についた野田氏を取り巻く環境はことのほか厳しい。

元号が「平成」となって実に17人目、09年の政権交代からはや3人目の新首相の前に脆弱(ぜいじゃく)な党内基盤、ねじれ国会という壁が立ちふさがる。たとえ首相の顔を代えたとしても07年に退陣した安倍内閣を境に政治が失い続けた調整力、大局に立ち合意を形成する機能を回復できる保証は無い。

その意味で、焦点の幹事長に小沢一郎元代表に近い輿石氏を起用したことはもろ刃の剣とも言える大きな賭けとなった。

野田氏が「ノーサイド」を前面に掲げたように、第一に新首相に課せられるのは民主党の宿痾(しゅくあ)とも言うべき内輪もめを抑止する態勢の確立である。党を二分する選挙を経て小沢元代表は人事面での配慮を協力の条件としていた。復興増税や政権公約の見直しなどをめぐりすぐに党内対立が再燃しかねないのが現実だ。小沢元代表に近い参院の実力者、輿石氏をあえて起用し「挙党」の象徴とする苦肉の策である。

だが、輿石氏起用が小沢元代表の発言力を不透明な形で強め、新政権が目指すべき世代交代の流れに逆行することを懸念せざるを得ない。特に小沢元代表への党員資格停止処分の無原則な解除は厳に慎むべきだ。

岡田克也幹事長が取り組んだ組織対策費の見直しなど党資金の透明化を輿石氏が継続するかも重要だ。「挙党態勢」構築が一歩誤れば世論の激しい離反を招きかねないことを十分にわきまえねばならない。

第二に避けて通れないのが、衆参逆転のねじれ国会への対処である。

野田氏は当初、自民、公明党との大連立を目指す考えを強調していたが、信頼関係の構築を当面は優先する方針に軌道修正した。大震災直後の緊急危機管理の段階を終えた今、大連立による連携を目指すのであれば外交、安全保障政策も含めた基本政策の合意は欠かせない。

次期衆院選も次第に視界に入る中、政策ごとの部分連合が現実的だ。とりわけ、本格復興予算となる3次補正予算案の策定は急を要する。内容のみならず、財源論議を並行し与野党が協議する枠組みを早急に整えなければならない。

加えて与野党にはこの際、「ねじれ」国会の下で混乱を防ぐルールをぜひ議論してほしい。

次期衆院選で民主、自民どちらが政権を担っても「ねじれ」が続く可能性がある。国会同意人事、予算関連法案の扱いなどで衆院の判断を尊重する合意はできないだろうか。

参院での問責決議の位置づけも課題となる。「1票の格差」是正や参院のあり方とともに、与野党が「ねじれ」に伴うルールを議論することは自民党にとっても有益なはずだ。

そのうえで、民主党が掲げた政権公約と政権運営のあり方の見直しが欠かせない。「脱官僚」の政治主導実現は会議から官僚を除外するような議論に矮小(わいしょう)化し、「政と官」の歯車がかみ合わず混乱を招いてきた。お蔵入り状態の国家戦略局構想も含め、政権運営のシステムを再検討すべきだ。

野田新首相が代表選で復興財源のための臨時増税や税と社会保障の一体改革で持論を曲げなかったことは評価できる。衆院選を経ず首相を2度にわたり交代した以上、できるだけ速やかに民意の審判を仰ぐことが必要だ。政権公約を見直す中で維持する理念と実現可能な政策を仕分け、率直に説明しなければならない。

大震災後、被災地を置き去りにして繰り広げられた政争は民主党のみならず、政党政治そのものへの不信を国民に生みかねない愚挙だった。政治の機能不全を食い止める責任を野田新首相のみならず、与野党は今こそ共有すべき時である。

智太郎 - 2011/09/20 17:57
国の法律や決まりごとを決めるのが役人や政治家なら、国民である我々と関係ない所で勝手に決まりごとを動かしているのが、役人や政治家なのだ。
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