除染基本方針 もっと住民の立場で

朝日新聞 2011年08月28日

除染作業 工程表作りを急げ

福島第一原発の事故でまき散らされた放射性物質の除去(除染)について、政府がようやく基本方針を決め、きのう地元自治体に説明した。

2年で住民の被曝(ひばく)線量を半減させ、子どもについては、学校や通学路などの除染を徹底して6割減らす。そして年間の被曝線量が20ミリシーベルト以上の地域を「段階的かつ迅速に縮小」させるのが柱だ。

しかし、こんな目標では、住民はとても安心できないのではないか。何もしなくても、雨や風で2年後には約4割減る、というのが政府の試算である。上乗せ分が1~2割というのはあまりに低い目標だ。

しかも、今回の基本方針だけでは、避難している人たちがいつごろ元の生活に戻れるのか、大まかなメドも分からない。

大事なのは、総合的な戦略である。

そのために、まず汚染の詳しい実態の把握が不可欠だ。100~500メートル四方くらいの細かさで調べる必要がある。避難している人たちも自宅周辺の汚染の程度を知りたがっている。

菅首相はきのう、福島県知事に対し、原発の近くでは長期間帰れない場合が出てくると述べて、事故について陳謝した。

確かに汚染のひどい所では、事実上、帰ることを断念せざるを得ない場合もあるかもしれない。しかし、その基準とデータが示されないままでは、住民は納得できないだろう。

汚染の実態把握と並行して、除染作業にかかるコストや投入できる人員をはじき出す。そのうえで、どの地域からどう進めていくのか、どの程度の時間がかかりそうか、国は全体像を示す工程表作りを急がなければならない。

実際の作業も、ばらばらではいけない。住宅に加え、学校などの公共施設や道路、さらに田畑や周辺の森林にも目を配らなければ、住民は安心して元の生活に戻ることはできない。

一方、除染を進めるうえで大きな障害となっているのが、はぎとった土などの保管場所だ。基本方針では、各自治体に仮置き場を設け、処分場は国の責任で確保することになっている。

ところが、菅首相は福島県知事に対し、同県内に「中間貯蔵施設」を整備せざるを得ないと述べた。今の段階で、唐突に新たな保管施設のことを持ち出しても、混乱を招くばかりだ。

処分場の確保も含め、除染は簡単な問題ではない。きちんと手順を踏みつつ、綿密に計画を作る。同時に作業は急がなければならない。

毎日新聞 2011年08月28日

除染基本方針 もっと住民の立場で

東京電力福島第1原発から放出された大量の放射性物質が人々の生活を脅かしている。除染が緊急課題となっているのに政府の対応は遅い。

抜本的除染が開始されるまでの緊急措置として公表された「基本方針」も中途半端だ。もっと住民の立場に立って、きめ細かい除染計画を立ててほしい。

まず、問題なのは、詳しい汚染状況がわからないままに線量に応じた除染方針を示していることだ。これでは、地域でどのように除染を進めればいいのか、わからない。

政府は詳しい汚染地図作りを進めているが、本来、こうした地図を示した上で除染方針を示すべきだ。地図を公表する際には、改めて汚染状況に即した具体的な除染方策を示してもらいたい。

「基本方針」が掲げる目標にも首をかしげる。被ばく線量を2年後に「子どもで60%減少」「一般市民で半減」というものだが、3カ月後、半年後にどの程度の削減をめざすのか、はっきりしない。しかも、削減の40%分は風雨など自然による減衰を見込んだものだ。あくまで推定値であり、これに頼るのは問題だ。

国と自治体の役割分担にも疑問がある。「基本方針」は放射線量が年20ミリシーベルト以下の地域では市町村が主体となって除染を行うと位置づけている。住民の意見を聞きつつ、実情にあった除染計画を立てるのは当然だが、地域に丸投げされては困る。

緊急の除染は地域で行うとしても広範囲の除染を中長期的に行うには国が責任を持って全体計画を立て、費用も負担する必要がある。その際には、国内外から技術を集め、専門家集団の知恵も借りて技術評価することが重要だ。水で洗い流した放射性物質が農業用水に流れるといった2次汚染への配慮も欠かせない。

さらに問題なのは、除染によって生じる土壌などを、地域の「仮置き場」に保管するという方針だ。

大量の汚染土壌が出ることを思えば、こうした応急措置ではとても対応できない。2次汚染の懸念もある。後で新たな受け入れ先を見つけるのも困難だ。

専門家からはコンテナを使った処分方法などが提案されている。政府は、封じ込めの国際的な技術動向も見極め、長期的な処分法の確立と処分地の決定を急がねばならない。

高線量地域の住民にとっては、除染すれば帰宅できるのか、長期に立ち入り禁止となるのかの判断は、死活問題だ。政府は、地域ごとの除染の可能性も含め、はっきりした指標と支援策を示すべき時だ。

次期政権には、きちんとした科学的データに基づき、今後の暮らしの指針を示してもらいたい。

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