朝日新聞 2011年08月26日
ロ朝首脳会談 日本も変化に遅れるな
北朝鮮の金正日総書記が、ロシアのメドベージェフ大統領と初めて会談した。
ロシア政府によると、総書記は核問題の6者協議に条件をつけずに復帰し、その際に大量破壊兵器の実験を一時停止する用意があると語ったという。
当たり前の発言でしかない。もともと国際ルールを無視して核開発をしているのだ。一方的に抜けていった6者協議に戻ることに、条件などつけられるはずもなかろう。
それに何より、目下の最重要課題であるウラン濃縮問題について言及していないのだから、まったく評価に値しない。
一方で両首脳は、ロシア極東から北朝鮮を経て韓国につなぐ天然ガスのパイプラインを敷く事業に合意し、具体的に詰めていくことにした。
天然ガスの売り先を、いまの欧州中心からアジアにも広げたいロシアと、通過料という外貨収入を得られる北朝鮮の利害が一致したということだろう。
だが、北朝鮮が本気で進めようというなら、まずは韓国との冷え冷えとした関係を修復しなければなるまい。南北間で協議し、合意ができて初めて、ガス管事業が動き出す。
それができるかどうか。先の訪中時より太ったように見えた総書記の対応に注目する。
一方で、ロシアの積極的な動きからも目が離せない。
北朝鮮問題では「中国頼み」が目立ち、このところロシアは埋没気味といえた。そんな現状を打開する意図が、このロ朝首脳会談には込められていた。
さらに来年、極東のウラジオストクで開くアジア太平洋経済協力会議の首脳会合をにらみ、成長センターのアジアに本格的に参入していくという狙いもあったろう。
ロシアは資源、エネルギー、電力などの面で、東アジアでも影響力を強めてきている。その潜在力を生かして、北朝鮮をめぐる状況を好転させる役割を担えるはずだ。
日本の政治が内向きになり、外交が停滞している間も、各国はしたたかに動いている。
東アジアでも、中朝は友好を誇示し、米朝間の協議も始まった。そして、今回の金総書記の9年ぶりの訪ロである。
北朝鮮問題も、やっと協議再開を探るきっかけができつつある。こうした環境の変化に、日本も機敏に対応し、乗り遅れないようにしよう。
北朝鮮政策や資源戦略に、日本はいかに主体的にかかわっていくのか。ポスト菅政権は速やかに答えを出さねばならない。
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毎日新聞 2011年08月26日
露朝首脳会談 新展開に的確な対応を
北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記がロシアを訪問し、メドベージェフ大統領とは初めてとなる首脳会談を行った。プーチン前大統領との最後の会談から9年ぶりのことであり、新たな動きとして展開が注目されている。
しかし肯定的な流れにつながるかどうかは分からない。日米韓は今後の動向を冷徹に見定め、的確に対応する必要がある。
ロシア側の発表によれば、金総書記は核問題を扱う6カ国協議への無条件復帰と、協議を通じて核・ミサイルの実験凍結に応じる用意があることを表明した。前向きの変化と見えなくもない。
だが翌日の北朝鮮側報道を見るとそうとは言い切れない。「無条件復帰」の言及は、日米韓が北朝鮮によるウラン濃縮活動の中断などを6カ国協議再開の条件としていることをとらえ、「その条件を外せ」と求めているようにも読める。核などの実験凍結への言及はない。あてにならないと考えざるをえまい。
一方、ロシアから北朝鮮経由で韓国に至る天然ガスパイプラインの建設に関しては、北朝鮮側も肯定的に報じている。金総書記がロシア入り早々、極東最大級の水力発電所を視察したことなどを考え合わせれば、北朝鮮は年間1億ドル以上とされるパイプライン通過料だけでなく、ガスそのものや電力の支援も得ようとしている可能性がある。
この計画について韓国は既にロシアと覚書を交わしている。北朝鮮経由という「リスク」への懸念がある一方、南北関係改善のきっかけになるという期待もあるようだ。ただ、早期実現は困難だろう。
近年、北朝鮮はエネルギーや食糧の多くを中国からの支援に頼り、核実験や韓国への武力攻撃などで国際的ピンチに陥った時も結局は中国に救われるのが常だった。
しかし、中国は無条件で北朝鮮の要求に応じるわけではなく、改革・開放への誘導もするし、場合によっては圧力もかける。金総書記がこの対中依存の弱みを嫌ってロシアに接近し始めた可能性は十分ある。
ロシアも東アジアで中国の影響力ばかり強まるのは不満であり、6カ国協議での存在感が薄いのも不本意だろう。金総書記の来訪を前に計5万トンの食糧支援を開始し、影響力拡大に強い意欲を示した。
以上のような動向は、まだその将来を見通せる段階にない。ただ、深刻な事態を想定することはできる。例えばロシアが北朝鮮のウラン濃縮活動を「平和利用」として容認し、中国も同調するような場合だ。6カ国協議は日米韓と中露朝の対立の場になってしまう。こういう展開は何としても回避せねばならない。
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