こんなに市場と投資家、監督当局をあなどったやり口は珍しいだろう。証券取引等監視委員会は、仏大手証券BNPパリバの東京支店に金融商品取引法違反で行政処分などを下すよう、金融庁に勧告した。
不正は2件ある。第1は昨年11月、東京証券取引所の取引終了間際、ソフトバンク株に大量の買い注文を出して取引を成立させなかった作為的相場形成の疑いだ。
パリバは同株にまつわる複数の金融派生商品(デリバティブ)契約を結んでいたが、この日の相場の終値が決まれば、大量の現物株を買い付けてデリバティブ契約を終わらせる必要があった。そこで、大量の買い注文を高値で出し、「買い気配」のまま値がつかなくなるよう工作したとされる。
動機はデリバティブ解消に伴う様々な負担の回避にあり、貪欲(どんよく)に利益を狙ったわけではないという。しかし、市場への投資家の信頼を踏みにじる行為であることは間違いない。同支店は02年にも終値の操作で業務停止命令を受けている。内部管理体制は一体どうなっているのか。
東証では、いろんな銘柄の終値が異常に乱高下する現象が頻繁に起き、かねて問題視されてきた。パリバは氷山の一角だろう。監視委や東証には厳重な監視を求めたい。
不正の第2は、昨夏に破綻(はたん)した不動産会社アーバンコーポレイションが発行した転換社債(CB)をパリバが引き受けた際、秘密の裏契約をしていた問題に由来する。
この契約でアーバンは調達したはずの300億円をパリバに渡し、パリバはCBを株式に転換して市場で売った金額の9割をアーバンに渡すことになっていたという。差額の1割がパリバに入る。アーバンは結局、必要な金額を調達できず、経営破綻した。
この件で、パリバは昨年11月に金融庁から業務改善命令を受けたが、その際にパリバが提出した報告書に事実と異なる記載がいくつもあった。売買審査など管理体制も報告書とは裏腹に、ずさんなものだった。
だが、意図的に事実を隠した「虚偽報告」だったのかどうかまでは、わかっていない。監視委は、パリバが業務改善命令に違反した点を重視しているが、このアーバン事件の全体をみれば、市場と投資家を裏切った不正という印象はぬぐえない。
勧告を受けた金融庁は、厳正な処分を下すべきである。
不正の背景には、目先の成果を重視する報酬体系の問題もあるという。金融危機後、主要国間で報酬規制が議論されているのは当然だ。
中長期的な業績に連動させるように改めるなど、常識にかなった報酬体系に手直しすることも必要だろう。
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