民主党代表選 政策とその実現の道筋を示せ

朝日新聞 2011年08月28日

代表選告示 海江田さん説明不足だ

民主党代表選が告示され、過去最多の5人が立候補した。党内の最大勢力を率いる小沢一郎元代表は、海江田万里経済産業相を支持し、前原誠司前外相らと対決する構図になった。

だが、代表選がまたも「脱小沢」か「親小沢」かという対立に終始するようでは、民主党政権に展望は開けない。不毛な内紛を乗り越えるために、ここは候補者同士が政策論争の真剣勝負をしなければならない。

その際に、とりわけ立ち位置を問われるのは、菅内閣の重要閣僚でありながら、菅路線を否定する小沢氏らのグループに推される海江田氏だ。

菅内閣は東日本大震災の復興財源を賄う臨時増税と、社会保障を維持するための消費税率引き上げの方針を決めた。その内閣の一員だった海江田氏は共同責任を負っている。にもかかわらず、公約に「増税なき復興」や消費増税の先送りを掲げているのは、どうしたことか。

政府・与党で厳しい議論を重ねて、やっとまとめた方針を白紙に戻すつもりなのだろうか。

政権公約の見直しについても、しかりである。

海江田氏は、菅政権で「マニフェストが弊履(へいり)のごとく捨てられている」と批判する。それでは「子ども手当」の見直しなどで、自民、公明両党と交わした3党合意を反古(ほご)にしてしまいたいのだろうか。

そんな対応をすれば、両党の協力を得られず、何より急がれる復興のための第3次補正予算の成立に支障をきたすのは明らかだ。

エネルギー政策でも、海江田氏はきのうになって突然、「40年以内に原発ゼロをめざす」と表明した。菅首相の「脱原発」路線に疑問を呈していたのに、なぜ一変したのだろうか。

日本記者クラブでの共同記者会見でも、「小沢氏の処遇」などで海江田氏に質問が集中しがちだったが、政策的にも説明が足りない。きょうの党主催の公開討論会で答えてほしい。

各候補者の主張を並べてみれば、自民党との大連立などに差異がある。なかでも最も違いが鮮明なのは「増税」への姿勢だ。政府の増税方針の堅持を掲げる野田佳彦財務相を除いて、他の4人は濃淡はあれど、後退した見解が多い。

私たちが懸念してきた通り、幅広い支持獲得を狙って、あえてあいまいにする作戦なのだろう。だが、それは「次の首相」として無責任過ぎる。

政府・与党の方針を転換するという候補者は、明確な対案と成算を示すべきだ。

毎日新聞 2011年08月29日

民主党代表選 どうする年金・医療 これも「待ったなし」だ

短期日程であるうえに、候補者たちは支持を拡大しようとして主張があいまいになる。民主党代表選は心配していた通り政策論争が消化不良のまま29日の投票を迎える。

とりわけおざなりだったのは年金や医療・介護などの社会保障政策だ。来年は診療報酬と介護報酬の同時改定が行われる重要な年だ。本来なら超高齢化社会に向け持続可能な制度への抜本改革に総力を挙げているべき時期にもかかわらずである。

「国民の生活が第一」「暮らしのための政治を」。09年総選挙の民主党マニフェストの冒頭にはこんな言葉が並んでいた。実行への工程表の項目も上から(1)子ども手当(2)公立高校の無償化(3)年金制度改革(4)医療・介護の再生--となっていた。上位に掲げた年金や医療・介護の改革を期待した国民は多かったろう。

代表選はマニフェスト見直しの是非が確かに争点になった。小沢一郎元代表と鳩山由紀夫前首相が推す海江田万里氏はマニフェストの大幅な見直しには否定的で、前原誠司氏ら他の候補者は見直しに柔軟な姿勢を見せている。主張の違いは具体的には明確でない。だが、実は同じ党とは思えないくらい鳩山政権と菅政権の社会保障へのスタンスが違っていたことをまず確認する必要がある。

鳩山政権が行ったのは生活保護の母子加算復活、障害者のサービス利用料負担の軽減、児童扶養手当の父子家庭への拡大などだ。年金や医療など本丸には手をつけず、バラマキ色が強かった。当初案の子ども手当は、理念だけでなく財源面からも「控除から給付へ」の重要な変更を秘めていたが、実際には自民・公明政権時代の児童手当に国費を上乗せしただけの「張りぼて」だった。

世界に例のない急速な高齢化が進む中、国内総生産(GDP)の2倍近い借金でかろうじてしのいでいる国家財政を考えれば鳩山路線が破綻するのは明らかだった。

菅政権はマニフェストを小手先でつじつま合わせする路線を転換し、財源も含めた社会保障の抜本改革を打ち出した。しかし、独自の方策があったわけではなく、実態は自公政権時代の社会保障改革にただ乗りしようとするものだった。ねじれ国会で与野党が合意しないと実現できないとの菅直人首相の考えが間違っていたとはいえない。だが、与野党協議に軸足を置こうとすると今度は民主党内がまとまらない。政権の行き詰まりを象徴する話だろう。

果たして鳩山、菅両政権の失敗を乗り越えられるか。待ったなしの課題のはずなのに、誰が代表になっても疑問が残るといっておく。

読売新聞 2011年08月28日

民主代表選告示 「内向き」論戦では国を誤る

民自公路線を前に進めたい

これを機に日本が再生するという明るい展望を抱けない、そんな論戦のスタートである。

「ポスト菅」を選ぶ民主党の代表選が27日告示された。政治の停滞を打破し、国難に立ち向かうリーダーには誰がふさわしいのか。多数派工作に終始する「内向き」の選挙にしてはなるまい。

親小沢対脱小沢の再来

立候補したのは、前原誠司前外相、馬淵澄夫前国土交通相、海江田万里経済産業相、野田佳彦財務相、鹿野道彦農相の5氏だ。

菅政権を支えてきた主流派が、前原氏と野田氏に割れた。中間派が鹿野氏と馬淵氏で、反主流派は、党内最大勢力を率いる小沢一郎元代表や、鳩山前首相が、海江田氏の支持を決めた。

小沢氏は、政治資金規正法違反で強制起訴され、党員資格停止処分を受けている。鳩山氏も「政治とカネ」の問題をうやむやにし、米軍普天間飛行場の移設問題をはじめ、数々の失政を繰り返して首相退陣に追い込まれた。

そんな2人が代表選を「民主党の原点回帰か、菅政権の継続かの戦い」と位置づけ、勝敗のカギを握ろうとしているのは異様というしかない。国民には、到底納得し難いのではないか。

「親小沢」か「脱小沢」か。小沢氏の主張や手法の是非が今回も政治的な争点になっている。

海江田氏は、「小沢先生の力を借りなければ代表選の勝利はおろか、日本は救えない」と述べた。小沢氏の処分解除も示唆した。

政党が手続きを踏んで機関決定したことを軽視していないか。この点でも、「処分を決めた現執行部の判断を尊重する」とした前原氏との違いは明らかだ。

鳩山政権では幹事長だった小沢氏の力が大きく、首相を背後から、コントロールするような「二重権力」構造と言われた。

「海江田政権」が誕生すれば、そんな事態が再現するのではないかと懸念せざるを得ない。

公約大幅見直しが筋だ

小沢氏がこだわる政権公約(マニフェスト)について、海江田氏は、「古くなったわらじのようにうち捨てられている」として、大幅な見直しには否定的な考えを示している。

だが、マニフェストの抜本的な見直しは、民主、自民、公明3党合意の前提である。野田氏は「公党間の信頼にかかわる。誠心誠意対応する」とし、前原氏も「現実にあったものに進化させていく」と語っている。

菅首相、岡田幹事長も国民にマニフェストの不備を謝罪した。極めて甘い財源見通しのもとでバラマキ政策を盛り込んだマニフェストを改めるのは当然である。

マニフェストの見直しが重要なのは、民自公路線を推進できるかどうかに直結するからである。

日本記者クラブの共同記者会見で、前原氏は、自公両党などとの時限を切った大連立に言及した。野田氏は、ややトーンダウンし、両党との協議を進め、「発展した形」の連携を目指すと述べた。

馬淵氏は大連立には慎重で、海江田氏は反対の立場だ。

新政権が取り組むのは、本格的な震災対応となる第3次補正予算案編成、消費税率引き上げを前提とした社会保障制度の再構築、衆参両院の選挙制度改革、米軍普天間飛行場の移設問題など重要課題ばかりだ。

それを円滑に処理するために、自公両党と責任を共有する形の政治体制を模索するのは妥当な考え方である。大連立を目指す、その過程で、野党との人間的な信頼関係を築くことが重要なのだ。

衆参ねじれ国会で、野党との連携は欠かせない。政策を実現するための戦略を持たないようでは、首相はつとまらない。

政策実現する戦略持て

民主党政権の反省点を問われた前原氏は、党の政策決定のあり方を見直すと言明した。野田氏も「役所を萎縮させない政治主導」を唱え、鹿野氏は「野党時代と変わらず、政権を担うのが重いとの認識に欠けた」と指摘した。

いずれもその通りだ。民主党の分裂と、誤った「政治主導」が政権を混乱させた。何より、首相が責任感に乏しく、指導力不足だった。財政危機や外交・安全保障に対する認識も甘かった。

復興増税の議論から逃げてはならない。原発事故を踏まえたエネルギー政策については、地に足のついた見解を示すべきだ。

民主党議員は、日本のかじ取り役を決める重要な選挙であることを肝に銘じて明日の投票に臨んでもらいたい。

朝日新聞 2011年08月26日

代表選に問う 原発政策の具体論を

民主党代表選で国民が最も注目する政策テーマのひとつが、原発問題をはじめとするエネルギー政策だろう。

原子力への依存は徐々に下げるが、当面は安全性を確保しながら既存の原発を動かし、代替エネルギーの育成に努める――立候補予定者の立ち位置はおおむねそんなところだ。

無難だが、次のリーダーを選ぶための材料としては物足りない。憲法改正といった長期的・理念的なテーマと異なり、エネルギー問題はまさに足元で進行中の現実的な課題だ。党代表に選ばれ首相になった瞬間から、次々に判断を迫られる。

明確なビジョンを持たず、場当たり的に対応していては人々の安全や経済活動、国際社会の信認を大きく損ねかねない。

原発・エネルギー政策の将来目標と手順を事前にしっかりと描いておくことは、首相に就くための最低条件だ。短い選挙戦だからこそ、主要な論点についての具体的な見解を、きちんと示してもらいたい。

菅首相は、打ち出し方や手法に問題はあったものの、(1)原発は新増設を認めず、将来はゼロにする(2)定期検査後の再稼働には厳格なテストを課す(3)独占を維持してきた電力体制にも切り込む、という方向性は明確にした。自然エネルギーの普及を前倒しで実施することも国際社会に明言した。

各候補者にはまず、この路線を踏襲するのか否かを明らかにしてほしい。最終的に原発は全廃するのか、一定の原子炉は残すのか。依存率を下げるにあたって、どんな基準で原発を仕分けし、どのくらいの期間をかけるのか。

原発を維持する考えなら、根拠も含めて堂々と自分の考えを述べて、説得したらいい。

当面、既存の原発を動かすためのルールや安全性をどう担保するか。今冬、来夏に予想される電力不足にどう対応するかといった喫緊の課題もある。

自然エネルギーを普及させるには電力体制の見直しは避けて通れない。発電と送電の分離や電力取引の自由化という改革にまで切り込むかどうか。そこには新しい産業や雇用という成長の種があると私たちは考える。

与野党を問わず電力改革派を結集していく覚悟と粘り腰がなければ、政官業労に学界をも巻き込んだ複合体が堅持する権益構造を崩すのはむずかしい。

だが克服できれば、政党間のねじれを超えて、政治主導で新しい経済社会を築く土台ができる。新しいリーダーには、そういうパワーが必要だ。

毎日新聞 2011年08月28日

民主代表選告示 乱戦は政策で決着を

民主党代表選が告示され、過去最多の5氏が名乗りを上げた。本命不在の乱戦となり、情勢は混とんとしている。

2度の内閣の失敗を経て民主党は政権担当能力を問われる文字通りの瀬戸際にある。政策不在の集票合戦に陥らぬためにも、各候補は政権の目標と運営のあり方を明確に示し、短期決戦にのぞまねばならない。

前原誠司前外相、馬淵澄夫前国土交通相、海江田万里経済産業相、野田佳彦財務相、鹿野道彦農相が出馬した。出馬に転じた前原氏と最大勢力を率いる小沢一郎元代表の接点を探る動きも一部にあったようだが結局、小沢元代表系が海江田氏を支持する構図となった。密室談合によらず、候補が公開の場で政見を競うことは当然である。

構図が固まらず政策論争は大きく出遅れたが、告示を受けた共同記者会見からは主要な論点と姿勢の違いがそれなりに浮かんだ。

復興財源について野田氏が時限増税を説いたのに対し、前原氏は当面の増税に慎重論を展開した。馬淵、海江田、鹿野氏は増税によらぬ建設国債活用などを主張した。

自民党とのいわゆる「大連立」について、前原氏は代表となった場合に呼びかけることを明言した。積極姿勢だった野田氏は「大連立」という言葉を用いず、野党との信頼関係構築を強調した。

違いがはっきりしなかった課題もある。政権公約の見直しは5氏とも理念を維持しつつ内容は見直す考えを示し、具体的な差が見えにくかった。菅直人首相が主導した「脱原発依存」路線への対応もエネルギー政策のビジョンを語らなければ、スタンスはわからない。

税と社会保障の一体改革への取り組みも濃淡はあるが、なおあいまいだ。支持を広げようと主張をぼやかす意識が働いているのではないか。

小沢元代表への姿勢ももちろん、大きなポイントだ。党員資格停止処分とした現執行部方針の継承を前原氏が明言したのに対し、海江田氏は処分見直しをするかも含め対応を明確にしなかった。より踏み込んで、説明しなければならない。

政権交代を実現した民主党だが「政治主導」「脱官僚」につまずき旗印を見失い、内紛に明け暮れる現状は存続の危機と言っても過言でない。こうした状況を招いた責任は決して、菅首相のみに帰せられるものではあるまい。その反省こそが必要だ。

乱立状況の中、多数派工作は激しさを増している。29日の投開票を政策課題や政権運営方法など党の指針を確認する場とできないようでは、新代表が選ばれても同じ混乱が繰り返されるだけである。

読売新聞 2011年08月26日

民主党代表選 「挙党態勢」で争点をぼかすな

鳩山、菅両政権の失政をしっかり検証し、政権党として生まれ変わるための党内論争を急ぐ必要がある。

民主党の代表選まであと3日となった。立候補予定者への事前説明会に計9陣営が出席し、候補乱立の様相だ。

これだけ投票までの期間が短いのに、ほとんどの立候補予定者が、政策、政権構想を示していないのはどうしたことか。

名前の挙がった政治家が皆、日本の(かじ)取りをする覚悟と見識、経験があるのか、甚だ疑問だ。一部は売名や閣僚ポスト狙いと見られても仕方があるまい。

多数派工作に奔走するばかりで、論争を避けようとの空気が広がっていることも問題である。

前原誠司・前外相によると、支援を要請した小沢一郎元代表との間で、政権公約(マニフェスト)の見直しでは、考え方に大きな違いはなかったという。

だが、前原氏は、必要なところは見直すべきだとして、自民、公明両党との3党合意を順守する考えだったはずだ。

小沢氏は「国民との約束がある。枝葉の問題は別として基本的な理念はなお追求する」と、マニフェスト堅持の姿勢をとっている。

マニフェストの見直しは、民自公路線か否かとも関連する、最も重要なポイントである。

前原氏は「挙党一致」を隠れ(みの)にして、マニフェスト堅持派との論戦を避けてはならない。これを曖昧にすると党内での路線対立が遠からず再燃し、野党との協調関係を崩す恐れがある。

震災復興の増税問題では、前原氏や海江田経済産業相らは慎重派だ。積極的だった野田財務相も、「いろんな意見を踏まえて対応する」とトーンダウンした。党内の反対論に配慮したのだろう。

しかし、日本の財政は世界でも最悪の水準で、その健全化が急務なのは誰の目にも明らかだ。財政への危機感のない政治家に、日本の舵取りができるはずがない。

その観点からも、政府・与党が積み上げてきた政策決定のプロセスを大事にしてもらいたい。

政府・与党は、社会保障と税の一体改革で消費税率を10%へ引き上げるという成案を得ている。野党側と協議に入る段階なのに、民主党内で根強い慎重論に乗じて「ちゃぶ台をひっくり返す」ようなことは避けるべきだ。

立候補するなら、自らの政策を明確に示して支持を求める必要がある。代表選を候補乱立のお祭り騒ぎにしてはならない。

毎日新聞 2011年08月26日

民主党代表選 どうする外交 瀬戸際の自覚が乏しい

東日本大震災以降の日本はずっと外交不在の状態が続いてきた。復興対応で手いっぱいの政権、首相退陣を巡り政争を繰り返す与野党--。そうした閉塞(へいそく)感に終止符を打ち、外交を正常な軌道に戻すことは、次期首相の重要な課題である。

にもかかわらず、民主党代表選に出馬意欲を示す政治家の口から、外交や安全保障に関する発言がほとんど聞かれないのはどうしたことか。数合わせや小沢一郎元代表との距離感だけに焦点があたる、内向きの代表選であってはならない。

周辺では、関係主要国が活発で巧妙な外交を展開している。

例えば米中だ。バイデン米副大統領が中国や日本を歴訪して帰国したが、中国には6日間滞在し、次のリーダーである習近平国家副主席との親密な関係づくりに精力を注いだ。退陣直前の菅直人首相と儀礼的に会談し、正味2日間の滞在だった日本とは対照的だ。その中国は24日、尖閣諸島周辺で漁業監視船が日本領海に侵入するなど、民主党の対中姿勢を改めて試すかのような行動をみせている。一方では、極東地域の政治的経済的影響力を競う中露の確執もここにきて目立ってきた。

来年は中国の共産党指導部交代をはじめロシア、米国、韓国で大統領選が行われる節目の年だ。各国が2012年を念頭に置く外交戦略を練る中で、政治の停滞が続く日本は、地域の新たな秩序構築や国益競争で大きく後れをとっている。

次期首相の外交課題はいずれも待ったなしのものばかりだ。

仕切り直しとなった日米安保共同宣言の後始末や、宙に浮く米軍普天間飛行場移設問題の打開。年内の宿題である新首相の訪中と、李明博(イミョンバク)韓国大統領の訪日。秋の東アジアサミット(EAS)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で顔を合わせる各国首脳たちの前で、いかに発言力と存在感を示すかも厳しく問われよう。それらを考え抜いたうえで、首相になる決意を固めているのかどうか。候補者は自らの覚悟を語るべきである。

継続性を軽視し、地に足のつかない理念先行の外交で失敗したのが、民主党政権の2年間だった。官邸の戦略機能強化は実現せず、外交当局の情報とネットワークも活用できなかった。政権をとるため党内対立を封印し、「日米同盟と東アジア共同体」「第3の開国」「対中戦略」といった根幹の政策でコンセンサスづくりを怠ったことが、外交迷走の原因だ。

その反省を踏まえ、日本が瀬戸際にあるとの自覚を持って、真剣な外交論戦を聞かせてほしい。

読売新聞 2011年08月25日

民主党代表選 日米関係再構築の方策を語れ

菅首相の退陣直前という時期だけに、内容の濃い協議ができなかったのは、残念である。

バイデン米副大統領が来日し、菅首相と会談した。首相は、「国内の政治情勢」のため9月前半の自らの公式訪米を延期したことを陳謝した。

公式訪米は元々、今年前半に予定され、日米同盟深化の共同文書を発表するはずだった。今回は再延期だ。民主党政権発足以来の日本外交の迷走を象徴している。

民主党代表選を経て近く選出される新首相は、外交の立て直しを優先課題と位置づけ、まず日米関係の再構築に取り組むべきだ。

9月下旬の国連総会、10月の東アジア首脳会議、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)と首脳外交が続く。ただ、国際会議時の2国間会談は、時間的制約から踏み込んだ協議はしづらい。

極力早く訪米を再設定し、同盟強化の道筋をつけたい。6月の日米安保協議委員会(2プラス2)でまとめた共通戦略目標や防衛協力策を基に、安全保障、経済、人的交流など幅広い分野の共同文書を作成することが求められる。

菅首相は、日米同盟を重視すると言いながら、米軍普天間飛行場移設や環太平洋経済連携協定(TPP)参加の問題で何ら汗をかかなかった。肝心なのは行動だ。

新首相は、普天間問題の前進へ指導力を発揮すべきだ。TPPについても、自由貿易体制下で日本の国際競争力を維持するため、米ハワイでのAPECまでに交渉参加を決断せねばならない。

バイデン副大統領は来日前、6日間かけて中国を訪問し、次の最高指導者に内定している習近平国家副主席らとの関係を深めた。

一連の会談では、米中関係の強化で一致する一方、中国側は、台湾問題など中国の「核心的利益」への不干渉や、米国経済の再建を注文したという。

大国化を背景に自己主張を強める中国を、国際社会と協調し、責任ある行動を取る方向へ誘導することは日米共通の課題だ。

米国が東日本大震災で日本を真剣に支援した一因は、アジアで日本が一定の外交力を保ち、中国を抑制する役割を担い続けることを期待しているためとされる。

日本は、中長期的にいかに中国と向き合っていくのか。そのために、米国と連携し、どんな役割を能動的に果たすのか――。

新首相を目指す民主党代表選の候補は、党内の多数派工作に走るだけでなく、そうした外交戦略を明確に語る責任がある。

毎日新聞 2011年08月25日

民主党代表選 どうする原発 将来像を明確に語れ

東京電力福島第1原発の事故で、原発の「安全神話」が崩壊し、原発への依存度を高めてきたわが国のエネルギー政策は、大きな転換を迫られている。新首相になるはずの民主党の新代表は、その歴史的転換のかじ取りを任されることになる。代表選の候補者は、自らが描く原発・エネルギーの将来像をはっきりと示し、信任を得るよう努めるべきだ。

菅直人首相は「脱原発」を唱えたが、政府としての方針にはならなかった。政府の公式見解は、エネルギー・環境会議が7月末に中間整理としてまとめた「減原発」だ。「段階的に原発への依存度を引き下げる」という方向は、評価できる。

しかし、これは政策転換への出発点に過ぎない。中間整理は、再生可能エネルギーを普及させつつ電気料金を抑制する方策、使用済み核燃料を再処理して高速増殖炉などで再利用する「核燃料サイクル」の見直し、発電事業者と送配電事業者を分離する「発送電分離」の検討など、多くの課題を列挙したにとどまる。

こうした課題への答えを盛り込んだ具体策は、来年夏にまとめることになっている。つまり、「減原発」に具体的な道筋をつける役割は、次期政権に委ねられたわけだ。

しかし、それを受け止めるべき候補者からは、そうした課題に取り組む決意も熱意も伝わってこない。

立候補を表明した前原誠司前外相は「自然体でいくと原発は40年でなくなる」という前提を置き、その間は「原発に依存しながら代替エネルギーを開発していく」という姿勢だ。野田佳彦財務相、海江田万里経済産業相らも「減原発」を将来的な課題としつつ、「当面、原発によるエネルギーの安定供給は不可欠」などと原発維持にも理解を示し、態度ははっきりしない。

電力危機を懸念する産業界への配慮や首相に選ばれた後の「ねじれ国会」対策など、旗幟(きし)を鮮明にしたくない理由はあるのかもしれない。

しかし、福島の原発事故は事故が起きた場合の被害の甚大さ、周辺住民の「ふるさと」さえ奪いかねない脅威を見せつけた。原発は危険度の高いものから閉鎖し、依存度を引き下げていかなければならない。次期政権は、少なくとも「減原発」の方向性を引き継ぎ、具体化を急ぐべきだ。

これまで2代の首相による民主党政権では、政局への思惑や首相の個人的な思いつきで政策がゆがめられることがあった。原子力政策をめぐって、その轍(てつ)を踏むことがあってはなるまい。そのためにも、候補者たちはここで、自らの原発・エネルギー政策を具体的に語る必要がある。

読売新聞 2011年08月24日

民主党代表選 政策とその実現の道筋を示せ

国難に直面する日本をどう立て直すのか、各候補予定者は、政策論議を尽くしてもらいたい。

民主党代表選で、新たに前原誠司前外相が出馬を表明した。代表選の構図は一変しそうだ。同じ主流派の野田財務相に対し、党内の支持が広がらないことから、不出馬の意向を固めていた前原氏が翻意した。

中間派や非主流派からは、海江田経済産業相、鹿野農相、馬淵澄夫前国土交通相らも出馬に意欲を示している。

民主党を支えてきた菅首相と鳩山前首相、小沢一郎・元代表のいわゆる「トロイカ」が出馬しない代表選となる。新生・民主党を築くきっかけとすべきである。

民主党は代表選を27日告示、29日投開票とする方針だ。31日に会期末を迎える今国会中に首相指名選挙を終えるためだという。

政治空白を長引かせたくないとの判断だが、拙速と言えよう。党内の政策論争に加え、政権発足に向けた野党との協議が必要だ。今国会中の新首相選出にこだわらなくても良いのではないか。

新代表が直面する課題は、内政、外交とも山積している。まず、東日本大震災からの復興を急ぐことだ。巨額の復興財源を増税によってどのように捻出するのか、明確な方針を打ち出す必要がある。

このほか、電力危機を克服するエネルギー政策や人口減社会での成長戦略の策定、歴史的な円高への対応、環太平洋経済連携協定(TPP)参加の是非などがある。菅政権のように場当たり的な対応を繰り返してはならない。

各候補は、早急に自らの政策を練り上げ、活発な政策論戦を繰り広げる必要がある。相互不信に陥っている政官関係も見直さなければなるまい。

政策の実現に向け、野党とどう連携するかも極めて重要だ。ねじれ国会の下では自民、公明など野党との信頼を深めなければ、安定した政権運営はおぼつかない。

懸念されるのは、一部の候補が、党内最大グループを率いる小沢氏の支持を得ようとして、与野党協議で積み上げた合意事項を反古(ほご)にする方向に動いている点だ。

小沢氏に対する党員資格停止処分を見直すかのような発言さえあることは理解しがたい。票ほしさに処分を見直すというのでは国民から到底理解を得られまい。

小沢氏は、政権公約(マニフェスト)の抜本的な見直しには慎重で、民自公路線にも否定的だ。小沢氏の主張通りでは、新政権の運営は困難になるだろう。

毎日新聞 2011年08月24日

民主党代表選 どうする増税 願望ではなく現実論で

民主党政権となり間もなく2年。2度の予算編成を経て、借金の積み増しや小手先のつじつま合わせでは、もはや持たなくなったことがはっきりしたはずだった。しかし、結局何を学んだのだろうと思わずにはいられない発言が、ポスト菅候補とされる政治家からも相次いでいる。

前原誠司前外相が民主党代表選立候補を表明し、党内の支持獲得に向けた各陣営の動きが本格化しそうだ。根拠に乏しい楽観論で目先の人気取りや駆け引きに終始するのではなく、将来の国家像を念頭に置いた、正直で責任ある論争を願う。

最も注目したいのは、震災復興にかかる費用の財源をどう考えているかだ。政府は、来年度予算でも今年度同様、国債費を除いた歳出を71兆円以下、新たな国債の発行を44兆円以下に抑える方針を決めている。歯止めをかけなければ、いずれ長期金利が高騰するなどして経済が深刻な打撃を受ける恐れがあるからだ。

ただし、巨額の追加借金が避けられないにもかかわらず震災復興関連は別枠扱いになった。そんな勝手が許されるのは、通常の国債とは違い、臨時増税などで短期的に返済しきる“あて”をはっきりさせる条件付きだからである。

ところが、候補者として名が挙がっている人たちの多くが増税には反対か慎重な立場だ。「復興に水を差す」「景気を冷え込ませる」という理屈は分かりやすいが、財源の裏付けがなければ、基本的に単なる国債の増発に過ぎない。

借金を増やしても今まで問題がなかったのだから今後も大丈夫だ、というのはあまりにも楽観的すぎる。我々は超低金利の今でさえ、毎年、約10兆円も国債の利払いに費やしている。格下げなどを機に1~2%でも金利が上昇すれば、兆の単位で費用がかさむ。市場の不安は一気に高まり、金利はさらに上昇するだろう。そうなってからでは大変だ。

税と社会保障の一体改革に伴う消費税引き上げにしても、復興増税にしても、「まず景気をよくしてから」という主張が多い。だが、景気を言い訳にした先送りの結果が、国債の発行残高だけでも670兆円という借金の山ではないか。

景気は海外の事情にも大きく影響される。いつよくなるかを正確に予測して増税の制度設計をするなど不可能に近いし、そのような余裕など日本の財政にはないはずだ。

都合の悪い話題は協調してあいまいに、では党として信頼を失う。互いに見通しの根拠や最悪のシナリオへの備えについて追及し合うような討論を披露してほしい。

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