リビア首都陥落 難題は「カダフィ後」の国造り

朝日新聞 2011年08月23日

リビア カダフィ後への支援を

リビア情勢が急展開した。カダフィ政権が抑えていた首都トリポリに反政府勢力が攻勢をかけ、大部分を制圧した。トリポリからの映像では、人々が通りでカダフィ氏のポスターを引き裂き、「解放」を唱えて小躍りするなど、「革命達成」の歓喜が広がっている。

カダフィ氏自身は姿を隠しており、なお予断を許さない。しかし、2人の息子は反政府勢力に拘束されている。42年にわたるカダフィ体制の支配は実質的に崩れたと見ていいだろう。

リビアの民主化デモは、今春のチュニジアやエジプトでの民衆革命の達成の後に始まった。6カ月にわたり抵抗を続けてきた反体制勢力の粘り強さに敬意を表したい。

リビアでの動きは「アラブの春」の大きな進展である。政府による民衆への弾圧が続くシリアや、混乱が続くイエメンの動きを加速させよう。アラブ・中東では、ほかにも非民主的な政治や体制がはびこっており、民主化を求める動きへの追い風となるだろう。

リビア情勢はこの数カ月内戦状態になり、安保理決議に基づく軍事介入が始まった。英仏軍主導の空爆では民間地区への誤爆もあり、限界が表面化していた。今回、リビア民衆の主体的な動きで首都攻勢が成功したことで、内戦が長期化して国際社会が泥沼に入ることが避けられたともいえる。人道目的の軍事介入における反省としたい。

旧体制の決定的な崩壊が進むなかで、「カダフィ後」のリビアの再建、とくに民主化の実現に向けて、国際社会はすぐに動き始めなければならない。新生リビアの建設は、とてつもない新たな困難を伴うだろう。

カダフィ体制は部族を中心とした伝統社会の上に、社会主義直接民主制を唱える「ジャマヒリヤ体制」だった。憲法も、国家元首も、議会もないという特殊な制度であり、結果的には、無冠のカダフィ氏が部族を束ねる部族長のような権力と権威を独占した。

これが崩れた後、民主主義のルールも制度も存在しない。まさにゼロからの出発となる。

反体制派の中でも、カダフィ体制から離反した旧政権幹部や部族勢力が影響力を持つ。新しい時代を開くためには、憲法制定や選挙実施など民主化プロセスを一つずつ実現して、政治や社会の仕組みを作っていかねばならない。

旧体制を打破して終わりではなく、これからがリビアの試練の始まりである。日本を含む国際社会の支援が求められる。

毎日新聞 2011年08月24日

リビア政変 新たな国造りに団結を

「中東の暴れん坊」も、ついに土俵を割ったようだ。国連安保理決議に基づいて国際的な軍事支援を受けるリビアの反政府勢力が首都トリポリをほぼ制圧した。なお流動的な要素もあるが、最高指導者として40年余り君臨したカダフィ大佐の時代は事実上終わった。国際刑事裁判所は同大佐ら3人に「人道に対する罪」で逮捕状を出している。市民への無差別発砲など非人間的な行為を続けた政権が崩壊するのは当然だ。

リビアの政変を歓迎する。ラクダに乗って国際会議などに現れ、野外テントに寝泊まりするカダフィ大佐は、型破りの指導者として愛されもした。かつては激しい米国批判で庶民の喝采を浴びもした。だが、彼自身が国民に慕われる政治をしてきたかといえば、そうではない。

著書「緑の書」では、51%の多数派が49%の少数派を抑え込むことこそ独裁だとして議会制民主主義を批判した。だが、哲学的に見えるその口ぶりも、権力を独占する方便にすぎなかったようだ。リビアの豊富な石油収入も、もっぱら大佐の支持勢力に振り向けられてきた。

まずは戦闘の犠牲者を悼み、カダフィ後のリビアに民主主義が根付くことを期待したい。チュニジアとエジプトに続くリビアの政変で、中東・北アフリカの政治地図は一変した。特に、地中海をはさんで北アフリカと向き合う欧州諸国にとってリビアが変わる意義は大きい。シリアやイエメンなどの民衆運動を活気づかせることにもなろう。

欧米などの軍事支援は誤爆が相次ぐなど難航したが、最終的には成功した。今後は政治的な支援が重要になる。日本は欧米と協力してリビアの再出発を積極的に支援すべきだ。反政府派は民主化と法の支配を柱とする新たな国造りにまい進してほしい。団結が大切だ。チュニジアやエジプトを見れば分かるように、国造りの「生みの苦しみ」はむしろ政権を倒した後でやってくる。

新政権の土台となるリビアの国民評議会は、自分たちへの日本の支持表明が遅すぎたと不満を持っているという。リビアでは石油関係、建設、通信など多くの分野に日本企業が進出していたが、最近は中国や欧州諸国に押されて日本の存在感が薄れているとの声もある。それはリビアに限った話ではなかろう。

「アラブの春」と呼ばれる民衆運動は中東各地に飛び火し、日本の石油輸入の約9割を占める地域が激変している。原発事故で将来のエネルギー戦略が問われている日本としては、明確な戦略が必要だ。民主化を求める民衆を支援して、日本の存在感を高めたい。それはエネルギーをめぐる国益にもつながるだろう。

読売新聞 2011年08月23日

リビア首都陥落 難題は「カダフィ後」の国造り

北アフリカの産油国リビアで、最高指導者カダフィ氏の42年にわたる独裁体制が、崩壊への秒読みに入った。

東部から広がった独裁打倒の波は、ついに首都トリポリに達した。

反体制派の蜂起による内戦が始まって半年、米英仏の軍事介入から5か月が過ぎた。この間に多数の犠牲者が出たのは痛ましい。

カダフィ氏はなお、徹底抗戦を叫んでいるが、これ以上の流血は許されない。リビア再建のため、直ちに戦闘をやめ、身を引くべきである。

カダフィ氏は改革を求める国民の声に耳を貸さず、傭兵(ようへい)を使って武力弾圧一辺倒で応じた。それが政権崩壊の引き金となった。国民の武力抵抗と欧米諸国などの軍事介入を招き、孤立化した。

リビア同様に、国民の民主化要求デモを武力弾圧し続けているシリアのアサド政権には、強い警告となるだろう。

リビア情勢は、東部を制圧した反体制派と首都を拠点に西部を掌握するカダフィ政権側との間で、一進一退の攻防が続いていた。

だが、カダフィ政権は、国際社会の経済制裁や、北大西洋条約機構(NATO)が指揮した空爆と海上封鎖で補給路を断たれた。これでは自滅するしかあるまい。

元首相や石油相が政権から離反するなど、政権幹部のカダフィ氏への忠誠心は()せ、政権側部隊の士気が衰えたのも当然だ。

反体制派が頑強な抵抗に遭遇せずに首都に進攻できたのは、その証しと言える。

反体制派による首都完全制圧が成功しても、難題が待ちかまえている。「カダフィ後」の新体制をどう築くかという問題である。

リビアには、エジプトやチュニジアと異なり、憲法や議会制度を持った経験がない。

カダフィ氏は「人民大衆による直接民主主義」を掲げたが、それは名ばかりで、カダフィ一族の恣意(しい)的統治に過ぎなかった。独裁崩壊は、ゼロからの国家再建を迫ることになる。

リビアには、封建的な部族社会が残っている。反体制派はさまざまな部族や諸勢力の寄せ集めであり、部族対立が社会を不安定化させる可能性も常にあろう。

反体制派を代表する「国民評議会」は、「正当な対話相手」「リビアの代表」として、国際的に認知されつつある。日本を含む国際社会は当面、この評議会と連携を深め、リビアの再建と安定化への道を模索していくべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/808/