朝日新聞 2011年08月18日
泊原発の運転 次は厳しい新基準で
定期検査中だった北海道電力の泊原発3号機が、きのう営業運転に入った。東日本大震災後に営業を再開した原発は、これが初めてになる。
といっても、泊3号機は震災以前に実質的な点検を終えており、3月7日から試運転にあたる「調整運転」を始めた。すでにフル運転に入っており、電力を供給してきた。
通常は調整運転で問題が生じなければ1カ月程度で営業運転に移るが、震災を挟んだために5カ月以上も続いた。実態は営業中と変わらないのに法的な手続きを中途半端なままに置くことは、責任の所在をあいまいにし、好ましくない。
政府は震災後、定期検査で止めた原発を再開する際には、地震や津波などの負荷にどこまで耐えられるか計算する「ストレステスト」の1次評価を受けるよう義務づけた。
しかし、フル運転をしている泊3号機は「営業中の原発と同等」と政府は判断して、1次評価の対象から外したうえで、すべての原発に対して行う2次評価の対象とした。
この夏、電力不足は東日本にとどまらず全国的な問題だ。とくに北海道は、被災地東北へ連日60万キロワットを融通している重要な供給源でもある。これらの状況を考えると、営業運転への移行は理解できる。
ただし、原発の安全性に懸念をもつ人が多いことにも、十分に留意する必要がある。
15日には北海道大の吉田文和教授ら道内の大学関係者50人が緊急声明を発表した。
泊原発は93年の北海道南西沖地震で影響を受け、近くの日本海沖に活断層群があると指摘されていることなどを例示。北電が今後とる安全性向上策も、時間をかけすぎで緊張感が欠如していると批判した。再開に同意をとる地元の範囲も、今より広げるべきだと主張している。いずれも、もっともな指摘だ。
泊3号機は、震災後初の営業再開というよりも、震災前の検査基準で再開した最後の原発、と考えた方がいい。
したがって、これから検査を終えて再開する原発は、新基準に沿って安全性を厳しく問わなければならない。安全向上のために、吉田教授らのような指摘も反映させることが大切だ。
そして、危険が見つかれば再開させない。これが大原則であることに変わりはない。
政府が電力需給見通しなどの情報を公開し、原発を減らしていくスピードを設定することが、大原則実行の基盤になることを改めて指摘しておきたい。
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毎日新聞 2011年08月18日
泊原発 リスク評価は万全か
定期検査で調整運転を続けていた北海道電力泊原発3号機の営業運転を知事が認め、原発は営業運転に移行した。
定期検査の最終段階にあたる調整運転が5カ月以上続く異例の事態が解消されたとはいえ、疑問は残る。
政府は、定期検査中の原発の再稼働には、「安全評価(ストレステスト)」の1次評価を義務づけている。一方、稼働中の原発は2次評価の対象となる。泊原発3号機は定期検査中でありながらフル稼働していた。電力供給の面では営業運転と変わらず、判断が難しい面はあった。
しかし、本質的な問題は、いずれの評価の対象とするかではない。東京電力福島第1原発の重大事故を踏まえ、現段階でできる最善のリスク評価をし、地域住民や国民に説明する。それを踏まえた上で、営業運転に移行するのかどうか判断する。これが、電力会社や国に課せられた義務だ。
にもかかわらず、再開の手続きをめぐる混乱からはリスク評価を踏まえて決めようとする意思が伝わってこなかった。安全性の議論を置き去りにして、国も地元自治体も、政治的やりとりに終始した印象が強い。
これでは、住民の安心も、国民の信頼も得られないのではないか。
現時点で、福島の事故を踏まえ各原発がとっている対策は緊急措置にすぎない。泊原発でも、移動発電機車の配備や仮設ポンプの配備、水素を外部に放出する手順の整備や、がれき撤去用の重機配備などを実施しているが、いずれも応急措置だ。
リスクへの懸念が払拭(ふっしょく)されているわけではなく、北海道電力は営業運転移行で胸をなで下ろしていてはいけない。今回は「仮免許」と認識し、安全評価をより積極的に進め、その情報を迅速に公開していかなくてはならない。
政府は、今回のケースに対応し、原子力安全・保安院の検査に加え、原子力安全委員会の二重チェックを受けることで収拾を図ろうとした。だが、安全委は「法的に意見する立場になく、政府の要請もない」と、独自の判断は示さなかった。
政府、保安院、安全委のすれ違いは、これまでも繰り返されており、安全性への信頼感を損なうものだ。
原発事故以降、安全規制にたずさわる組織も、安全基準そのものも、信頼性を失った。信頼できる新組織や安全基準ができるまで、個々の組織が最善を尽くす覚悟が必要だ。
原発の営業運転再開は事故以来初のケースだが、他原発の再稼働への追い風とみるのは間違いだ。再稼働や運転継続は、それぞれの原発のリスク評価に応じて行うべきで、電力会社には厳格な対応を求めたい。
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読売新聞 2011年08月18日
泊原発営業運転 電力危機回避の一歩にしたい
定期検査で3月から調整運転を続けていた北海道電力の泊原子力発電所3号機が、ようやく営業運転に移行した。
高橋はるみ道知事が容認した。東京電力福島第一原発の事故後、原発の営業運転再開は全国で初めてだ。
高橋知事が政府に対し、徹底した安全対策を求めたうえで、決断したのは妥当である。政府と北海道電力は、引き続き、泊原発3号機の安全運転に全力を挙げねばならない。
泊原発3号機は、大震災前の1月に定期検査に入り、3月7日に調整運転を開始していた。試運転に相当するもので、通常なら1か月程度で営業運転に移行する。
しかし、福島原発事故の影響で政府の原子力政策が迷走し、原発への不信感が高まった結果、調整運転期間は5か月間以上に及んでいた。異例の事態と言えよう。
局面を打開するため、政府は、営業運転の前提となる経済産業省原子力安全・保安院の最終検査に加えて、内閣府原子力安全委員会にも意見を求める「ダブルチェック」を打ち出した。
定期検査の終了の判断に関し、道と地元自治体の了承を得るという特別な手続きを踏んだのも、やむを得なかっただろう。
泊原発3号機は、調整運転中もフル稼働状態で送電していた。営業運転への移行は、現状の追認であって実質的な変化はない。
それにもかかわらず、地元の同意を得るまでに相当の時間がかかった。原発再稼働へのハードルの高さを示している。
今後の焦点は、定期検査などで停止中の原発に、運転再開への流れが広がるかどうかである。
全国の原発54基のうち、泊原発3号機など稼働している15基も、来春までにすべてが定期検査のため運転を停止することになる。
政府は、原発が想定以上の地震や津波に襲われた場合の安全性を確認するストレステスト(耐性検査)を2段階で実施する。
定期検査を終えた原子炉については、重要機器に絞った1次評価によって、再稼働の可否を判断するルールが決まっている。
一時、再稼働寸前にこぎつけた九州電力玄海原発の2、3号機も、地元の佐賀県などの、政府と九電に対する強い不信感から、再稼働の見通しは立っていない。
政府は、ストレステストを早急に実施することで原発の安全性を確認し、地元自治体の理解を求めるべきだ。原発を再稼働させて電力危機を回避する責任がある。
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