人権侵害を受けた被害者の救済をどう図るべきか。江田法相らが新たな救済機関を設置する基本方針を公表した。
小泉内閣時代の2002年に国会に提出され、廃案となった人権擁護法案の内容を大幅に修正し、新たな法案として提出し直すという。
旧人権擁護法案は、救済機関に裁判所の令状なしで立ち入り調査できる強い権限を持たせていた。報道による人権侵害も救済対象と明記し、救済機関が取材停止を勧告できる条項まで設けていた。
これらについて、「民間人など調査される側の人権が不当に侵されかねない」などと強い批判を浴びたため、今回は、救済機関に強制力を持たせていない。任意の調査にとどめ、調査拒否に対する罰則も盛り込まなかった。
メディア規制条項も削除されている。こうした点は妥当だ。
メディア側はこれまで、報道による人権侵害をなくすべく、「集団的過熱取材」に至らないよう業界内でルールを設けたり、有識者らによる第三者委員会を設置して報道を検証したり、様々な取り組みを進めてきている。
報道による人権侵害の防止については、メディアの自主規制に任せるべきだろう。
疑問なのは、救済機関を法務省の外局に置くとした点だ。
全国の法務局や地方法務局を、救済機関の地方組織として活用したい狙いがあるようだ。しかし、救済機関の独立性と公平性を確保するには、やはり法務省ではなく内閣府に置くのが筋である。
刑務所や少年院など法務省の施設で、入所者が刑務官から暴行を受ける事例が相次いでいる。同じ省の下の機関がこんなケースを厳正にチェックできるだろうか。
地域で人権侵害の情報収集や調査にあたっている人権擁護委員の選任資格について、基本方針は、現行の人権擁護委員法と同じく地方選挙権を持つ人に限定している。外国人は委員になれない。
だが、民主党は永住外国人への地方選挙権付与に前向きだ。そうなれば、外国人が委員になる可能性もあり、不透明さが残る。
根本的な問題もある。基本方針には、どのような行為が人権侵害に当たるかが示されていない。人権侵害の定義があいまいだと、救済機関の恣意的な解釈が入り込み、通常の言論・表現活動まで調査対象になりかねない。
新設の救済機関が新たな人権侵害を引き起こす余地のないよう、さらに検討を尽くすべきだ。
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