米国債格下げ 市場の動揺防ぐ財政再建策を

朝日新聞 2011年08月09日

米国債格下げ 世界危機への連鎖防げ

初の米国債格下げ。収まらない欧州の債務問題。そして歴史的な円高ドル安――。財政赤字をめぐる不安が世界経済を揺るがす危機に発展しかねない。

そんな切迫感から主要7カ国(G7)が動いた。電話による緊急の財務相・中央銀行総裁会議を開き、財政再建や為替安定などで結束するとの声明を発した。機敏な反応を歓迎する。

米国債は長く世界で最も安全な金融資産とされてきた。その最上位の格付けを、大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が初めて引き下げた。債務上限の引き上げなどをめぐる米議会の政治的混乱から、本格的な財政再建への展望が暗い点を重く見た。

政府債務問題は「その国が返済できるかどうかではなく、返済する気があるかどうかの問題だ」(ボルカー元米連邦準備制度理事会議長)といわれる。まさにこの点への疑義が募った。米政府と議会に財政再建策の拡充を改めて求めたい。

ムーディーズ、フィッチという他の大手は最上位の格付けを維持した。相対的に信用が高く、発行量も多く、市場取引も活発な金融資産として、米国債に代わるものは他に見当たらない。投げ売りが広がる恐れは少ないとみられている。

ただし、格下げの間接的な影響だけでも無視できない。投資家は米国債のリスクが高まった分、もっと危ない投資対象を減らして対応する可能性が高い。株式や格付けの低い債券への影響が心配だ。まず懸念されるのが、すでに欧州で燃え上がっている政府債務危機の火に油が注がれることだ。

G7の緊急声明は、欧州が先に決めた欧州金融安定化基金の強化策を加盟国が早く承認して実行するよう催促している。イタリアの不安を抑え込むため、安定化基金の拡大にも急ぎ取りかかってほしい。

緊急声明はドル安と為替相場の混乱を防ぐため、協調介入もにおわせた。日本は戦後最高値に迫る円高の進行を押しとどめたい。だが、ドル安は日本だけの問題ではない。昨秋のような通貨安競争の再燃は避けなければならない。

進行中の危機は根が深い。市場の圧迫に耐え、景気悪化を防ぎ、しかも財政再建を進める。そんな3正面作戦に向けて主要国が腰を据えて協力できるかどうか。中国など新興国にも連携の輪を広げられるか。そして米国債の格下げで進むであろう国際通貨秩序の多極化にどう対応するか。山積する課題に、広い視野で当たってほしい。

毎日新聞 2011年08月10日

連鎖株安 不安心理に流されるな

史上初の米国債格下げを受けた世界の株式市場で、相場が一段と下落し衝撃が走った。特に注目されたニューヨーク市場では、ダウ工業株30種平均が1日の下落幅として08年末以来最大の634ドル(5・5%)も下げた。これが翌日の東京市場を再び揺さぶり、日経平均株価は一時、400円以上も値下がりした。

今回の世界株安連鎖は米国債の格下げのみならず、複数の大きな要因がからみあい進行している。即効力を期待できる政策も残っておらず、それが悲観論に拍車をかけている。

ただ、株式市場でのパニック的な売りに関心が集中する中、ひとまず安心させられた動きや前向きの変化があったことにも目を向けたい。

まず、格下げにもかかわらず米国債が買われたことだ。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による格下げの影響で最も恐れられたのは、米国債が急落(長期金利は急騰)し、ドル安に歯止めがかからなくなる事態だった。将来的にはわからないが、まずは「株より安全」と見なされ米国債は逆に買われた。

欧州でも前進があった。欧州中央銀行がイタリアとスペインの国債を市場で買い支える決断をしたことだ。その結果、両国の国債利回りは大幅に改善した。財政統合までの前途は険しいが、信用不安に陥った加盟国をユーロ圏全体で支える仕組みの強化に、つなげてもらいたい。

世界の株式市場が安定を取り戻し反転を始める道筋はまだ見えない。混乱が続けば日本経済への影響も決して小さくないだろう。しかし、不安心理に負けることなく、やるべきことを着実に実行していくのが、結局、回復への近道となるはずだ。

まず、政府としては東日本大震災の復興に全力を挙げることである。海外の主要国がそろって景気後退懸念にさらされている中、これから復興が本格化する日本経済には成長期待が集まっている。早期に復興を果たすことが、被災地はもちろん、日本経済にも世界経済にも貢献することになるのである。

企業はどうか。円高の負の面ばかり強調されがちだが、一方で円高を追い風に拡大している企業も増えている。調査会社トムソン・ロイターによると、1~6月の日本企業による海外企業の買収は金額、件数ともに上半期として過去最高を記録した。円高のうちに、そのメリットを最大限享受できるような戦略を練り、実行していきたいものだ。

9日の東京株式市場は急落後、かなり値を戻した。割安感が出れば反転するのが株式市場である。日々の変動を過度に悲観し、自ら景気を冷やしたり、成長の扉を見過ごしたりすることのないようにしたい。

読売新聞 2011年08月09日

G7緊急声明 問われる具体的な協調行動

日米欧が連携して、米国債の格下げによる金融市場の混乱を回避する決意を明確にした。

しかし、その効果は限定的で、市場の不安感は払拭できていない。より具体的な政策協調が問われよう。

日米欧の先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は8日朝、緊急に電話で協議し、共同声明を採択した。東京やアジア市場が開く直前に会議を開いたのは、市場の動揺を警戒し、先手を打ちたいG7の危機感の表れだ。

共同声明は、「金融安定化と成長を支えるためにあらゆる手段を講じる」と表明した。さらに「必要な場合は協調行動を取る」とし、資金供給によって市場を下支えする姿勢も明らかにした。

先週末、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、米国の財政再建の見通しを厳しく評価し、米国債の格付けを史上初めて引き下げた。

声明は直接、この問題に言及しなかったが、ドルの信認が一段と揺らぎ、世界的な株安連鎖と、ドル売りが加速しかねない正念場を迎えている。

米国と欧州の財政赤字削減策に関し、声明は「断固たる行動を歓迎する」と指摘した。市場が評価できるような着実な財政再建を米欧に促すことで、混乱の沈静化を狙ったのだろう。

8日の東京株式市場の株価は前週末比202円安と下落した。アジア市場でも株価が値下がりした。為替市場では、1ドル=78円をはさんだ取引が続いた。

ひとまず、株価の暴落や円急騰は回避できたが、先行きは不透明である。市場はG7の一段の行動を求めているとみるべきだ。

欧州では、ギリシャなど財政赤字国の国債利回りが軒並み上昇している。中でも、信用不安が広がっているイタリアとスペインが市場の焦点になりつつある。

G7声明と連動する形で、欧州中央銀行(ECB)がさっそく、両国の国債を買い入れる方針を決めた点は評価できる。ECBは仏独と連携を強め、危機の封じ込めに全力を挙げてほしい。

日本としては、円相場が再び、1ドル=76円台に急騰する事態を防がねばならない。日本が4日に単独で実施した円売り介入の効果が早くも薄れている。

G7声明が過度な為替変動をけん制し、「緊密に協議し、適切に協力する」と明記した意義は大きい。ドル急落と超円高の阻止へ、日本は米欧との協調介入も含め、断固たる姿勢で臨むべきだ。

読売新聞 2011年08月07日

米国債格下げ 市場の動揺防ぐ財政再建策を

世界で最上級だった米国債の格付けが、史上初めて引き下げられた。

“格下げショック”を受け、週明け以降、世界同時株安や、ドル安に拍車がかかりかねない。市場の動揺を食い止めるには、米国の着実な財政再建策が不可欠である。

米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、米国の長期国債格付けを最上級の「AAA(トリプルA)」から、「AA(ダブルA)プラス」に1段階引き下げた。

S&Pは国債格下げの理由として、「中期的な財政安定化が不十分」と指摘している。

オバマ大統領と与野党は、政府の借金枠である債務上限の引き上げと財政再建で合意し、10年間で2・4兆ドルの赤字削減を柱にした予算管理法が2日に成立した。

しかし、具体的な赤字削減策を巡る主張の隔たりは大きく、削減幅も大統領の当初案だった3兆~4兆ドルに比べて小さい。S&Pはこうした状況を評価し、格下げを決めたと言えよう。

米国政府は格下げに反論したが、予算管理法の実効性が厳しく問われている。

大統領と与野党は歳出カットと増税を含めた協議を加速し、市場の信認を得られるような財政再建の方策を打ち出すべきだ。

一方、今回の格下げが、世界の金融市場に与える悪影響を懸念せざるを得ない。

米欧経済の減速をきっかけに、ニューヨーク株式市場の平均株価は4日、500ドル超も急落し、5日も乱高下した。欧州や日本などアジア市場でも、軒並み、株価が全面安となった。

外国為替市場では、政府・日銀の円売り介入で超円高にいったんブレーキがかかったが、再び、ドル安圧力が強まっている。

国債格下げでドルに対する信認がさらに揺らぐと、債券市場を含めた混乱は避けられまい。

日本は中国に次ぐ世界2位の米国債の保有国だ。国債下落の影響にも注意する必要がある。

当面の焦点は、米連邦準備制度理事会(FRB)が9日開く会合で、景気てこ入れのため、追加緩和策に踏み切るかどうかだ。

財政赤字を抱えた政府は景気刺激策に動きにくく、FRBに期待する声は強い。ただ、追加緩和策は円高ドル安を誘導し、日本には厳しい展開も予想される。

世界経済は、主要国の結束で金融危機を克服した後、景気拡大を続けてきた。危機の再燃を防ぐ連携が改めて求められよう。

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