GDPプラス 本格回復へ詰めを誤るな

毎日新聞 2009年08月20日

プラス成長復帰 経済の土台固める時だ

今年4~6月期の実質成長率は前期比0・9%となった。5四半期ぶりのプラス成長回復である。年率換算では3・7%となる。

昨年秋以降の景気の急落に4次の景気対策が講じられたことを勘案すれば、プラス成長は予想されたことである。ただ、名目成長率は前期比でマイナス0・2%、実質の前年同期比もマイナス6・4%である。まだ安心できる状況にはない。

総選挙後が自民・公明連立政権でも、民主党中心の政権でも、国民の安心実現や経済の活力回復に取り組まなければならない。そこで重要なことは適切な経済の現状把握だ。4~6月期の国内総生産(GDP)速報から何を読み取るべきなのか。

第一は、外需寄与度が1・6%だったのに対して、内需はマイナス0・7%だったように、外需主導のプラス成長ということだ。内需には景気の先行きに好影響を及ぼすだろう在庫減らしが0・5%分あることを勘案しても、内需が弱いことは否定できない。

これを象徴しているのが家計の弱さである。家計最終消費支出は前期比では3四半期ぶりに増加したものの、前年同期比では0・9%減である。雇用者報酬が前期比でも前年同期比でも減少している中では、家計に元気は出てこない。完全失業率や有効求人倍率の悪化に表れているように、雇用状況がはかばかしくないことと合わせて、やるべきことは多い。官民で経済の土台を固める取り組みを急ぐべきである。

第二は、企業部門の調整は急速に進んでいるということだ。民間企業設備投資は前期比で5四半期連続、前年同期比で4四半期連続の減少となった。その一方で、鉱工業生産は4月以降、前月比で増加している。在庫の減少も前向きの動きである。

ただ、民間設備投資は03年度から06年度まで高い増加が続いており、設備能力は余剰状態にある。内外を問わず需要回復がカギとなる。4~6月期の消費を押し上げたエコカー減税や家電のエコポイントの効果はいずれ消える。

第三は、景気対策による需要追加がはげ落ちる後をどうするのかである。09年度補正予算の効果は年度半ばまでは期待できるだろう。その後、経済が自律的に上向くことが最良のシナリオだが、その保証はない。与野党とも4~6月期の速報値などをふまえ、年度後半の経済運営を分かりやすく示す必要がある。家計を元気付けるというのであれば、所得拡大をもたらす施策が欠かせない。

最近まで危惧(きぐ)されていた二番底の恐れは、それほど大きくはないとみられるものの、家計が弱い状況では順調な回復は期待薄だ。

読売新聞 2009年08月18日

GDPプラス 本格回復へ詰めを誤るな

景気の下げ止まりが数字で確認されたが、腰折れの危険が完全に去ったわけではない。

4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比0・9%増、年率換算で3・7%増と、5四半期ぶりにプラス成長となった。

海外景気の持ち直しで輸出が増加に転じたほか、国内需要でも、景気対策の恩恵を受けた消費や公共投資が伸びた。

戦後最悪のペースだった景気の急落は止まったが、年換算の実質GDPは526兆円と、1年前より約40兆円少なく、回復の実感は乏しい。本格回復の実現へ、政策の詰めを誤ってはならない。

今回のプラス成長は、外需主導だった。4~6月期は、中国などアジアの多くの国が高い成長率となったほか、欧米もマイナス幅が縮小し、電子部品や自動車など、主力品目の輸出が回復した。

とはいえ、海外経済の先行きは不透明感が強い。日本経済が安定した回復軌道に乗るかどうかは、内需の力強さにかかっている。

GDPの6割を占める消費がプラスに転じたのは明るい材料だ。特に家電や自動車など耐久消費財の消費が大幅に増えた。エコカー購入時の減税や補助、省エネ家電のエコポイント制度など対策の効果が大きかった。

補正予算で追加された公共投資も、約10年ぶりの高い伸びとなり、GDPを押し上げた。

昨夏から政府・与党が相次いで打ち出した景気対策は、財政悪化の副作用を伴ったが、景気の底割れを防いだ点で、妥当な政策判断だったと評価できよう。だが、対策の効果が出尽くせば、消費や公共投資の息切れが心配になる。

政策で下支えしているうちに、雇用・所得の改善による消費拡大など、内需の自律回復への移行が望まれるが、見通しは厳しい。

失業の増加が続き、ボーナスや残業のカットで労働者の収入も減っている。失業対策や生活支援を粘り強く続け、状況に応じて追加策もためらうべきでない。

消費と並ぶ内需の柱の設備投資も長期低迷が続いている。投資減税の追加など、企業を元気づける政策がさらに必要となろう。

足元の回復に安心して、公共事業削減など緊縮政策に転換することは、厳に慎まねばならない。

政局の都合で来年度予算の編成が遅れ、政策遂行に支障が出る事態も避けるべきだ。総選挙の結果、どの党が政権を担うことになっても、「景気最優先」の経済政策を続けねばならない。

産経新聞 2009年08月21日

雇用・景気公約 自律的な成長促す戦略を

4~6月期の国内総生産(GDP)は前期比0・9%増、年率換算3・7%増と昨年1~3月期以来5四半期ぶりにプラスに転じた。エコカー減税などの対策が消費を下支えし、対アジア輸出も回復してきたからだ。

しかし、雇用情勢の悪化が続いており、景気の先行きは楽観できる情勢にない。企業業績の改善を確かにし、雇用拡大、消費回復にいかにしてつないでいくか。

そうした目標に照らせば、衆院選の自民党、民主党双方の選挙公約は心もとない。財政支出による経済の下支え策に腐心するだけで、経済の自律的成長につながる明確な戦略がないからだ。

雇用対策について自民党は「3年間で100万人に職業訓練」と主張、民主党は「時給1000円の最低賃金」などを公約に掲げている。自民の職業訓練は失業者の選択肢を増やすことにつながり評価できるが、民主の最低賃金引き上げは現行水準から300円弱上げる必要があり、中小企業の雇用減と倒産を誘発しかねない。

安全網は整備しなければならないが、問題は雇用問題の根っこが解決しないことだ。社会保障制度の維持を考えれば、正社員としての雇用が基本だ。同時に、働く人の3分の1以上に達している非正規労働者をどうするかを含めた働き方の視点から考えるべきだ。

派遣労働について自民は30日以内の派遣を原則禁止、民主は派遣会社に事前登録し、仕事があるときに働く登録型派遣や製造業への派遣を禁止すると主張する。

しかし、派遣労働規制が強化されれば、労働者は働く機会が制限され、企業も景気動向に応じた雇用の調整手段が狭まる。現状を踏まえれば、「同一価値労働・同一賃金」によって正規と非正規労働の垣根を低くする政策誘導を本質的に議論しなければならない。

その上で自律的経済成長を促して雇用創出につなげる政策が求められる。自民は「3年間で200万人の雇用確保」と具体的数字を挙げるが、実現への道筋と根拠が希薄だ。民主は「内需主導型に転換」を目標とするが、子育て支援まで成長戦略に含めるなど言葉だけで裏付けとなる政策がない。

輸出に過度に頼る経済のもろさは昨年秋以降の景気悪化で十分に味わった。財政出動や補助金頼みは緊急避難の政策だ。自民、民主は中長期を見据えた成長戦略の構想を練り直すべきだろう。

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