東京電力福島第一原子力発電所の事故被害に対する賠償の範囲や対象を定めた「中間指針」がまとまった。
本格的な賠償に向けて前進したことになる。原発事故で大勢の人が避難や休業を余儀なくされ、経済的な被害は甚大だ。政府と東電は、被害救済を着実に実現していかなければならない。
政府の原子力損害賠償紛争審査会は、5月末の2次指針で、避難費用や精神的な苦痛、農産品の風評被害などへの賠償を認める方針を示していた。中間指針では、対象の範囲をさらに広げた。
例えば、外国人観光客のキャンセルによる観光業者の損害や、海外の輸入規制に起因する損害などを追加した。
放射性セシウムによる牛肉汚染では、出荷停止に伴う損害や、汚染されたエサ用の稲わらが流通した17道県の風評被害も認めた。
幅広い被害に対する賠償を認定したのは妥当といえる。
カバーする範囲が広い分、これまでの仮払いより、手間も費用もけた違いとなりそうだ。中間指針の見直しで、賠償対象がさらに拡大する可能性もある。
東電は、風評被害も含めた賠償請求は40万~50万件にのぼると見込んでいる。賠償の担当部門を現在の1000人体制から5000人以上に増やし、9月から被害者の請求に対応するという。
東電は、賠償を求められた被害が、中間指針の対象にあたるかどうかを点検し、支払額などを決める。具体的な線引きや算定で、難しい判断を迫られるだろう。
一刻も早い救済を願う被害者は多い。感情的なやりとりになるケースもあるだろう。肝心なのは混乱なく賠償手続きを進めることだ。必要に応じて体制強化を図ってもらいたい。
東電が提示した賠償額に納得できない被害者は、紛争審査会に和解の仲介を求めることができる。それでも折り合わず、最終的に裁判など司法の場での決着をめざす案件も相当数にのぼりそうだ。
裁判所をはじめ法曹界も、紛争処理を円滑に進めるための準備を怠らないでほしい。
東電は事故収束や火力発電などの増加で出費がかさみ、資金繰りが厳しい。賠償を軌道に乗せるには、政府の援助が欠かせない。
すでに東電の損害賠償を公的に支援する「原子力損害賠償支援機構法」などが成立した。
政府は、遅滞なく機構設立や予算の確保を進め、賠償支援の体制固めを急ぐべきだ。
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