原発賠償指針 自主避難にも目配りを

朝日新聞 2011年08月03日

原発賠償指針 自主避難にも目配りを

原発事故による損害の賠償をどこまで認めるか。政府の原子力損害賠償紛争審査会が近く中間指針をまとめる。損害の種類ごとに基準を示すが、線引きが難しい例も少なくない。

避難者に対する賠償は、その代表例だろう。

審査会は、警戒区域や緊急時避難準備区域など、政府や自治体が避難を指示したり要請したりした地域に住む人を対象に、避難に伴う出費や苦痛などの精神的損害、営業や勤務ができなくなったことによる減収分などを賠償対象とする方針だ。

しかし、区域の外に住んでいて自主的に避難した人も対象にしなくてよいか、7月末の審査会の会合でも議論になった。

区域外でも放射線量が多い地点が相次いで見つかっている。そうした場所を、政府が事故から4カ月近くたって特定避難勧奨地点にするなど、避難対策はなお手探りが続く。

やはり自主避難者も賠償対象とするべきではないか。ただ、無制限に認めるわけにはいかない。一定の地域で区切る場合、どの地域の住民を対象とするか、検討を急がねばならない。

審査会の委員からは「審査会の能力を超える。政府として判断してほしい」との声が出ている。確かに難題だが、ここは法律や放射線に関する医療、防護の専門家が集まる審査会の議論に期待したい。少なくとも、検討の視点や材料の提供など、政府の判断を支える役割を果たしてほしい。

中間指針に向けて、検討課題は他にも多い。農林水産物などで、ある品目が出荷停止となったために広く買い控えが生じ、値下がりした分などだ。予約がキャンセルされた観光業者の減収分や、特注部品の仕入れ先が操業を停止したために休業に追い込まれた工場などの「間接損害」もある。

紛争審査会は、花や木材など食品以外でも値下がり分の賠償を認め、海外からの観光客については全国の旅館・ホテルで予約キャンセルに伴う損害を認めるなど、原発事故との間に「相当因果関係」があれば広く賠償を認める方針とされる。基本的な姿勢として納得できる。

ただ、近く関連法案が成立する見込みの賠償の仕組みに照らすと、賠償総額が膨らむほど、電気料金の値上げなど国民の負担増につながる可能性が高まることも事実である。

それだけに、客観的できめ細かい指針が欠かせない。このことを常に意識して、審査会は中間指針をまとめた後も、さらに検討作業を続けてほしい。

読売新聞 2011年08月06日

原発賠償指針 被害救済を着実に前進させよ

東京電力福島第一原子力発電所の事故被害に対する賠償の範囲や対象を定めた「中間指針」がまとまった。

本格的な賠償に向けて前進したことになる。原発事故で大勢の人が避難や休業を余儀なくされ、経済的な被害は甚大だ。政府と東電は、被害救済を着実に実現していかなければならない。

政府の原子力損害賠償紛争審査会は、5月末の2次指針で、避難費用や精神的な苦痛、農産品の風評被害などへの賠償を認める方針を示していた。中間指針では、対象の範囲をさらに広げた。

例えば、外国人観光客のキャンセルによる観光業者の損害や、海外の輸入規制に起因する損害などを追加した。

放射性セシウムによる牛肉汚染では、出荷停止に伴う損害や、汚染されたエサ用の稲わらが流通した17道県の風評被害も認めた。

幅広い被害に対する賠償を認定したのは妥当といえる。

カバーする範囲が広い分、これまでの仮払いより、手間も費用もけた違いとなりそうだ。中間指針の見直しで、賠償対象がさらに拡大する可能性もある。

東電は、風評被害も含めた賠償請求は40万~50万件にのぼると見込んでいる。賠償の担当部門を現在の1000人体制から5000人以上に増やし、9月から被害者の請求に対応するという。

東電は、賠償を求められた被害が、中間指針の対象にあたるかどうかを点検し、支払額などを決める。具体的な線引きや算定で、難しい判断を迫られるだろう。

一刻も早い救済を願う被害者は多い。感情的なやりとりになるケースもあるだろう。肝心なのは混乱なく賠償手続きを進めることだ。必要に応じて体制強化を図ってもらいたい。

東電が提示した賠償額に納得できない被害者は、紛争審査会に和解の仲介を求めることができる。それでも折り合わず、最終的に裁判など司法の場での決着をめざす案件も相当数にのぼりそうだ。

裁判所をはじめ法曹界も、紛争処理を円滑に進めるための準備を怠らないでほしい。

東電は事故収束や火力発電などの増加で出費がかさみ、資金繰りが厳しい。賠償を軌道に乗せるには、政府の援助が欠かせない。

すでに東電の損害賠償を公的に支援する「原子力損害賠償支援機構法」などが成立した。

政府は、遅滞なく機構設立や予算の確保を進め、賠償支援の体制固めを急ぐべきだ。

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