子ども手当廃止 与野党協調への足掛かりだ

朝日新聞 2011年08月05日

子ども手当 メンツより中身詰めよ

民主、自民、公明の3党が子ども手当の見直しに合意した。

現在は、子ども一人あたり月額1万3千円。これを、子どもの年齢や人数で差をつけて、1万~1万5千円を支給する。

来年度からは「年収960万円程度」を基準に、所得制限を設ける、という内容だ。

民主党が鳴り物入りで掲げたマニフェストの目玉政策の失速に、公約不履行という批判も出るだろう。制度の変更で、窓口業務を担ってきた自治体が混乱するのも避けられまい。

だが、この転換はやむをえない。財政が逼迫(ひっぱく)しているなか、公約自体に無理があった。そのうえ、東日本大震災の復興財源を捻出しなければならなくなっているのだ。

問題は、与野党が大騒ぎをした割に、合意の中身が空疎なことだ。肝心の来年度からの制度設計も先送りしている。所得制限を受ける世帯に、どんな目配りをするのか。手当を減らすのか、税金を控除するのか、その額はいくらなのか。

それが定まらないと、捻出できる財源の規模もわからない。

野党にすれば、「民主党のバラマキ4K」の一つを覆し、旧来の「児童手当」を復活させたと胸を張るのだろうが、どれほどの見直しなのかは、まだあやふやだ。

これは3党の折衝が、相手をおとしめようとする政争であり、メンツの張り合いに過ぎなかったからだ。

いったん辞意表明した首相を退陣に追い込むための手順を踏むという側面もあったろう。

本来もっと論ずべきは、安心して子どもを産み、育てられる環境をどのようにしてつくるかだったはずだ。

日本の少子高齢化は、世界に例を見ない速さで進む。このままでは、お年寄りを支えきれなくなる。なのに日本は他の多くの主要国に比べ、子育てを支援する支出が少なすぎる。この現実をどうするのか。

まず、できるだけほかの政策を見直し財源を確保しよう。将来的な年金の支給開始年齢の引き上げなども対象になりうる。

同時に、限られた財源でも成果が上がるよう知恵を出すことだ。現金給付とサービスをどう組み合わせ充実させるのか。

与野党は、子育てを含む社会保障制度改革の協議のテーブルに、一刻も早くつくべきだ。

この見直しを機に、被災地の子どもにもっと目を向けてほしい。放射能の不安にさらされる子どもの健康、親が亡くなったり失業したりした子の教育など、課題は山積している。

毎日新聞 2011年08月06日

子ども手当廃止 メンツ争いの末の迷走

子ども手当を12年度から廃止し児童手当を拡充して復活させることで与野党は合意した。だが、「旧児童手当に戻すわけではない」と玄葉光一郎民主党政調会長は言う。たしかに合意内容を読めばどうにでも解釈できそうだ。細かい制度設計はこれからだが、子育て家庭や自治体を混乱させる政局がらみのメンツ争いはもうやめてほしい。

そもそも子ども手当と児童手当は何が違うのか。「子育ては親の責任」というのが児童手当の背景にある思想だ。72年のスタート時は低中所得世帯の第3子以降に3000円(月)を支給した。お金のない子だくさんの世帯だけを対象に作られた制度だった。その後何度も改正され、政権交代前には0~12歳の児童の9割近くにまで枠が広げられた。支給額も0~2歳が1万円、3歳~小学校卒業までが5000円(第3子以降は1万円)となった。

一方、民主党の当初の子ども手当は「社会全体で子どもを育てる」との考えで、中学生までのすべての子に2万6000円を支給する予定だった。児童手当の財源は国と地方と事業主の負担だが、子ども手当の当初案は全額国庫負担。しかし、財源のめどが立たず、現在は半額の1万3000円にとどまる。財源も児童手当に国費を上乗せしてつじつまを合わせているのが実情だ。

そして与野党協議の結果、10月以降は3歳未満と3~12歳の第3子は1万5000円、3歳~中学生は1万円となった。来年度以降は年収960万円程度の所得制限が設けられ、名称も児童手当へと戻る。野党側が押し切った形に見えるが、支給額を比べると児童手当よりも現行子ども手当に近く、中学生に支給する点も子ども手当と同じ。所得制限で捻出できるのは0・2兆円だ。

さらに所得制限で手当が受けられなくなる世帯には還付や税控除による緩和策を検討するという。年少扶養控除が廃止されたままでは逆に収入が減る子育て世帯が出てくるためだが、緩和策を手厚くすればますます現行子ども手当と変わらなくなる。成り立ちや名称は違うが中身はあまり違わない、カレーライスとライスカレーのようなものか。大震災と原発事故の復旧が遅々として進まず、9万人近くがなお自宅を失っている時に与野党はこういうことに時間と労力を費やしてきたのである。

ところで、野党がこだわる児童手当には問題がないのか。たとえば財源のうち厚生年金の対象となる事業主だけが拠出金を課されるのはなぜだろう。社会状況も子育て環境も大きく変わった。どうせなら今の時代に合った理念に基づく制度に抜本改革してみてはどうか。

読売新聞 2011年08月05日

子ども手当廃止 与野党協調への足掛かりだ

民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた大看板を、ようやく下ろすことになった。

民主、自民、公明3党の幹事長と政調会長が、子ども手当を事実上、廃止することで合意した。

遅きに失した感はあるが、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案の成立へ、ハードルを一つ越えた。民主党執行部は、党内をしっかり取りまとめ、早期成立へ一層努力すべきだ。

子ども手当は、最終的には中学生までの全員に対し、月2万6000円を一律支給する構想で、完全実施されると年に5・5兆円が必要になる。

現在は半額の支給にとどまっているが、それを続けることさえ困難だった。最初から財源の裏付けを欠いた無理な政策であり、加えて、東日本大震災で巨額の復興財源が必要になった以上、廃止するのは当然である。

合意によると、現行の子ども手当の根拠となる「つなぎ法」が切れる今年10月からは、来年3月までの特別措置法で対応する。

10月からの支給額は、3歳未満の全員と3~12歳の第3子以降が月1万5000円、3~12歳の第1、2子と中学生に対しては月1万円となる。

来年度以降は、児童手当法を改正し、所得制限も復活させる。子ども手当が大原則としていた一律支給をやめ、自公政権時代の児童手当の仕組みを拡充する形だ。

子育て家庭の経済事情や子どもの数を考慮し、より必要な家庭に手当を重点配分することは、少子化対策としても経済対策としても有効であろう。

合意に基づいて制度を再設計すると、年に5000億円程度を復興に回すことができる。現実的な方向転換である。

所得制限の具体的な内容など詰め切れていない点は残るものの、社会保障政策の柱の一つで与野党が合意した意義は大きい。

民主党の岡田幹事長は、子ども手当の理念は貫かれていると強弁する。マニフェストを(かたく)なに守ろうとする党内の“原理主義者”の反発を意識したのだろう。

だが、菅首相も岡田幹事長もマニフェストの破綻を認め、国民に謝罪したはずだ。安易に迎合しては将来に禍根を残す。

民主党は、子ども手当以外のばらまき政策も、抜本的に見直すべきだ。それが、建設的な与野党の協力を推し進めることになる。

この現実路線を「ポスト菅」政権にも引き継がねばならない。

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