東京電力福島第一原子力発電所事故の損害賠償を国が支援する「原子力損害賠償支援機構法」が3日、参院本会議で可決、成立した。
国が賠償金の半額以上を立て替える、野党提出の「仮払い法」も成立している。与野党が法案修正で歩み寄り、被害救済へ前進したことは評価できる。
支援機構法は、東電による損害賠償の支払いを、公的資金などで援助する内容だ。
機構を速やかに設立し、賠償開始を急ぐ必要がある。
法案修正では、国が原子力を推進した「社会的責任」を負い、賠償に「万全の措置を講じる」との条文を追加した。原発事業が国策の民間委託である以上、国の責任を明記したのは妥当である。
一方、付則には、原発事故の賠償制度全体や、今回の事故に関する国や東電、株主の負担のあり方について、1~2年後に見直す方針が盛り込まれた。
付帯決議では、東電を「債務超過にさせない」とした6月の閣議決定見直しも求めた。
付則などの解釈によっては、東電を債務超過とし、法的整理する余地を残したとも受け取れる。
しかし、支援法の目的は着実な被害救済と、電力の安定供給にある。国が賠償責任を負う法的な裏付けもないまま、東電を破綻させるべきではない。大きな副作用が起きかねないためだ。
東電は5兆円近い社債を発行している。法的整理になると、電気事業法で社債の返済が優先され、賠償支払いは後回しになる。
東電は、厳しい経営合理化で賠償資金を捻出する義務があるが、損害賠償の余力が残らず、被害の救済に支障が出るだろう。
放射性セシウムによる牛肉の汚染など被害は拡大しており、賠償範囲が際限なく広がる恐れが出ている。国のしっかりした支援が欠かせない。
そもそも、民間の電力会社に無限の賠償責任を負わせている原子力損害賠償法(原賠法)自体に無理がある。
国が代わりに賠償すれば被害者は救われるが、原賠法による国の負担は1200億円までだ。支援機構法で国が「万全の措置を講じる」のは立て替えなどのことで、賠償の義務は負っていない。
国の賠償責任を明確化する原賠法の速やかな改正が必要だ。
菅首相は「脱原発」や「原発国有化」に言及している。東電や原発をエネルギー政策でどう位置づけるのか、展望を示すべきだ。
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