エネルギー政策 客観データの公開を

朝日新聞 2011年08月04日

再生エネ法案 これでは世界に遅れる

国民の関心が高い自然エネルギー普及への意志と戦略を、この政治家たちは持っているのか。首をかしげたくなる。

再生可能エネルギー特別措置法案の修正論議が始まった。その柱は、風力や太陽光などで発電する電力を長期間、固定価格で電力会社に買い取らせる制度だ。自民、公明両党はこの買い取りによる電気代上乗せに上限をつけることを要求し、民主党も受け入れる方向だという。

新制度による買い取り金額は電力代に上乗せされる。この上乗せ分を1キロワット時あたり0.5円を超えさせないとする案が有力になっている。標準家庭だと月額150円にあたる。電気代の急激な上昇を避けるためという言い分だ。

経産省の試算では、これだと総発電量に占める自然エネルギーの割合は2020年までに4~5%しか増えそうにない。

普及をめざす自治体やNPOは落胆している。滋賀県の嘉田由紀子知事は「今の審議のままでは、普及法ではなく阻害法になる」と語り、関西の他の知事とともに批判声明を出した。

明細書に記されていないが、電気代には原発の電源立地交付金などの消費者負担が、1世帯あたり月額300円ほど含まれているとの試算がある。つまり原発のためには、自然エネルギー買い取りに制限を求める人たちがいう負担増上限の、2倍の額がすでに課されている。

電気代は今年に入って上昇している。石油、液化天然ガスなどの化石燃料の値上がりによって、東京電力管内の標準家庭では9月の電気代が2月に比べて月額500円以上高くなる。原発停止によって化石燃料の輸入が増えるので、今後さらに値上がりは避けられまい。

化石燃料の輸入や原発にかかわる負担増には歯止めがなく、自然エネルギーの上乗せにだけ先に上限をつけるのか。国民の理解を得られるだろうか。

自然エネルギー投資を促す、きめ細かで魅力的な制度にすることが法案の狙いだ。買い取り価格は、その目的実現と企業や家庭への影響とのバランスの中で熟考するべきだ。

再生エネ法案は、菅直人首相の退陣3条件の一つだ。成立を急ぐ気持ちはわかるが、自然エネルギーの十分な普及につながらない内容となるなら、本末転倒も甚だしい。

日本は風力発電を伸ばせる場所が多い。太陽光発電には技術の蓄積がある。急速に普及している欧州や中国に追いつき、新産業と雇用創出につなげる。そんな議論を期待したい。

毎日新聞 2011年08月03日

再生可能エネルギー 原発代替は十分可能だ

原発依存からの脱却は短時日ではできない。政府は「短期」「中期」「長期」に分けて考えるという。基本的に賛成だ。現実的なロードマップを描くには時間軸の設定が不可欠である。

短期的には天然ガスによるガス火力発電にシフトするほかない。火力発電所の建設には用地選定まで含めれば通常10年ぐらいかかる。直ちに着手すべきだ。

天然ガスをめぐる状況は一変している。米国で頁岩(けつがん)中のシェールガスを採取する方法が確立し生産量が急拡大した。中国を含め世界中で開発が進んでおり、国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに、世界のガス消費量は50%増加するという。「天然ガスの時代」だ。

脱原発に踏み切ったドイツもガス火力で穴埋めする。しかし、需要の拡大で価格の上昇は必至だ。ガスの購入契約の保全だけでなく、ガス田採掘の権益拡大に努めるべきだ。国家的支援を強化する必要がある。

石炭火力発電は化石燃料の中で二酸化炭素の排出量が最も多いが、コストが安く世界各地から安定的に調達できる。我が国の電力の約25%を占める。電力の安定供給のため、石炭火力も維持していく必要があるだろう。ドイツは41%が石炭火力。日本よりずっとその比率が高い。

再生可能エネルギーによる発電量が増加するまで、火力発電で原発の穴を埋めていくほかないということである。ただ、これにはふたつ問題がある。コスト上昇と温室効果ガスの排出量の増加だ。

日本エネルギー経済研究所の試算では来年度、全原発が停止すると、燃料輸入費は年間3兆4730億円増加し1世帯当たりの月額電気使用料は1049円、産業用電気料金は36%上昇する、という。

産業界は電力不足が恒常化し電気料金が上昇すれば、海外への生産拠点の移転が増え産業の空洞化が進むという。電力多消費型経済から21世紀型省エネ経済に転換する好機という見方も可能だが、失業の急増など経済の激変は避けたい。

そもそも、空洞化問題はエネルギーコストだけでなく円高の進行や生産インフラの不備、高度教育を受けた人材の不足、さらに高い法人税、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を決められない政府の指導力不足など、複雑な要因がからんでいる。政府はビジネス支援の旗幟(きし)を鮮明にし、きめ細かく手を尽くさなければならない。

原発依存度が低下すれば、温室効果ガスを90年比25%削減するという政府目標の達成は難しい。目標を見直すべきだ。「ポスト京都」では途上国に温室効果ガスを低減する機器を輸出すれば、それが日本の温室効果ガス削減にカウントされるような新たなメカニズムが必要不可欠だ。外国から税金で余剰排出枠を買い、つじつま合わせする京都方式の単純延長だけは避けなければならない。

「中・長期」では再生可能エネルギーの開発・普及である。ドイツの脱原発政策は再生可能エネルギー分野の覇者を目指す戦略とセットだ。日本の環境技術はドイツにひけをとらない。日本こそ「環境エネルギー革命」の勝者になる潜在力がある。

環境省の試算では、国土をめいっぱい利用すれば2030年、再生可能エネルギーによる発電が年間約3300億キロワット時も可能だという。現在の全発電量の約3割、原発の従来の発電シェアに相当する。理論的には再生可能エネルギーで原発の代替が十分可能なわけだ。達成は容易でないが努力目標にしたい。

その中で日本では太陽光発電が先行してきた。かつては世界一の発電量だったこともある。太陽光パネルで発電し電気自動車の蓄電池に蓄えるなど、さまざまな試みがなされている。発電コストの高さが難点だが普及とともに低下するだろう。

風力発電はコストが安く世界的には自然エネルギーの主力だが、日本は世界12位。騒音など課題も多いが東北地方を筆頭に潜在力は最大だ。遠浅の海の少ない日本の場合、浮体式の洋上発電が有望だ。また、安定電源になりうる地熱発電、小河川の中小水力発電も地産地消型の電源として推進すべきだ。

自然エネルギーは日照次第、風次第で不安定という欠点がある。電力会社が電力網への受け入れを渋ってきた理由だ。その対策として、各電力会社間の電力融通の容量を拡大するとともに、電力が不安定になるのを防ぐ電池の設置を急ぐべきだ。長期的には電力の地域独占の見直しなども検討する必要がある。

そして、何より省エネが重要だ。日本エネルギー経済研究所の試算では、白熱灯をすべて発光ダイオード(LED)照明に交換するだけで原発4基分の節約になる。「省エネは創エネ」と言われるゆえんだ。

われわれの次の世代は今以上に資源の有限性に突き当たる。少ないエネルギーで効率的に動く日本にしなければならない。「分散型」「地産地消型」のエネルギー構造に組み替えるほかない。それには再生可能エネルギーが最も適している。次世代の安全・安心のため行動を急ごう。

朝日新聞 2011年07月30日

エネルギー政策 客観データの公開を

原発事故を受けた新しいエネルギー政策の柱を示す菅内閣の中間整理がまとまった。

原発への依存度を下げていく方針を明確にし、2050年ごろまでの工程表をつくる。核燃料サイクルを含む原発政策の検証や、電力会社の地域独占の見直し、発電部門と送電部門の分離も検討するという。

原発の新増設が事実上困難になる中で、電力の確保に向けて新たな方向を打ち出すことは喫緊の課題だった。政府の方針が定まらなければ、国民も企業もどのような対策をとるべきか、判断に迷ってしまう。

その点で、これまで菅首相の「個人的見解」でしかなかったビジョンを、より具体的で現実的な「内閣の方針」へと発展させる意義は大きい。

思いつきによる政策変更や政局への思惑から中身が空洞化しないよう、手順を踏んだ骨太な議論が進むことを期待したい。

折しも、規制機関である原子力安全・保安院が原発のシンポジウムに際し、電力会社に「やらせ」を依頼していたことが発覚した。言語道断だ。保安院を経済産業省から早く独立させ、きちんと機能する組織をつくることに異論はないだろう。

一方、中間整理で示された代替エネルギーのあり方や原発の是非そのものには、国民の中にもさまざまな考えがある。

大事なのは議論の土台となる客観的なデータを示すことだ。

とりわけ、原発の発電コストや自然エネルギーの単価、電源別の電力供給能力などについては、データが古すぎたり電力会社任せだったりと、政府公表値の不備が目立つ。

かたや、政府外では、それぞれの立場の人たちが主張にそったデータ加工をもとに論を展開するケースもあり、混乱のもとになっている。

今回の方針では、新たに委員会を設け、賠償費用や廃炉費用なども含めた原発コストや、技術の進展により数字が変わりやすい自然エネルギーのコストなどを改めて試算するという。

結果の数字だけでなく、前提となる計算式や根拠となる数字の出典など、積算の根拠となるデータを、徹底して公開してほしい。途中経過がブラックボックスのままでは、表に出ている数字への不信感が募り、冷静な議論につながらない。

政府のホームページに掲示して、国内外の専門家らが自由に閲覧できるようにする。第三者による検証可能な数字をもとに議論を進める。それが、国民的合意をつくるためのベースになるはずだ。

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