原発依存からの脱却は短時日ではできない。政府は「短期」「中期」「長期」に分けて考えるという。基本的に賛成だ。現実的なロードマップを描くには時間軸の設定が不可欠である。
短期的には天然ガスによるガス火力発電にシフトするほかない。火力発電所の建設には用地選定まで含めれば通常10年ぐらいかかる。直ちに着手すべきだ。
天然ガスをめぐる状況は一変している。米国で頁岩(けつがん)中のシェールガスを採取する方法が確立し生産量が急拡大した。中国を含め世界中で開発が進んでおり、国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに、世界のガス消費量は50%増加するという。「天然ガスの時代」だ。
脱原発に踏み切ったドイツもガス火力で穴埋めする。しかし、需要の拡大で価格の上昇は必至だ。ガスの購入契約の保全だけでなく、ガス田採掘の権益拡大に努めるべきだ。国家的支援を強化する必要がある。
石炭火力発電は化石燃料の中で二酸化炭素の排出量が最も多いが、コストが安く世界各地から安定的に調達できる。我が国の電力の約25%を占める。電力の安定供給のため、石炭火力も維持していく必要があるだろう。ドイツは41%が石炭火力。日本よりずっとその比率が高い。
再生可能エネルギーによる発電量が増加するまで、火力発電で原発の穴を埋めていくほかないということである。ただ、これにはふたつ問題がある。コスト上昇と温室効果ガスの排出量の増加だ。
日本エネルギー経済研究所の試算では来年度、全原発が停止すると、燃料輸入費は年間3兆4730億円増加し1世帯当たりの月額電気使用料は1049円、産業用電気料金は36%上昇する、という。
産業界は電力不足が恒常化し電気料金が上昇すれば、海外への生産拠点の移転が増え産業の空洞化が進むという。電力多消費型経済から21世紀型省エネ経済に転換する好機という見方も可能だが、失業の急増など経済の激変は避けたい。
そもそも、空洞化問題はエネルギーコストだけでなく円高の進行や生産インフラの不備、高度教育を受けた人材の不足、さらに高い法人税、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を決められない政府の指導力不足など、複雑な要因がからんでいる。政府はビジネス支援の旗幟(きし)を鮮明にし、きめ細かく手を尽くさなければならない。
原発依存度が低下すれば、温室効果ガスを90年比25%削減するという政府目標の達成は難しい。目標を見直すべきだ。「ポスト京都」では途上国に温室効果ガスを低減する機器を輸出すれば、それが日本の温室効果ガス削減にカウントされるような新たなメカニズムが必要不可欠だ。外国から税金で余剰排出枠を買い、つじつま合わせする京都方式の単純延長だけは避けなければならない。
「中・長期」では再生可能エネルギーの開発・普及である。ドイツの脱原発政策は再生可能エネルギー分野の覇者を目指す戦略とセットだ。日本の環境技術はドイツにひけをとらない。日本こそ「環境エネルギー革命」の勝者になる潜在力がある。
環境省の試算では、国土をめいっぱい利用すれば2030年、再生可能エネルギーによる発電が年間約3300億キロワット時も可能だという。現在の全発電量の約3割、原発の従来の発電シェアに相当する。理論的には再生可能エネルギーで原発の代替が十分可能なわけだ。達成は容易でないが努力目標にしたい。
その中で日本では太陽光発電が先行してきた。かつては世界一の発電量だったこともある。太陽光パネルで発電し電気自動車の蓄電池に蓄えるなど、さまざまな試みがなされている。発電コストの高さが難点だが普及とともに低下するだろう。
風力発電はコストが安く世界的には自然エネルギーの主力だが、日本は世界12位。騒音など課題も多いが東北地方を筆頭に潜在力は最大だ。遠浅の海の少ない日本の場合、浮体式の洋上発電が有望だ。また、安定電源になりうる地熱発電、小河川の中小水力発電も地産地消型の電源として推進すべきだ。
自然エネルギーは日照次第、風次第で不安定という欠点がある。電力会社が電力網への受け入れを渋ってきた理由だ。その対策として、各電力会社間の電力融通の容量を拡大するとともに、電力が不安定になるのを防ぐ電池の設置を急ぐべきだ。長期的には電力の地域独占の見直しなども検討する必要がある。
そして、何より省エネが重要だ。日本エネルギー経済研究所の試算では、白熱灯をすべて発光ダイオード(LED)照明に交換するだけで原発4基分の節約になる。「省エネは創エネ」と言われるゆえんだ。
われわれの次の世代は今以上に資源の有限性に突き当たる。少ないエネルギーで効率的に動く日本にしなければならない。「分散型」「地産地消型」のエネルギー構造に組み替えるほかない。それには再生可能エネルギーが最も適している。次世代の安全・安心のため行動を急ごう。
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