米債務問題 妥協こそ世界への責任

朝日新聞 2011年07月31日

米債務問題 妥協こそ世界への責任

米国債は債務不履行(デフォルト)に陥るのか。

世界経済の要である米政府の信用が、国内の深刻な政治対立で危機に直面している。米政府の債務が14兆2940億ドルの上限いっぱいになり、議会に引き上げを認めてもらう問題がこじれにこじれているのだ。

政府の資金繰りが限界を迎えるのは8月2日。新たな借金ができずに、米国債がデフォルトや格下げとなれば「世界の金融システムへの衝撃」(バーナンキ米連邦準備制度理事会議長)は避けられない。米議会は早急に妥協する必要がある。

米国は史上最悪の累積赤字を抱え、債務上限の引き上げは向こう10年間の財政再建策とセットで議論されている。

だが、昨秋の中間選挙の結果、上院で与党の民主党が、下院で野党共和党が、それぞれ多数を握る「ねじれ」構造となったことで協議が難航している。

今月21日には赤字3兆ドル削減で合意寸前までいったが、増税の是非や来年の大統領選をにらんだ駆け引きもあって決裂。その後、上院民主党と下院共和党で別々の案をまとめるなど、状況は一段と混迷している。

赤字削減では両案に大差はない。違いは、民主党案がオバマ大統領の任期をほぼカバーする2.4兆ドルの上限引き上げを認めるのに対し、共和党は年内分の9千億ドルを引き上げ、年明けに再協議をする「二段構え」である点だ。大統領選挙に向け、上限問題を再び政治的な駆け引き材料に使うもくろみなのだ。

妥協への最大の障害は、「小さな政府」を旗印に、共和党内で上限引き上げに反対する茶会(ティーパーティー)の勢力だ。下院共和党の茶会議員連盟は約60人おり、離反すれば共和党は過半数が取れない。議員連盟の会長が大統領選の有力候補に浮上していることも、強硬路線の背景にある。

金融市場はしびれを切らし、ニューヨーク株の下落、ドル安など米国売りが進み始めている。円相場は1ドル=76円台に突入し、戦後最高値寸前まで上昇している。米議会は2008年にリーマン危機の対策法案を否決し、史上最大の株価暴落を招いたことを思い起こすべきだ。

放漫な財政に対して納税者の論理を叫ぶことは大事だろう。しかし、それが世界経済を窮地に追いやるなら本末転倒だ。

欧州の危機が象徴するように、政府債務への信用は世界的に動揺しつつある。米議会は肝試しまがいの狭量な政争から早く脱し、良識とバランス感覚を取り戻してほしい。

読売新聞 2011年08月02日

米債務上限 薄氷の妥協でデフォルト回避

オバマ米大統領は、米国政府の借金枠である債務上限を引き上げることで与野党と合意した。

米国政府の債務は、法定上限の14・3兆ドル(約1100兆円)に達し、引き上げ期限が2日に迫っていた。

期限切れ寸前に、ようやく妥協が成立し、国債の償還資金がなくなる債務不履行(デフォルト)という最悪の事態を回避できたことを歓迎したい。

デフォルトに陥れば、基軸通貨ドルの信認が急落し、主要国や世界の金融機関が保有する米国債の価格が暴落して、金融市場の混乱を招いただろう。

外国為替市場では、安堵(あんど)感からドル売り圧力が弱まり、急激な円高・ドル安にいったん歯止めがかかった。日本やアジアなどの株価も軒並み上昇に転じた。金融市場の一層の安定が望まれる。

大統領によると、合意内容は、10年間で2・4兆ドルの財政赤字削減と、同規模の債務上限引き上げを2段階で実施する。

まず、0・9兆ドルの歳出削減とセットで、債務上限を同額ただちに引き上げる。

さらに議会に設置する超党派委員会が年内に1・5兆ドルの財政赤字削減策をまとめ、債務上限を同じく引き上げるというものだ。

上下両院は合意に基づいた法案を速やかに可決し、大統領の署名を経て成立させるべきだ。

今後の焦点は、超党派委員会が協議する赤字削減策である。

昨年の中間選挙で躍進した野党共和党保守系の「茶会党」は、増税に反対している。歳出カットと増税などを組み合わせた財政再建を目指したい大統領や、民主党の主張との隔たりは大きい。

来秋の大統領選への駆け引きが絡み、実効性のある赤字削減策で合意できるかどうか。増税の是非が争点になろう。

与野党の攻防で協議が難航し、赤字削減が不十分に終わると、格付け会社が米国債の格下げに踏み切る可能性もある。世界の市場に及ぼす影響が懸念される。

財政健全化へ、大統領は指導力を発揮しなければならない。議会の責任も極めて重い。

一方、円高圧力は続いており、1ドル=76円台の歴史的な円高水準は日本にとって厳しい。

円高は輸出企業の収益を圧迫し、景気回復の足を引っ張る。円高対策で海外生産が加速すると、産業空洞化も招く。各企業は国内生産を維持しながら、超円高に対応できる戦略を練ってほしい。政府も支援を拡充すべきだ。

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