中国事故対応 隠蔽体質と人命軽視は重症だ

毎日新聞 2011年07月31日

論調観測 中国の高速鉄道事故 安全軽視に厳しい目を

中国の高速鉄道で多数の死傷者を出す大事故が起きた。中国政府が技術力を国内外で誇示していた高速鉄道での惨事は世界に衝撃を与え、その処理や当局の説明、報道規制など「事故後」のあり方も注目を集めている。

国内紙の社説では、高速鉄道が国威発揚に利用され安全が後回しにされた、との論調が目立った。例えば「安全軽視が招いた大事故だ」の見出しを掲げた読売は、「北京五輪や上海万博、共産党創設90年などに合わせて、短期集中の突貫工事で進められた」と指摘している。

毎日は、国威発揚の体質と構造的な汚職を結びつけ、それが今回の事故の根底にあると論じた。前鉄道相、前副技師長らが総額二千数百億円相当の賄賂を建設業者から受け取った容疑で逮捕された例を紹介。「事故原因の徹底究明とともに汚職体質の改善が必要」と根っこからの改革を求めた。

日本との違いに言及した社説もあった。「日本の新幹線は、完全に独立した専用軌道上を徹底したコンピューター制御によって走らせる方式で、中国のものとは根本から異なる」(産経)、「日本の新幹線は開業から47年目を迎え、列車事故による乗客の死者がゼロという輝かしい記録を持っている」(読売)といった具合である。

比べてみると興味深いのが韓国の反応だ。主要紙の朝鮮日報と中央日報は、中国の事故を韓国高速鉄道(KTX)が抱える安全上の不安に引き付ける形で社説に取り上げた。KTXでも故障や事故が多発し、当局が韓国鉄道公社の監査に乗り出す事態になっているからである。

朝鮮日報は「中国の大惨事は、小さな事故の繰り返しを大事故の前兆と重く受け取るべきだという教訓だ」と対策を求めた。

「鉄道の安全は国の格を左右する」との見出しを掲げた中央日報は、「高速列車は国の顔」としたうえで、中国と日本を比較。「『中国の高速鉄道の技術力は新幹線より優秀だ』と大言壮語していた中国鉄道省は(今回の事故で)うなだれた。一方、1964年の新幹線開通後、脱線事故は地震が原因のわずか1回で、死者も出していない日本は誇らしげだ。国の格が分かれる場面だ」と論じている。

そのうえで、海外への売り込みも、「『技術』を越えて『安心』を輸出するという姿勢でなければ通用しない」と戒めた。

「安全」には報道の厳しい監視と国民の要求度の高さも不可欠。それを抑圧し続けるようでは中国の安全向上は望めないのではないか。【福本容子】

読売新聞 2011年07月31日

中国事故対応 隠蔽体質と人命軽視は重症だ

これ以上、事態を放置していては国民の批判の矛先が鉄道省から政権中枢に向かいかねないと判断したのだろう。

中国浙江省温州で起きた高速鉄道の列車追突事故で、温家宝首相が現地に赴き、被害者を見舞って遺族を慰問した。

首相自らが乗り出す方針に切り替え、早期の幕引きを狙ったものと見られる。

事故現場で記者会見に応じた温首相は「安全を失えば信用を失う。速ければ良いというものではない。安全第一であるべきだ」などと述べ、調査の全過程を公開することを約束した。

中国の高速鉄道は外国人も利用する公共輸送機関である。事故原因を徹底的に究明し、再発防止策とともに、最終調査結果を公表することが重要だ。

中国政府の事故調査グループは、事故の原因について、「落雷で信号機が故障し、赤色を表示すべき区間の信号が、誤って青色を示した」などとする、当面の分析結果を明らかにした。

信号系統や自動制御システムなどについて、改めて総点検し、安全確認に万全を期すべきだ。

今回の事故では、中国政府の隠蔽体質と人命軽視の姿勢に、国民の怒りが爆発した。

事故直後に車両を地中に埋め、国民から「証拠隠滅だ」との批判が起きるや、あわてて掘り出したり、事故発生から1日半で運行を再開したりした。

捜索活動の打ち切り後に、車両から2歳の女児が救出された。人命軽視もはなはだしい、と批判を浴びたのは当然だ。

鉄道省は1人当たり50万元(約600万円)の賠償金を遺族に提示し、さらに航空機事故並みの91万5000元(約1100万円)に引き上げた。早期の妥結で“口封じ”がしたいようだ。

政府に対する批判の原動力となったのは、1億7000万人が使用していると言われる中国版ツイッター「微博(マイクロブログ)」や、動画サイトだった。当局の検閲にもかかわらず大量の情報が流された。

中国政府は国内メディアに対し、「微博」の転載や、独自取材を禁止し、国営新華社の記事を使用するよう指示したが、一部の報道機関は従わなかった。

過去には見られなかった現象である。タブーとされる政府批判を展開した中国メディアに、言論統制の機関である共産党宣伝部がどんな対応を取るか、注視しなければなるまい。

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