朝日新聞 2011年07月30日
復興基本方針 増税ぼかす政治が心配
東日本大震災から4カ月半。政府がようやく、復興の基本方針を決めた。
最後まで与党の政治家の議論が集中したのは、もっぱら財源問題だった。増税はけしからんの大合唱に、改めて政治の貧困を見る思いだ。
基本方針の財源案は、今後5年間に必要な「少なくとも19兆円」のうち、すでに補正予算を組んだ金額を除く13兆円を、歳出削減と「時限的な税制措置」などで確保する。つなぎのために復興債を発行する、といった内容だ。
当初案では10兆円程度の増税を明記していたが、民主党内の反対論でぼかされてしまった。
確かに、政府はもっともっと歳出削減をすべきだ。未曽有の大災害なのだから、しゃくし定規な財源確保論にこだわるな、という理屈もあろう。
だが、歳出削減だけで、これほど巨額な財源を生み出せないのは明らかだ。ならば、私たちの世代で出しあうしかないだろう。増税から逃げたら、子どもたちに、放射能の不安だけでなく金銭面での負担まで強いることになる。不公平だ。
基本方針の復興の方策は、復興構想会議の先月の提言におおむね沿っている。しかし、まだ「検討」が多い。提言を肉付けし、合意を取りつける政府の作業が遅れているのだ。
たとえば、災害の恐れがある区域から集団移転する費用を国が補助する事業は「総合的に再検討」とされた。そもそも高台への移転を奨励するのかどうかもはっきり書かれてはいない。これで移転がはかどるのか。
作業する人材を確保する。先例にとらわれず、省庁の壁を越えて調整する。これらは政府の仕事であり、政治家の責任だ。
被災地の復興を日本の再設計につなげる。そんな視点で論じるのは政治の使命だ。
被災地は全国平均より早く高齢化し、人口が減る。それに見合う街や暮らしを設計できれば、新しい日本社会へのモデルチェンジのさきがけになる。
構想会議は、町の中心に学校や医療、福祉施設を一体的に築き、世代を超えた交流の拠点にする案を掲げた。住民参加のまちづくり協議会を設け、住む場所や暮らし方をみずから選択することも示した。これらの案が、基本方針に採り入れられたのは妥当と言える。
本来は、こうした構想を政治家が提案し、具体策を練ってしかるべきだ。なのに今回の「増税ぼかし」である。
これで基本方針を政策に仕上げていけるのか。心配になる。
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毎日新聞 2011年07月30日
復興基本方針 逃げずに増税を論じよ
東日本大震災の被災地復興の指針となる政府の基本方針が決まった。当初5年間で少なくとも約19兆円を投じることなどを固めたが、復興に伴う財源で臨時増税を「10兆円規模」と明記することに与党の慎重論が強く、見送られた。
悪化する財政への影響を抑えつつ十分な財源を確保するため、相当程度の増税は避けられない。財源問題が政争の材料となり、復旧・復興に影響することは許されない。与野党は財源問題を決着させる責任を共有し、協議を急がねばならない。
基本方針は菅直人首相の諮問機関、復興構想会議の提言を踏まえたもので、本格復興を目指す政府の11年度第3次補正予算案の指針となる。政府は10兆円程度の財源を5~10年の臨時増税でまかない税目は所得、法人両税の基幹税の定率増税を柱とすることで検討している。大筋において、妥当な方向だろう。
ところが、こうした方針の明記に民主党から慎重論が噴出した。確かに法人税などは景気への影響を危ぶむ懸念もあり、消費増税との兼ね合いも未整理だ。政府の一層の歳出見直しや保有資産の売却などさまざまな方策で多角的に財源を確保する努力も不可欠だろう。
だからといって、増税自体に反対するような議論は理解に苦しむ。来る民主党代表選の争点にしようとする動きすらある。党の圧力に屈し表現を譲歩した政府の対応も問題だが、単純に赤字国債増発に頼ろうとするような議論では無責任とのそしりを免れまい。
一方で、基本方針に不満もある。5年間で集中的に復興を進める姿勢を打ち出したが、具体的なメニューとなると復興構想会議の提起した項目をなぞった印象だ。震災から140日経た復興プランとしては肉付けに乏しい。
被災地にとって必要なのは予算の総額ではなく、復興特区や集団移転など核心部分の支援の具体策だ。政府、与野党とも予算規模と増税論議に比べ、肝心の支援策への関心が総じて薄いのではないか。
基本方針に基づき、政府は3次補正予算の編成に向けた作業に着手する。首相の進退問題がこう着する中、誰が担い手となるかは不明である。たとえ首相が交代しても、ねじれ国会の下で財源問題を調整する展望が開ける保証もない。
首相交代問題の影響などで3次補正編成が大幅に遅れるとの見方も与党の一部にあるが、論外だ。政府は増税論議を税制調査会にまず委ねるというが国会にも復興財源に道筋をつけ、被災地の不安を除く責任がある。与野党は首相進退と切り離し、早急に財源を協議すべきである。
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読売新聞 2011年07月30日
復興基本方針 政府主導で被災地を支援せよ
被災地で新たな町づくりを進めるうえで必要な具体性やスピード感が欠けている。これで、「活力ある日本の再生」の先導的役割を担うことができるのか、大いに疑問である。
政府が、東日本大震災からの復興の基本方針を決定した。
5年間の「集中復興期間」の事業規模を、最低19兆円程度と見積もった。このうち、1、2次補正予算分を除いた13兆円の財源は、「時限的な税制措置」や「歳出の削減」、「税外収入」などで確保する、としている。
当初、財源のうち10兆円は「増税」と明記していた。だが、民主党内から異論が噴出したことに配慮し、増税の規模も表現も、あいまいにしてしまった。
この反対論は、政権公約(マニフェスト)見直しへの反対と同様、大衆迎合主義の色彩が強い。政権党として無責任だ。
本格的な復興目的の第3次補正予算の編成に合わせて、増税の品目と税率を明示し、将来世代に負担を先送りしないという政治的な意思を明確にする必要がある。
政府内では、所得税や法人税の増税が検討されているが、消費税も排除すべきではあるまい。
有識者による復興構想会議の提言から1か月以上が過ぎている。基本方針は、分量こそ多いものの、検討中の項目や、官僚の作文に特有の空疎な表現が目立つ。
例えば、復興特区だ。住宅地や農地の整備のため、土地利用再編手続きを一元化・迅速化するとしているが、企業などを誘致するために最も肝心な税財政上の優遇措置は「検討」にとどまった。
自治体が使途を決定できる、新たな交付金制度の創設に異論はない。だが、すべてを自治体任せにすることはできない。
多くの市町村は、被災で行政機能が低下しているうえ、政府が実効性ある復興の制度と枠組みを示さないため、新たな町づくりに本格的に動き出せないでいる。
政府は、復興メニューの提示に加え、必要に応じて応援職員を市町村に派遣し、復興への取り組みを加速すべきだ。交付金の支給も前倒しすることが重要だ。
福島県に医療や再生可能エネルギーの研究開発拠点を整備し、岩手、宮城県の国立公園を再編する構想も示された。工夫されているが、看板倒れでは困る。
民間との連携も大切だ。大手商社が宮城県の水産業の復興支援事業の検討を始めている。政府は、民間の知恵や資金も活用し、復興事業の具体化を急いでほしい。
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