朝日新聞 2011年07月26日
賠償機構法案 法的整理の準備を急げ
福島第一原発事故をめぐる東京電力への賠償支援機構法案について、与野党の修正協議がまとまった。
兆円単位が見込まれる賠償額は東電の支払い能力を超える。被災者が日々の生活を取り戻すために、賠償の枠組みを早く決める必要がある。
法案は、国が賠償額の半分を仮払いする内容の野党提出法案とともに、8月初めにも成立する見通しだ。すでに震災から4カ月以上が過ぎている。作業を急がなければならない。
大きな変化は、国にも賠償責任があることを法律に明記することだ。政府案では国の関与の仕方が「支援」どまりだった。
修正により、東電が賠償できない状況になったとしても、残りの額は国が支払うことが明確になった。被災者が受け取れなくなる懸念が小さくなった。
また、「東電を債務超過にしない」と定めた閣議決定の効力をなくす手続きをとることでも合意した。
今年3月末時点の純資産が1.6兆円にとどまる財務内容を考えれば、東電の経営がすでに債務超過状態にあるのは誰もが認めるところだ。
であれば、他の企業と同様に破綻(はたん)処理をすべきだ――。これまでの社説で、私たちはそう主張してきた。そのほうが市場をゆがめず、国民負担も小さくできる。最後は税金で賠償の面倒を見るにしても、まずは株主や、貸手である金融機関の責任を明確にし、資産や債権を整理したうえでの話である。
今回の与野党による合意は、東電を法的整理する道を閉ざしていた部分を取り除くことになり、大いに評価したい。
もっとも、今後の東電の形をどうするかの議論は先送りされた。「賠償総額のめどがたった時点で検討」とされたが、すでに東電は上場企業としての実質を失っている。
本来の姿である法的整理の可能性が生じたことで、新たな電力債の発行や、銀行や生保からのこれまでのような融資は難しくなった。今後、賠償額の見通しや東電の財務内容が報じられるたびに、市場が厳しい反応を示すと予想される。
法的整理が先延ばしになるほど東電の評価が下がり、公的な負担が増す危険がある。すぐにも準備を始めるべきだ。首都圏の電力供給を一手に担う独占企業でもある。新たな立法など、詰めるべき課題は少なくない。
経済の原則にそった手続きで電力体制を再構築していく。それが、日本経済への世界の信頼を得る一歩にもなる。
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毎日新聞 2011年07月28日
原賠機構法案 残る課題の議論深めよ
福島第1原発事故に伴う東京電力の損害賠償を円滑に進めるための原子力損害賠償支援機構法案が、週内に衆院を通過し、8月上旬には参院で可決、成立する見通しになった。東電に代わって、賠償金の半分を国が仮払いする野党提出の法案も成立の見通しになり、被害者救済が前進することを歓迎したい。
しかし、原賠機構法案は、与野党協議による修正を経て、将来的に見直す余地を残す項目が増え、暫定色が強まった。肝心なのは、被害者の迅速な救済と電気の安定供給だ。政府や国会には、その目的達成を確実にするため、残された課題の議論を深めてほしい。
法案には、新たに国の「社会的責任」が明記され、賠償実現に国が「万全を期す」との文言が盛り込まれた。電力会社と一体になり、原発を推進してきた国の責任が明確にされたことは、評価したい。
一方、付則や付帯決議で、東電の株主・債権者の負担や、経営のあり方を再検討することが示され、「東電を債務超過にさせない」とする閣議決定を見直すことも確認された。これは、東電を債務超過とし、法的整理する可能性を残したものとも受け取れる。
確かに、法的整理になれば、株主の責任が全うされ、銀行融資などの債権カットも可能になるため、その分、賠償に伴う国民負担が軽くなるというメリットが考えられる。
しかし、それで被害者救済が確実に実行できるか、冷静に考える必要がある。例えば、銀行などは約5兆円に上る東電の社債を保有しているが、社債償還を受ける権利は、一般の債権に優先することが、電気事業法で決められている。債務超過ということは、すべての債務を弁済する資力がないということだから、社債が優先される分、一般債権である賠償金が支払われなくなったり、削られたりするおそれがあるわけだ。
国が税金で穴埋めできれば、被害者は救済されるが、原子力損害賠償法(原賠法)に政府が賠償金を支払う規定はない。今回の法案の「万全を期す」という文言で、それが可能になるのかも不透明だ。東電の法的整理を議論するのであれば、国が直接、賠償金を支払う法的な枠組み作りを前提にする必要がある。
また、法案は付則で、国の責任のあり方を含めて、原賠法を見直すことを明記した。電力会社に無限責任を負わせながら、原発事業を担わせることには無理がある。菅直人首相が検討を表明した「原発国有化」とも密接に絡む。国のエネルギー政策の中で、原発をどう位置づけるかが問われる問題であり、政府の責任ある対応を求める。
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