ASEAN外交 対中国ルール作りの後押しを

毎日新聞 2011年07月25日

東アジア外交 羅針盤の修復を早く

日本が平和で安定しているためには、近隣の東アジアが同じように平和で安定していなければならない。地域の秩序を乱すような対立の芽を摘み、開かれた対話によってお互いの疑心暗鬼をなくしていくよう努力することが日本に課せられた課題である。インドネシアのバリ島で開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議は、そうした日本外交の歩むべき方向性を示すと同時に、何が今欠けているのかも明らかにしたといえよう。

一連の会議では南シナ海の領有権をめぐるASEANと中国の摩擦が最大の焦点だったが、双方が平和解決に向けたガイドライン(指針)に合意したことで決定的な衝突は回避された。指針をこれから法的拘束力のある行動規範に格上げするかどうかで対立はあるものの、話し合いを通じ地域の緊張緩和に一定の前進があったことは評価したい。

両者が曲がりなりにも折り合った背景には、孤立を嫌った中国の思惑もあったとみられる。だとすれば、日本と米国が先の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で中国に海洋における「国際的な行動規範」の順守を要求し、重ねて自制を求めたことも要因に挙げられよう。

尖閣諸島の問題でもそうだが、中国の海洋進出には日米が「ひとつの声」で対処し、すきを見せないことが極めて重要だ。日米間の不協和音に中国が乗じる事態が生じることをASEANも懸念している。日米同盟は日本の対中外交、対東アジア外交にとって、欠かせない外交資産であると確認しておきたい。

そのうえで、日本は日本としての東アジア外交戦略を明確に打ち出すべきだろう。北朝鮮の核開発をめぐる6カ国協議再開問題も抱える東アジアは、日米中露など大国の利害がぶつかる国際情勢の焦点地域だ。今秋には初めて米国やロシアも参加した東アジアサミット(EAS)が開かれる。EASで政治・安保・経済の利害調整と協力推進が進めば、地域の緊張緩和に役に立つ。

だが本格化するこの地域の外交競争への対応が日本にできているかどうか、心もとない。

鳩山由紀夫前首相は(1)対等な日米同盟(2)東アジア共同体構想、の二つを外交課題に掲げたが、(1)は普天間飛行場移設問題の迷走もあって日米同盟の信頼喪失という深い傷を負った。(2)は竜頭蛇尾のままだ。引き継いだ菅直人首相は東アジア外交への強い関心を示さず、夏にも退陣する見通しだ。グランドデザインを描く余力があるはずもない。その作業は、ポスト菅政権の大きな宿題となろう。

混乱と無関心で外交の羅針盤がぐらつく政治は不幸である。

読売新聞 2011年07月25日

ASEAN外交 対中国ルール作りの後押しを

南シナ海の領有権を巡る中国と周辺国の紛争を沈静化させるには、国際的なルールを強化し、中国に自制を促すことが欠かせない。

インドネシア・バリ島で先週開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の一連の外相会議では、中国の海洋進出問題が大きな焦点となった。

松本外相やクリントン米国務長官は、「国際法の順守と透明性の確保が重要だ」などと、国際ルールに基づく紛争処理を訴えた。

中国の楊潔?外相は、「航行の自由と安全は脅かされていない」と反論した。南シナ海の紛争は、当事国同士で解決すべきで、国際社会が関与する必要はないとの主張で、議論は平行線だった。

中国は今年に入り、ベトナムなどの探査船の活動を実力で妨害しながら、自らの行為は正当化している。こうした身勝手な行動は看過できない。

日米両国は、ASEAN各国と連携し、より実効性のある国際ルール作りに中国が応じるよう、粘り強く働きかける必要がある。

中国とASEANは2002年に南シナ海に関する「行動宣言」を発表した。宣言は、「紛争の平和的解決」を打ち出したが、法的拘束力はない。

両者は今回、宣言を補強するため、南シナ海の資源開発などでの協力を推進する「行動指針」で合意した。一定の前進だが、内容的には十分と言えない。

ASEANは当初、中国との国力の差を克服するため、「多国間による解決」を指針に盛り込むよう求めたが、実現しなかった。

中国が、親中的な国に対し、経済援助と引き換えに、中国への同調を求めるなど、ASEANを切り崩したためとみられる。

ASEANは、行動宣言を拘束力を持つ「行動規範」に格上げする交渉を中国と始めたい意向だ。日本としても、この動きを積極的に後押ししていきたい。

南シナ海の紛争は、日本にとっても人ごとではない。

南シナ海は、日本の重要な海上交通路であるうえ、日本自身も東シナ海の尖閣諸島などで、中国との軋轢(あつれき)を抱えているからだ。

11月には、日中韓やASEAN各国など18か国による東アジア首脳会議(EAS)が開かれ、米露両国も初めて正式参加する。

南シナ海の平和と安定は、EAS参加国にとって共通の利益だ。首脳会議の場を活用し、実効性あるルール作りに向けて合意形成を図ることが重要だ。

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