朝日新聞 2011年07月25日
中国鉄道事故 背伸びせず原因究明だ
中国の高速鉄道は危ない、という不安が現実になった。
沿海部の浙江省温州で高速列車が別の高速列車に追突した。4両が高架橋から落ち、多数が死傷した。
こんな事故を避けるために、一定の区間を走る車両を制限する日本や欧州などの高速鉄道では考えにくい惨事である。
車両に問題があったのか、信号や制御のシステムにトラブルが起きたのか。原因はまだ定かでない。中国当局は運行の再開を急いでいるようだが、原因の究明に全力を注ぐべきだ。
中国では新幹線など外国の技術を採り入れて、高速鉄道網の建設が急ピッチで進んでいる。先月末には、北京と上海を結ぶ全長1318キロの京滬(けいこ)高速鉄道が鳴り物入りで開業した。
しかし中国の高速鉄道には、安全性に問題があるとの指摘が続いていた。
肝心の技術が長年をかけて培ったものではなく、各国からの寄せ集めのため、不具合が起きやすいという見方があった。また、突貫工事で架線や信号などのシステムの安全性を軽視している、との声も出ていた。
ところが、中国当局は技術は日欧などのものを「消化し、独自に開発した」との立場を強調し、外国で特許を申請する動きを見せている。「日本の新幹線をはるかに超えた」と胸を張る当局者もいるほどだ。
しかし鉄道省の元幹部から、日独が安全のために余裕として残している部分を使っているだけで独自の技術などない――、そんな批判が相次いだ。
批判を裏付けるように、最新鋭の京滬鉄道でさえ、電気系統の故障による緊急停止といったトラブルが続出している。
中国では、安全性を無視した列車やバスなどの事故が多い。
22日には、河南省で定員を大幅に超えた乗客を乗せた寝台バスが炎上し、41人が死亡した。今回の鉄道事故は、政府が「重大事故の発生を効果的に防ぎ、断固として抑え込まなければならない」という通知を出したその日に起きた。
発展を続ける中国は、あらゆるところで技術の革新を急いでいる。その成果は世界経済への貢献もふくめて大きい。だが今回の事故は、急速な技術応用の危険性を露呈したといえよう。
中国当局は日欧の協力も求めて事故を徹底的に調査し、安全第一の基本を確立しなければならない。それができなければ、交通機関にとどまらぬ幅広い分野で進む急成長に対して、技術の安全さを危ぶむ、中国リスク論さえ招きかねない。
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毎日新聞 2011年07月26日
中国鉄道事故 安全より国威発揚優先
中国浙江省で高速鉄道の追突事故が起きた。高架橋から車両が落下する惨事で、200人以上の死傷者が出た。
中国鉄道省は、落雷で衝突を回避するための制御装置にトラブルが起きた可能性を指摘した。だが制御装置が故障したときには全列車が自動停止するはずだ。徹底的な原因究明が必要だ。
にもかかわらず、事故車両を壊して埋めたという。まるで証拠隠滅だ。運行記録装置は回収したというが、機械や電子系統に故障があったかどうか確認しないのは解せない。事故責任の法的追及に欠かせない証拠物件だ。それを保全しないとは中国の国際信用にかかわる。はやばやと地元の運行責任者を解任したのもトカゲのしっぽ切りに見える。
高速鉄道は、車両だけではなく制御装置を含むシステム全体の高度な技術である。中国は、日本、ドイツ、フランス、カナダの技術を寄せ集め、さらに独自の技術改良を加えたと主張している。
今回の事故では、停車していた車両がカナダ、追突した車両が日本の技術を基礎にしている。制御装置は中国の独自技術である。「木に竹を接ぐ」やりかたに問題がある。
しかし中国鉄道省は、強引に高速鉄道建設を進めてきた。高速鉄道網は数年間で日本の新幹線の総延長の4倍に延びた。そのために「中国の独自技術」というナショナリズムの呪文を振りまいた。その結果、安全性を無視しても世界最高速で運行せざるをえなくなり、時速350キロで運行しようとした。独自技術である証拠に、外国で特許申請するとも言いだし、技術提供した関係国の反発を買った。
ついに鉄道省内から「安全性無視」という内部告発が出て、300キロに減速したが、今回の事故の背景には、国威発揚の危険な体質がある。それが構造汚職につながっている。計画を推進した前鉄道相、前副技師長らが日本円で総額二千数百億円の賄賂を建設業者からとった容疑で逮捕された。事故の直前には6人目の鉄道省高官、前運輸副局長が捕まった。
事故が起きたのは在来線を走るタイプの高速鉄道だったが、高速鉄道の花形として6月30日に開業した北京-上海間の中国版新幹線も非常停止などのトラブルが続いている。運賃が高すぎ空席が目立つ。駅の雨漏りなど手抜き工事も明らかになってきた。汚職への怒りは共産党政権への不信感にもつながる。
高速鉄道は5カ年計画の柱の一つである。今後の経済成長に欠かせない。だからこそ、事故原因の徹底究明とともに汚職体質の改善が必要だろう。
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読売新聞 2011年07月25日
中国高速鉄道 安全軽視が招いた大事故だ
中国が誇る高速鉄道の車両が高架橋から飛び出し、押し潰された車両の「和諧(調和)号」の文字がむなしく映る。
かねて指摘されていた安全性への不安が、早くも現実になった。無残な現場の光景は驚きにたえない。
中国東部、浙江省温州の高速鉄道・杭州―深セン線で23日夜、列車同士の追突事故が発生、200人を超える死傷者が出た。
落雷で停止していた列車に北京発の後続列車が追突した。安全運行の管理に重大な欠陥があった、と言わざるを得ない。
列車の衝突を防ぐ自動制御システムが、正常に作動していなかった可能性も指摘されている。
事態を重視した中国指導部は、現場に張徳江・副首相を団長とする事故処理・調査団を派遣した。原因を徹底的に究明すべきだ。
中国が国家的威信をかけて開発し、米国など海外への売り込みを図っている高速鉄道だけに、胡錦濤政権の輸出戦略にとって手痛い打撃となろう。
運行を始めて4年余り。中国の高速鉄道の営業距離は、日本の新幹線網の数倍になる8000キロ・メートル超に伸びた。2020年には、1万6000キロ・メートルにまで延伸させる計画だという。
だが、建設は北京五輪や上海万博、今月初めの共産党創設90年などに合わせて、短期集中の突貫工事で進められた。安全性がないがしろにされた側面は否めない。
総額10兆円規模になった工事では汚職もあった。鉄道相が今年2月、業者から長年にわたって多額の賄賂を受け取っていたとして逮捕され、解任された。
この前鉄道相は世界一を目指し、北京―上海線で時速350キロ・メートルとするよう指示していたが、後任の鉄道相が安全性を考慮して300キロ・メートルに抑えたという。
高速鉄道は中国在住の外国人や海外からの観光客やビジネスマンたちも利用する。今回の事故を機に、改めて各路線の車両や運行システムなどの安全点検を徹底して実施すべきだ。
川崎重工が製造した東北新幹線「はやて」型車両に、独自の技術改良を加えたとする中国側は、新型車両を海外で特許申請している。しかし、今回の事故による影響は免れまい。
日本の新幹線は開業から47年目を迎え、列車事故による乗客の死者がゼロという輝かしい記録を持っている。関係者は、今後も気を緩めることなく、万全の態勢を維持してもらいたい。
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