オスロ連続テロ 「冷血の惨劇」許さない

朝日新聞 2011年07月24日

ノルウェー テロの暴挙に屈しない

若者の自由な討論を流血によって砕き、政府の中枢機能を暴力で壊そうとした。許し難い暴挙である。

北欧ノルウェーの小さな島で与党労働党の青年集会が開かれていた。警官姿の男が銃を乱射し、80人以上の若者らが犠牲になった。その2時間前には、首都オスロの官庁街で大きな爆発が起き、7人が死亡した。

島で銃を乱射した32歳のノルウェー人男性が逮捕された。極右のキリスト教原理主義の信奉者だったとの見方もある。

なぜこの豊かで平穏なイメージの国で悲劇が起きたのか。多くの日本人が驚きと戸惑いを覚えたことだろう。

フィヨルド観光や水産業が盛んなこの国は、石油や天然ガスにも恵まれている。小国ながら人権や平和の実現に熱心で、スリランカや中東の紛争仲介に汗を流した。昨年のノーベル平和賞を中国の人権活動家に授与したことは記憶に新しい。

とはいえ、この国もさまざまな対立や葛藤と無縁でない。

途上国からの難民や移民受け入れはその一例だ。寛容な政策を長年続けてきたが、受け入れに反発する声が次第に強まり、2年前の総選挙では移民の受け入れ規制を訴える右翼政党が大きく支持を伸ばした。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国としてアフガニスタンやリビアの軍事行動に参加したことへの異論もあった。

こうした対立は少数派を含めた討論によって解決すべきことは言うまでもない。問答無用の暴力を許せば、新たな暴力を招き寄せ、言論の自由や民主主義は生命力を失ってしまう。

危うく難を逃れたストルテンベルグ首相は「我々の民主主義、そしてより良き世界への理想を破壊することはできない」と、テロに屈しない姿勢を示した。勇気ある発言だ。共感の思いを伝えたい。

この国は第2次世界大戦中、ナチスドイツによる侵略と支配を体験した。悲しみに耐えながら人々はいま、テロの暴力をはねのけ、民主主義を守り抜こうとの思いでいることだろう。

事件発生の直後、イスラム過激派の関与を取りざたする見方が欧米メディアで伝えられたが、その情報はほぼ否定された。イスラムへの偏見や排外主義がこの事件によって助長されることがあってはなるまい。

成熟した民主主義国でおきたおぞましい政治テロだ。同じ時代に住む私たちは、現代社会の街なか深くで暴発の芽が育たないよう、ひずみを知り、英知を集めなければならない。

毎日新聞 2011年07月24日

オスロ連続テロ 「冷血の惨劇」許さない

緑の豊かな島に点々と横たわる若者の遺体。逃げようとして水辺で息絶えた人もいる。ノルウェーの首都オスロ郊外で起きた乱射事件の、血も凍るような映像だ。逮捕されたノルウェー人の男(32)は乱射の約2時間前、オスロ中心部で爆破事件を起こした疑いが強く、爆発物と銃による前代未聞のテロが「ノーベル平和賞の国」を揺さぶっている。

犠牲者は既に90人を超えた。この恐るべきテロを、私たちは強く非難する。欧州での大規模テロとしては、スペインの列車爆破(04年)、ロンドン地下鉄・バス爆破(05年)に次ぐもので、南欧から北欧まで全域にテロの魔手が及んだとの見方もできよう。まずは犯行に至った動機などを詳しく解明すべきである。01年9月の米同時多発テロから10年。オスロの事件は、国際社会として改めてテロ対策に取り組む必要性を見せつけるものだった。

無論、テロの動機や背景は同じではない。国際テロ組織「アルカイダ」によるテロもあれば、その思想に影響された欧米人のテロ行為もある。これに対してオスロの事件は「容疑者は極右につながるキリスト教原理主義者」といわれ、イスラム世界の国際テロ組織とは無関係との見方が有力だ。爆破テロは政府庁舎を狙った可能性が強く、乱射事件の被害者は与党・労働党の青少年キャンプの参加者たちだ。自国政府への憎悪を感じさせる犯行である。

だが、反発の対象が何であれ「異議申し立て」の手段として市民を無差別に殺すことは許されない。9・11以降、そうした邪悪な行為が広がりを見せているのは憂慮すべきことだ。イスラム原理主義者が「聖戦」を叫んで異教徒らを殺し、キリスト教の聖職者がイスラム教の聖典「コーラン」を燃やすなど、宗教に基づく過激主義が強まっていることも今回のテロの背景にあげられよう。

ノルウェーでは移民規制を求める右翼勢力が台頭し、政府との対立が強まっていた。他方、この国は北大西洋条約機構(NATО)の一員としてアフガニスタンに派兵し、リビア攻撃にも参加している。イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を新聞が掲載して在シリアのノルウェー大使館が放火されたこともある。連続テロについて、アルカイダの領袖(りょうしゅう)ウサマ・ビンラディン容疑者が米軍に殺されたことへの報復という推測が流れたのも無理はない。

オスロでノーベル平和賞を授与されたオバマ米大統領はノルウェー政府に対して捜査上の支援などを申し出た。日本も必要な支援や協力を惜しむまい。平和な北欧で起きたテロは、日本にとって決して対岸の火事ではないはずである。

読売新聞 2011年07月27日

オスロ連続テロ 排外主義をどう乗り越える

自分の偏狭な価値観を喧伝(けんでん)するために無差別テロに訴え、大勢の若者の未来を奪う。許せない行為である。

ノルウェーの首都オスロで22日、爆弾テロが起き、その2時間後には、近郊の湖に浮かぶ島で銃が乱射され、合わせて80人近くが死亡した。

爆破の標的は政府庁舎。銃口が向けられたのは、与党・労働党の青年集会の参加者だった。

両事件の容疑者として逮捕された32歳のノルウェー人は法廷で、犯行の動機を「欧州をイスラム化から救うため」と語り、テロを正当化した。

イスラム教徒移民などの受け入れを進めた労働党に責任があるという、手前勝手な論理である。

死刑のないノルウェーでは、テロの最高刑は禁錮21年だが、事件の残虐さに法改正や死刑の復活を求める声も上がっている。

容疑者は協力者の存在をほのめかしているが、捜査関係者は個人の計画的犯行とみている。

容疑者は自身の過激思想をネットで披瀝(ひれき)していた。ノルウェー治安当局はイスラム過激派を最大の脅威と位置づけ、極右テロに重大な関心を抱いていなかった。認識が甘かったのではないか。

欧州各国では近年、排外主義が台頭している。イスラム教徒など異なる文化的背景を持つ移民が急増しているのが原因だ。

「移民に雇用を奪われる」「移民が手厚い社会保障制度を食い物にする」といった反感が広がり、移民排斥を唱える極右勢力の議会での伸長を促してきた。

豊かで寛容な欧州の典型とみられてきた北欧諸国も、例外ではない。ノルウェーでは過去40年で移民が10倍に増え、人口の1割強に達した。2009年の選挙では、移民規制を主張する右翼民族主義政党が第2党に躍進した。

欧州各国の既成政党も、敬虔(けいけん)なイスラム教徒女性が身に着けるブルカの着用禁止など、排外主義的世論に迎合するかのような政策を打ち出している。

今回のテロの根にある排外思想を養う土壌が、今の欧州では厚みを増していると言えよう。

英国やドイツには、異人種・異教徒が共生する「多文化社会」の建設は失敗したとの声もある。

一方、少子高齢化が進む欧州では、労働力不足を移民によって補う必要性も指摘されている。異文化との共生は避けて通れない。

移民の増加によって広がる排外主義をどう鎮めていくか。欧州に突きつけられた課題である。

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