自分の偏狭な価値観を喧伝するために無差別テロに訴え、大勢の若者の未来を奪う。許せない行為である。
ノルウェーの首都オスロで22日、爆弾テロが起き、その2時間後には、近郊の湖に浮かぶ島で銃が乱射され、合わせて80人近くが死亡した。
爆破の標的は政府庁舎。銃口が向けられたのは、与党・労働党の青年集会の参加者だった。
両事件の容疑者として逮捕された32歳のノルウェー人は法廷で、犯行の動機を「欧州をイスラム化から救うため」と語り、テロを正当化した。
イスラム教徒移民などの受け入れを進めた労働党に責任があるという、手前勝手な論理である。
死刑のないノルウェーでは、テロの最高刑は禁錮21年だが、事件の残虐さに法改正や死刑の復活を求める声も上がっている。
容疑者は協力者の存在をほのめかしているが、捜査関係者は個人の計画的犯行とみている。
容疑者は自身の過激思想をネットで披瀝していた。ノルウェー治安当局はイスラム過激派を最大の脅威と位置づけ、極右テロに重大な関心を抱いていなかった。認識が甘かったのではないか。
欧州各国では近年、排外主義が台頭している。イスラム教徒など異なる文化的背景を持つ移民が急増しているのが原因だ。
「移民に雇用を奪われる」「移民が手厚い社会保障制度を食い物にする」といった反感が広がり、移民排斥を唱える極右勢力の議会での伸長を促してきた。
豊かで寛容な欧州の典型とみられてきた北欧諸国も、例外ではない。ノルウェーでは過去40年で移民が10倍に増え、人口の1割強に達した。2009年の選挙では、移民規制を主張する右翼民族主義政党が第2党に躍進した。
欧州各国の既成政党も、敬虔なイスラム教徒女性が身に着けるブルカの着用禁止など、排外主義的世論に迎合するかのような政策を打ち出している。
今回のテロの根にある排外思想を養う土壌が、今の欧州では厚みを増していると言えよう。
英国やドイツには、異人種・異教徒が共生する「多文化社会」の建設は失敗したとの声もある。
一方、少子高齢化が進む欧州では、労働力不足を移民によって補う必要性も指摘されている。異文化との共生は避けて通れない。
移民の増加によって広がる排外主義をどう鎮めていくか。欧州に突きつけられた課題である。
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