朝日新聞 2011年07月24日
地デジ時代 視聴者が得心の放送を
きょう正午、地上波テレビのアナログ電波による放送が止まり、デジタル放送に移行する。震災にあった岩手、宮城、福島3県は来年3月末までこれまでの放送も続くが、これほどの規模で一斉にデジタル化されるのは世界でも例がない。
6月末の時点で、全国の0.6%にあたる29万世帯で、地デジが見られる準備が済んでいなかった。今月に入ってさらに対応が進んだとはみられるが、混乱を最小限にしたい。総務省コールセンターは「テレビが映らない」といった電話があれば、各地の担当者を家庭に送る態勢をとっている。
地デジ化は、電波の有効利用を掲げて国の政策で進んだ。移行にかかった支出は、総務省が補助事業を中心に2千億円、NHKと民放で中継局設置や機器導入に1兆5千億円に達した。視聴者は薄型テレビなどへの買い替えを迫られた。
デジタル化によって、地上波で高画質のハイビジョン映像を見られるようになった。サッカー中継の臨場感が増した。だが投じた大きな費用に見あうほど何が便利になったのかわからないという声もある。
地デジ移行で空く電波の跡地には様々な利用計画がある。例えば、スマートフォンの増加によって混雑している携帯電話用の周波数帯を広げる方針が固まっているが、割り当ては2015年ごろという。
携帯端末向けの新しい映像サービスであるマルチメディア放送は来春開始の予定だ。
ラジオのデジタル化は受信機の発売や放送開始の時期が見えない。今のラジオを上回る利点もわかりにくい。
無線を使い交差点で自動車の衝突防止に役立てる高度道路交通システム(ITS)については、まだ技術基準を検討している段階だ。
総務省は地デジの周知ばかりに力を入れてきた。電波は国民の共有財産だ。全体の利用計画をもっとわかりやすく知らせる必要がある。政策の指針となる文書に業界しか理解できない専門用語がならぶこれまでの説明では理解は得られない。
テレビ局も在り方が問われている。ビデオリサーチによると各世帯の1日平均のテレビ視聴時間(関東地区)は01年の8時間7分から昨年は7時間30分に減った。バラエティー番組ばかりで、見たい番組がないという大人の嘆きが聞こえてくる。
せっかくの新しい電波だ。見応えがある番組作りに力を入れなければ、テレビ離れはさらに進むに違いない。
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毎日新聞 2011年07月22日
地デジ化 完全移行後の課題も
地上波テレビのアナログ放送が24日正午で停止する。東日本大震災の被災地の岩手、宮城、福島の3県を除いて、地上波テレビはデジタル放送に完全移行する。
デジタル放送対応のテレビに買い替えなくとも、デジタル放送対応の受信機を設置すれば、これまでのアナログ放送用のテレビでも、デジタル放送を見ることができる。
ただし、集合住宅用のものも含めてUHFのアンテナがない場合、新たに設置する必要がある。アナログ停波前の駆け込み需要で、設置工事が追いつかない状態が続いているが、できるだけすみやかに設置が進むようにしてもらいたい。
たとえ24日をまたぐことになったとしても、視聴できない状態が早期に解消することを期待したい。
放送のデジタル化によって、テレビ番組は高画質、高音質で視聴できるようになった。デジタル化のメリットはそれだけではない。デジタル放送用のテレビは、その多くがインターネットに接続できるようになっている。
テレビは放送番組を見るだけでなく、インターネットと融合し、ネット上のさまざまなサービスを利用できるツールともなってきた。
スマートフォン(多機能携帯電話)やタブレット型のパソコンとの連携も含めて、放送と通信の融合がますます進んでいくだろう。私たちの生活を豊かにし、社会の発展に役立つよう、デジタル時代の新しい放送文化が進展するよう望みたい。
テレビ放送のデジタル化は、電波の有効利用という観点からも進められてきた。デジタル化によりテレビ放送に利用される電波の帯域はアナログ放送の場合より大幅に少なくてすむ。空いた帯域は跡地として別の用途に活用できる。
携帯電話、防災無線、携帯端末向けマルチメディア放送、道路交通情報システムなどが用途としてあがっている。
特に携帯電話はスマートフォンの普及によりデータ通信が急速に拡大している。それに対応していくには新たな帯域の確保が必要だ。ただし、マルチメディア放送や、事故防止など運転をサポートするという道路交通情報システムの姿はよく見えてこない。また、電波を新しい用途に使った場合、既存の機器との干渉という問題が生じる場合がある。
携帯電話の利用者から集めた電波利用料を中心に巨額の国費を投じて放送のデジタル化は進められてきた。また視聴者はテレビの買い替えなどの負担を強いられてきた。
跡地の帯域が有効活用されるのか。大きな国民負担が背景にあるだけに、チェックが欠かせない。
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読売新聞 2011年07月22日
地デジ移行 テレビの新時代を切り開こう
被災地の東北3県を除く44都道府県で24日、地上波テレビのアナログ放送が終了し、デジタル放送に移行する。
アナログ放送が停止するのは、60年近いテレビ史上でも初めての経験である。視聴者の混乱を招かないよう総務省と放送業界は万全を期してもらいたい。
アナログテレビは24日正午から画面が放送終了を知らせる案内表示に切り替わり、25日午前0時になると映像が全く映らない。デジタル対応の受信機やアンテナなどを設定していない家庭は、番組が見られなくなる。
地デジ対応を済ませている世帯は6月末時点で99%以上に達したが、それでも29万世帯が未対応だった。移行当日になっても10万世帯程度が残るとみられている。
総務省は問い合わせに応じる全国の支援センターの人員を24日以降、2万5000人体制に増強する。市町村役場など1600か所に開設した臨時相談コーナーも8月まで継続する方針だ。
相談は、総務省の地デジコールセンター(0570・07・0101)でも受け付けている。
テレビが見られなくなってから問い合わせに来る視聴者も少なくないだろう。ハイテク家電に不慣れな高齢者などが取り残されないよう、戸別訪問などできめ細かく対応してほしい。
地デジ計画は2001年に打ち出され、03年の3大都市を手始めに06年には全国に拡大した。
映像や音声の情報を圧縮して大量に送れるため、電波を効率的に活用し、空いた電波を携帯電話などの新サービスに使えるようにすることが目的だ。
すでに50か国以上が導入し、米独など完全移行国も多い。地デジは世界的な流れでもある。
政府と放送界は2兆円近い巨費を投じ、国民にも負担を求めて移行計画を進めてきた。視聴者が地デジの利点を十分楽しめるようにすることが何より重要である。
市町村ごとの天気予報や災害情報を表示するデータ放送、スポーツ中継が延長されると次の番組を放送しながら延長戦が見られるマルチ編成などが可能となる。
メディアの多様化で若者層を中心にテレビ離れが進んでいる。茶の間に君臨したテレビの存在感はかつてに比べてかすんできた。
テレビ局には、デジタル技術を生かし、視聴者の心をつかむ質の高い番組づくりを求めたい。それがカラー化や衛星放送など、時代とともに進化してきたテレビの新時代を切り開くことになろう。
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