厚生労働省は20日、2010年度に全国の児童相談所(児相)が対応した虐待の相談や通報件数を公表した。
前年度より1万件以上も多い、5万5152件に上っている。3割近い増加率だ。
厚労省によると、子どもの泣き声や悲鳴が聞こえた、という段階での「泣き声通報」が急増しているという。対応件数の増加は、虐待防止に向けて、社会の関心が高まった結果と捉えたい。
裏を返せば、それほどまでに昨年は痛ましい虐待被害が続発したということだろう。大阪市で、猛暑のマンションの一室に幼い姉弟が1か月以上も置き去りにされ、遺体となって見つかった事件は記憶に生々しい。
ただ、通報件数だけでは虐待問題の深刻度は測れない。急増した通報のうち、虐待と確認したケースが何割あったのか。深刻化する前にどれだけ食い止めたのか。厚労省は、もっと精緻に実態を分析し、対策を急ぐべきだ。
最近も、子どもが親に命を奪われる事件が相次いでいる。
今月上旬、埼玉県深谷市で1歳10か月の男児が頭を母親に殴られて死亡した。ほかに、7月だけでも福岡市や千葉県木更津市などで幼児が虐待されて亡くなった。
乳幼児だけではない。5月には岡山市で、16歳の長女を監禁し、死亡させたとして母親が逮捕されている。児相は2年前から虐待を知りつつ、強制立ち入りや一時保護の措置を取らなかった。
虐待に社会が注意を向け、通報が入るようになっても、児相の対応が遅れては意味がない。
08年度以降、児童虐待防止法で児相による家庭への立ち入り調査権は強化された。だが、強制立ち入りした事例は5件にとどまる。子どもの命を守るための権限行使をためらってはなるまい。
今国会で民法と児童福祉法が改正され、虐待防止に取り組む児相には追い風となっている。
民法には、子どもを保護しようとしても親権を盾に抵抗する父母に対して、親権を最長2年停止できる制度が新設された。児童福祉法では、保護中の子に関して、児相の所長らの判断を親の意向より優先できるようにした。
法的な手立ては整いつつあるが、児相の態勢は十分とはいえない。10年前と比較して、虐待に対応する児童福祉司の人数は2倍に増えたものの、通報件数は3倍に膨らんでいる。
学校や警察、医療機関、そして地域全体の協力が不可欠だ。
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