新聞週間 時代の「窓」が果たす役割は

毎日新聞 2009年10月15日

新聞週間 「今」が見える窓として

親の国民健康保険料の滞納が原因で、子供が医者にかかれない。昨年、小学校の養護教諭を取材し、その事実を知った毎日新聞大阪社会部の平野光芳記者は「子供は親を選べない。社会で守るのが当然だ」と、キャンぺーンに取り組む決意をした。

お役所は、保険給付を差し止められた親の子供が何人いるのかすらつかんでいない。大阪府内の実態を皮切りに独自に調べ始めた。ついには厚生労働省が重い腰を上げ、全国約3万3000人の「無保険の子」の存在が明らかになった。政治も動き昨年12月、中学生以下の子供に一律に保険証が交付される国民健康保険法の改正が実現する。不況と貧困という今日的課題に直結する一連の報道は、09年度の新聞協会賞に選ばれた。見過ごされがちな社会問題に光を当て、不合理な現実を変えるのは新聞の大きな役割の一つだ。

政治報道はどうか。今夏の衆院選で民主党が大勝し、戦後初めて2大政党間の政権交代が実現した。郵政民営化を掲げた小泉政権下の4年前の衆院選で、「刺客報道」が強い批判を浴びた。今回の衆院選では、マニフェスト(政権公約)による政策論争の冷静な報道に、特に新聞は力を入れた。もちろん、不十分な点はあるだろうが、活字メディアの原点を見据えた報道だったのではないか。記者会見のオープン化など、新政権下でメディアを取り巻く環境は変化しつつある。国民の「知る権利」に応えることを第一に、変革の時代の「目」であり続けたい。

無実の人が17年半も獄中にとらえられていた。栃木県足利市で90年、4歳の女児が殺害された足利事件の菅家利和さんである。DNA鑑定が覆り、再審裁判で無罪が言い渡される見込みだ。発生当初、捜査当局への取材を基にDNA鑑定を過信し、菅家さんが犯人であることを前提とする報道もあった。5月の裁判員制度実施を前に、各報道機関は、容疑者・被告を犯人と決めつけないよう記事のスタイルを見直した。事件を教訓に、事件報道の改革にも引き続き取り組みたい。

「新聞は 地球の今が 見える窓」。15日から始まる新聞週間の代表標語だ。作者の藤村女子高校(東京)3年、本田しおんさん(18)は「新聞が家にあるだけで安心につながる。新聞には正確性があり、一番頼りになる存在です」と話す。しかし、情報を受けるだけでは、多様な世界の現実は見えてこない。「この記事を読みたいというモチベーション(動機付け)が大切。(標語には)自ら窓を開けるという意味を込めました」と本田さんは言う。グローバル化する社会の中で、「今」を見つめる若い読者の期待にも応え続けたい。

読売新聞 2009年10月15日

新聞週間 時代の「窓」が果たす役割は

「新聞は地球の今が見える窓」。きょうから始まった新聞週間の代表標語である。

国内外の情勢が不透明な時代だからこそ、新聞は国民の知る権利に応え、的確な判断材料を提供する役割を十分に果たしていかねばならない。

民主党中心の新政権が発足し、その動向が注目されている。

新政権は「脱官僚依存・政治主導」を掲げ、各府省の事務次官の定例記者会見を廃止して、閣僚や副大臣の会見の回数を増やした。政治家が自ら国民に説明すること自体は好ましいことだ。

ただ、自民党時代は首相の「ぶら下がり取材」を原則1日2回としてきたが、鳩山首相の場合は1日1回に減らしている。また、「役人は話してはいけないことになっている」と、官僚が通常の取材を拒む例も出ている。

国民に政策を理解してもらおうという姿勢とは逆行しており、再考を促したい。

記者は独自に培った人脈や読者からの情報などを基に幅広く取材を重ね、報道するだけでなく、官庁や政治家、「時の人」が政策や見解を表明する記者会見も重要な取材の機会にしている。

だが、一方的な宣伝にならないよう、隠された意図や本音を様々な質問で引き出し、情報の確度を上げるべく努力している。原則として、会見を記者クラブが主催するのは、そのためだ。

今年始まった裁判員裁判でも、判決後に裁判員が記者クラブ主催の会見に応じている。同席した裁判所職員が、「守秘義務に触れる恐れがある」と裁判員の発言を注意したことが何度かあった。

だが、読売新聞では裁判所側の拡大解釈とみられるケースについては「守秘義務違反には当たらない」と判断し、掲載した。裁判所主催の会見だったなら、裁判員が心理的な圧迫を受けずにどこまで自由な発言ができただろうか。

記者クラブは明治期に誕生し、戦時中など一時期を除き、公的機関に情報開示を迫って説明責任を果たさせる役割を担ってきた。

取材・報道の自由には責任が伴う。日本新聞協会は新聞倫理綱領で「人権の尊重」などを定めており、記者クラブ所属の記者にはその順守が求められる。誘拐事件のような人命優先の場合は、取材・報道の自由との調整も必要だ。

読売新聞の世論調査では、「新聞報道を信頼できる」という人は85%に上る。社会の変化を的確にとらえ、日本の針路を示す「窓」としての役割を肝に銘じたい。

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