なでしこ世界一 大輪咲かせた感謝の心

朝日新聞 2011年07月19日

なでしこ世界一 伸びやかさを力に

朝まで続いた熱戦に釘付けになった人も多かったろう。サッカー日本女子代表チーム(なでしこジャパン)がドイツで22日間にわたって開かれた女子ワールドカップで頂点に立った。

サッカーでは男女、年齢別の大会を通じても初の世界一だ。女子スポーツの中でも難しいといわれる団体球技では、五輪と世界選手権で優勝したバレー、ソフトボールに次ぐ快挙。回転レシーブなど独自の技術を編み出して体格差を克服し、「東洋の魔女」と世界から称賛された東京五輪の女子バレーを思い起こさせる活躍ぶりだ。

印象深いのは、男子とは違う、その伸びやかな戦いぶりだ。相手の猛攻にひたすら耐えるだけではない。肩に無駄な力を入れず、結果を恐れず、素早いパス回しとセットプレーという武器を存分に生かした。

決勝で世界ランク1位の米国に2度のリードを許した時間帯も、重圧との戦いでもあるPK戦も、恵まれない環境でサッカーを続けてきた日々を思えば、さほど苦しくなかったのかもしれない。PK戦前の円陣には笑顔すらあった。悲壮感や根性論とは無縁の、スポーツの原点である「プレーする喜び」が彼女たちの全身からあふれていた。

そんな姿に日本中が熱狂したのは、大震災以降の重苦しさのなかで、人々がなでしこの快進撃に希望や期待を重ね合わせたからだろう。一瞬でも苦しさを忘れ、勇気を与えられた人は多かったに違いない。

今大会は女性スポーツ大会の発展という意味でも節目になりそうだ。女子サッカーの歴史をひもとけば、北欧や北米などリベラルな先進国を中心に広がってきた。そこに南米やアフリカ勢が台頭し、世界のレベルは着実に上がっている。

中でも、体力任せの大味な競技スタイルだった世界の潮流に、技術という要素を加えたことは日本の大きな貢献だ。体格やスピードの差から、男子に比べおもしろさに欠けると見られがちな女性スポーツだが、力と技の組み合わせで競技の魅力はまだまだ高まるはずだ。

1試合平均約2万6400人という観客動員数もこのことを裏付けている。女性のスポーツの興行面での将来的な可能性も示したのではないか。

世界から追われる立場になったなでしこは、9月にはロンドン五輪予選を迎える。周囲の期待はいや増すばかりで、ときに重圧となるかもしれない。それでもドイツで見せた伸びやかさを失うことなく、再び世界にチャレンジしてほしい。

毎日新聞 2011年07月19日

なでしこ世界一 大輪咲かせた感謝の心

18日は日本中が元気になる、素晴らしい朝になった。

ドイツで開かれていたサッカーの女子ワールドカップ(W杯)で、初めて決勝に進んだ日本代表「なでしこジャパン」がPK戦の末、世界ランキング1位の米国を降し、初めて世界一のタイトルを獲得した。

米国との決勝戦は日本時間午前3時45分開始という早朝の試合だったが、テレビの前で声援を送った人は少なくなかっただろう。

米国とは過去24度対戦し、21敗3分け。まだ一度も勝ったことのない相手だった。この試合も2度先行を許す苦しい展開だったが、粘り強く食い下がり、最後はPK戦でGK海堀あゆみ選手がスーパーセーブを連発、最高の舞台で最強の相手から価値ある初勝利をもぎ取った。

主将としてチームを引っ張る澤穂希選手は延長後半の貴重な同点ゴールを決め、今大会5得点で得点王とMVP(最優秀選手)を獲得、優勝に花を添えた。澤選手の技ありゴールを含め、歓喜のシーンは何度見ても感動は薄れない。東日本大震災からの復興を目指す日本にとって何よりの励ましとなる優勝だった。

感動したのは試合内容だけではなかった。決勝戦を含め、出場したすべての試合後、なでしこたちは「世界中の友人たちへ 支援に感謝します」と英文で書かれた横断幕を手に場内を回り、スタンドの観衆の声援に応えた。今回の東日本大震災に際し、世界中から送られた支援に、なでしこたちが日本を代表して感謝の意を表してくれているようで、胸が熱くなった。

「2強」といわれたドイツ、米国を破って一躍世界の頂点に立ち、これからは「追われる立場」となったなでしこジャパン。だが、海外のプロリーグに所属する一部の選手を除けば、選手たちを取り巻く環境は恵まれているとは言い難い。所属する企業チームの休廃部が相次ぎ、「仕事」と「サッカー」の両立に苦戦を続けている。

かつては国際大会の代表に選ばれても遠征費用の半分は自己負担だったという。「マイナー競技の悲哀」を味わい続けた先輩たちの犠牲の上に今回、大輪の花が開いた。なでしこたちが「感謝の心」を忘れないのはそんな背景があるのだろう。

競技人口の拡大が今後のカギを握る。全国高等学校体育連盟が主催する高校総合体育大会(インターハイ)で女子サッカーが実施されるのは来年の北信越大会から。今回のなでしこの活躍にあこがれ、サッカーを始めたいと思う少女たちの夢をかなえるための環境整備が急務だ。

ともあれ、なでしこジャパンの皆さん、本当におめでとう。

読売新聞 2011年07月19日

なでしこ世界一 日本中を元気付けてくれた

「なでしこ」が見事な花を咲かせた。日本のサッカー史上、ひときわ輝く快挙である。

サッカー女子ワールドカップ(W杯)決勝で、日本は米国をPK戦の末に破り、初優勝を果たした。

「小さな娘たちが本当に粘り強くやってくれた」。佐々木則夫監督は、選手をそうたたえた。早朝のテレビ中継を見て歓喜した人たちも、同じ思いだろう。

試合後、選手たちは世界中から寄せられた東日本大震災への支援に感謝する横断幕を掲げ、場内を一周した。

被災地からは「私たちも頑張らなくては、という気持ちになった」という声が上がった。日本全体を元気付ける「なでしこジャパン」の奮闘だった。

それにしても、彼女たちの強い精神力には驚かされる。

準々決勝では、これまで一度も勝ったことのなかった開催国ドイツを、ホームの大声援をはね返して撃破した。

決勝では、やはり過去未勝利だった世界ランキング1位の米国に2度、リードされながらも追いついた。PK戦を前に見せた選手たちの笑顔からは、たくましさが感じられた。

体格で勝る相手でも、最後まであきらめずに勝利をもぎ取った。フェアプレー賞も受賞した。

1991年に始まった女子W杯は、五輪と並ぶ女子サッカー最高峰の舞台だ。4年に1度開催され、日本はこれまで6大会すべてに出場してきた。95年大会でベスト8に入ったが、それ以外は決勝トーナメントに進めなかった。

日本の女子サッカーが強くなった原動力は、世界の壁にはじき返された悔しさだったろう。

近年、女子でも海外のチームに移籍する選手が増えた。レベルの高いプレーの中でもまれ、力をつけた選手が日本代表に加わることで、海外組と国内組が競い合う。それが「なでしこ」のチーム力の底上げにつながったといえる。

サッカーに打ち込む小学生や中学生の女子選手が増えている。沢穂希選手らの活躍を見て、「いつかは自分も」と誓った「未来のなでしこ」もいるだろう。

W杯制覇は、日本女子サッカーの一層のすそ野拡大につながるに違いない。

選手たちは休む間もなく、9月には来年のロンドン五輪のアジア最終予選に臨む。追われる立場になった「なでしこ」だが、ぜひとも勝ち上がり、五輪でも金メダルを手にしてもらいたい。

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