放射能汚染牛 全頭検査で安全守れ

朝日新聞 2011年07月14日

放射能汚染牛 生産者は強い責任感で

福島県南相馬市の畜産農家が出荷した牛11頭の肉から、国の暫定基準を超える放射性セシウムが検出された。この農家は、福島第一原発事故後の4月上旬まで屋外にあった稲わらをえさとして与えており、福島県はわらを食べた牛が内部被曝(ひばく)したと特定した。

牛が飼育された農場は緊急時避難準備区域にある。県は同区域から出荷されるすべての牛で体表の放射線量を測ってきた。ただ、えさの管理などは農家からの聞き取り調査にとどまり、解体処理後の肉も抽出調査していただけだった。

県は、計画的避難区域と緊急時避難準備区域の牛について、県内で処理した肉はすべて調べる「全頭検査」に乗り出す。県内の施設だけでは追いつかない恐れがある。県外で処理される分も含めてしっかり検査する体制を整え、消費者の不安を取り除いていきたい。

この農家が先に出荷していた6頭は、少なくとも12都道府県に流通し、3割は消費されていた。一定量を食べても健康に影響はないとされるが、追跡調査を続け、結果を公表していくことが必要だろう。

残念なのは、この農家が県の指導などを通じて、屋外のわらをえさにしてはいけないと認識していたことだ。原発事故後の混乱でえさが足りなくなり、やむなく与えたようだが、生産者としての責任感を欠いたと言わざるをえない。

放射性物質に汚染された食べ物から消費者を守るには、出荷前に検査し、安全だと確認できたものだけを流通させることが基本だ。暫定基準を超えたら出荷を停止し、その後は検査で一定の条件を満たせば出荷を再開する仕組みが定着しつつある。

とはいえ、コメや野菜、果物、魚、肉などすべてを検査することは不可能だ。検査機器が足りないし、手間やコストを考えると現実的ではない。このため、検査の実績や消費者の摂取量が多いものを参考に、対象や検査の実施地域を見直すやり方をとっている。

この仕組みの前提は、生産者がルールを守ることだ。国や自治体、生産者団体からの指示に基づき、放射能汚染を防ぐ手だてを尽くす。出荷停止が指示されたらきちんと守り、東京電力に補償を求める。

生産者も原発事故の被害者だけに、無念さや怒りが募るだろう。ただ、ルールを踏み外して消費者の不安を高めることになっては、関連する業界全体が損失を被る。苦境は続くが、あえて一層の自覚を求めたい。

毎日新聞 2011年07月13日

放射能汚染牛 全頭検査で安全守れ

福島県南相馬市の畜産農家が出荷した黒毛和牛から、国の暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された。同じ農家が出荷した別の牛の肉は、一部が既に消費されていた。継続的に大量摂取しなければ健康に影響はないというが、規制値を超える食肉の流通を許したこと自体が、検査を担う県の失態だ。チェック体制の不備を早急に改める必要がある。消費者の不安を解消するとともに、いたずらな風評被害を防ぐには、国の支援も不可欠だ。

問題の肉牛を出荷した農家は、東京電力福島第1原発事故に伴う緊急時避難準備区域内にある。県は、この区域と計画的避難区域から出荷される肉牛全頭について、体の表面の放射線量を検査している。しかし、肉そのものに関しては、解体処理する出荷先自治体のサンプル調査に任せていた。

今回のようにエサなどから内部被ばくしている場合、肉そのものを検査しなければ、チェックできない。県はエサの内容を含めた飼育状況についても、農家の申告を聞き取るだけで済ませてきた。中途半端な検査体制が、県産品の安全性を疑わせる事態を招いたともいえる。

再発防止のため、福島県は両区域の肉牛農家を対象に、緊急の立ち入り調査を始め、出荷する肉牛については、内部被ばくも含めた全頭検査を実施するという。消費者に安心を与え、風評被害を防ぐためにも、必要な対応と考える。

しかし、全頭検査は、簡単ではなさそうだ。県外で解体・食肉処理する分については、先方の自治体に検査を要請するが、受け入れ側も検査機材や人員などに余裕がない。自治体間の協力では限界があり、国の支援が欠かせない状況だ。鹿野道彦農相、細川律夫厚生労働相は、ともに支援の意向を表明した。全頭検査実現のため、関係自治体と具体策の詰めを急いでほしい。

今回の問題は、被災地の農家にも大きな衝撃を与えた。福島県は、検査体制が整うまで、対象区域の農家に肉牛出荷の自粛を求める。消費者の安全・安心を考えれば当然のことだが、震災と放射能の危険にさらされながら、安全な牛の飼育を目指してきた農家の落胆は大きいだろう。

しかも、「出荷が可能になる時期のめどは立たない」(県農林水産部)という。農家の意欲が失われないよう、検査体制の整備とともに、出荷できない農家への補償も急ぐ必要がある。

出荷可能になっても、土壌に放射性物質が残ったままでは、エサになる牧草や稲わらを採取できない。営農継続には、除染作業が不可欠であり、国の迅速な対応が必要だ。

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