原発安全評価 2段階の意味を明確に

朝日新聞 2011年07月12日

原発テスト 第三者の検証が要る

定期検査を終えた原発の再稼働をどう進めるか。すったもんだの末、新しく設けるストレステスト(耐性評価)を、その基準とすることが決まった。

拙速にこの夏の運転再開へ動いた海江田万里経済産業相も問題だが、行き当たりばったりで政策を変えて混乱を招いた菅直人首相の責任もきわめて重い。

政府は、電力の安定供給と脱・原発依存を両立させるという難しい問題に直面している。原子力行政で自ら不信を買うような行為を重ねることは、二度と許されない。

新基準となるストレステストは、どの程度の地震や津波に耐えられるか、その余裕度をコンピューターで計算して確認する。設計時に一律に課される安全基準とは異なり、経過年数や地質構造など、それぞれの原発固有の条件を反映させる。

「安全性」の範囲も、多岐にわたる。政府が参考にする欧州では、航空機の墜落やミサイル攻撃なども評価の対象だ。

具体的なテスト項目など、細部の設計はこれからだが、震災後の安全検査が名ばかりだったことを考えると、一歩前進に違いない。

福島の事故を受けて、経産省の原子力安全・保安院が各電力会社に緊急対策を実施させた後の「安全宣言」では、評価の対象は短期的な措置に限られていた。周辺自治体を含む地元の意見も十分に取り込んだ項目づくりを急いでほしい。

もっとも、ストレステストは、あくまで「計算」だ。式にあてはめる数値いかんで、結果はいかようにも変わる。

また、ストレステストの本来の目的は、原発ごとに脆弱(ぜいじゃく)な部分を徹底的に洗い出すことであり、再開を前提とした試験でもない。テスト結果を確認する保安院が「はじめに合格ありき」の姿勢のままならば、同じことの繰り返しになる。

政府は、テスト項目や結果の評価に原子力安全委員会を関与させることで客観性を保つ方針だ。しかし、安全委自体、福島の事故で期待された役割を果たしておらず、国民の厳しい視線を浴びている。

地震やシステム工学といった原子力以外の専門家を含め、第三者が検証できるよう、できるだけ情報を公開することが望ましい。テロ対策などの安全保障上、難しい面もあるが、「原子力村」に委ねてきた安全チェックの態勢を変えるときだ。

同時に、国民の信頼を取り戻すには、保安院の独立を軸とした規制・監視当局の再編・強化を急がなければならない。

毎日新聞 2011年07月12日

原発安全評価 2段階の意味を明確に

ストレステスト(耐性試験)を参考にした原発の安全評価について、政府が統一見解を公表した。定期検査中の原発に対する「1次評価」と、運転中の原発に対する「2次評価」の2段階で評価するというが、わかりにくい。

ストレステストは今回の津波のように設計の想定を超える事象が起きた場合に、耐えられる余裕がどれほどあるか示すものだ。原発が停止中でも運転中でも、基本的な考え方は変わらないはずだ。

政府内には安全評価を原発再稼働の条件とするかどうかで不一致があった。統一見解は、異なる意見の双方に配慮した折衷案のようであり、1次評価は、もともと「再開ありき」と受け取られかねない。

枝野幸男官房長官は、1次が2次より簡易になるわけではないとの見方を示しているが、不信を招かない明確な説明が必要だ。

政府は、安全評価の項目や計画、評価結果を原子力安全・保安院が作成・確認するだけでなく、その妥当性を原子力安全委員会がダブルチェックする方針も打ち出した。

東京電力福島第1原発の事故で、経済産業省に属する保安院に対する人々の信頼感は著しく低下している。最低限、独立した機関の評価が必要であり、安全委の役割は重要だ。

ただ、安全委に対する信頼も揺らいでいることを思えば、さらなる独立性や信頼性を確保することも考慮した方がいい。欧州連合(EU)が実施している原発のストレステストでは、他国の専門家を含めた相互評価が実施される。日本も外国人などを含めた専門家チームで判断するなど、工夫が必要ではないか。

安全評価をめぐる役割について政府と安全委の間に温度差がみられるのも気になる。政府は安全委を積極的に関与させる姿勢を示しているが、安全委はあくまで保安院の評価法や評価結果の妥当性を「確認する」との立場だ。

再稼働の可否については、政府が責任を持って判断すべき事項だろう。ただ、そのためのデータや各原発の安全評価については、安全委にも独立した立場から積極的に関与してもらいたい。

2段階評価の妥当性を考える上では、電力需給の実情も重要な要素だ。ところが、立場によって「電力には十分な余力がある」という見方と、「このままでは日本の産業がだめになってしまう」という見方があり、はっきりしない。

この夏はどうか。今年の冬や来年の夏はどうか。自家発電などの潜在力まで含めたらどうか。さまざまな条件に応じた現実の姿を、政府も関係機関も、はっきり示す努力をしてほしい。

読売新聞 2011年07月12日

原発の再稼働 混乱招くあいまいな統一見解

これで原子力発電所の再稼働問題を巡る混乱を収拾できるのか、懸念を拭えない。

政府が原発の安全性を2段階で評価する新基準を、統一見解として公表した。

定期検査中の原発は、各電力会社が再稼働に向けた1次評価を行う。大きな地震や津波など過酷な条件を想定し、どこまで耐えられるかを確認するものだ。

この評価結果について原子力安全・保安院が「確認」し、さらに原子力安全委員会が「妥当性を確認する」としている。

これとは別に、運転中の原発を含めた全原発を対象に、運転継続を認めるか、中止させるかを決める2次評価を実施するという。

欧州で実施中のストレステスト(耐性検査)を参考に、安全評価を行うこと自体は意味がある。

だが、見解にはあいまいな点が多く、問題が少なくない。

一つは、テストの中身を具体的に示さないまま、再稼働の新たな条件としたことだ。

テストでは、コンピューター上の模擬計算で緊急時の原発の状態を推定するという。欧州のテストは、原発を運転したまま実施しており、原発の再稼働問題とは結びつけていない。

政府は再稼働の追加条件とした根拠をきちんと説明すべきだ。

運転中の原発も、今後次々と定期検査に入り、停止する。このままでは電力不足が深刻化する。

菅首相は最近、電力不足を補おうと、企業の自家発電の余剰分や、稼働していない火力発電所の調査を経済産業省に指示した。泥縄の対応そのものではないか。

もう一つの問題は、原発の安全性と再稼働の是非を判断する責任体制が明確ではないことだ。

法律上は、保安院に責任があるが、統一見解は、原子力安全委にも判断への関与を求めている。

安全委の班目春樹委員長は「(我々が行う)安全性評価は、原発の再稼働の判断と関係ない」と述べ、個々の原発の判断に、関与することに難色を示している。

具体性を欠き、かつ政府内の役割分担もはっきりしていない統一見解では、今後、新たな混乱が生じる可能性がある。

そもそも、統一見解は、原発立地自治体に対する説得材料としてまとめられたものだ。

だが、地元からは「テストの中身が不透明で、説明不足だ」などと不満の声が上がっている。国民の安心・信頼を確保するはずが、不安と不信を広げていると言わざるを得ない。

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