シャトル最終便 宇宙の一時代に別れ

朝日新聞 2011年07月10日

シャトル引退 次の宇宙に成果つなぐ

まばゆいばかりの閃光(せんこう)とともに巨体がゆっくりと持ち上がったかと思うと、瞬く間にフロリダの空を駆け上っていく。

この光景も見納めだ。

米国のスペースシャトルは、きのう打ち上げられたアトランティスで1981年の初飛行以来30年の歴史に幕を下ろす。

シャトルは初の再使用型宇宙船として、毎週のように宇宙を往復して費用を格段に下げるのがねらいだった。2回の事故がおき、安全性に疑問符がついた。次々に必要になった技術的改修や、経済的な制約から往復は年数回にとどまり、もくろみは外れた。

米国にとっては軍事目的の飛行もたくさんあった。一方、産業への応用で期待された無重量下での新合金や新薬の開発という成果はあまりなかった。

だが、長い活躍を通じて16カ国の355人を軌道へ運んだ。宇宙活動を米ソの独占から世界に広げた意義はとても大きい。

日本からは7人が延べ12回飛行した。身近な先輩が見せてくれた無重量の不思議に夢をふくらませた子どもは多いだろう。

シャトル引退で、世界の宇宙開発は新たな時代を迎える。

米国は、財政難から後継機の開発を断念した。国際宇宙ステーション(ISS)との往復は民間に託す。その実用化には数年かかるとみられる。

ISSとの間を飛行士が往復する手段は当面、ロシアのソユーズ宇宙船だけになる。

補給物資や実験機材の輸送も当面は日本、欧州、ロシアが担う。これからの有人宇宙活動は国際協力なしに進まぬことを、はっきり示している。

日本は、シャトルでの実験に参加して宇宙での活動の幅を広げた。ISSでは最大の実験棟「きぼう」を建設し、大きい荷物の輸送を担当する輸送機「こうのとり」も開発した。ものづくりで、日本の技術力が発揮された。シャトル時代に学んだ技術や国際協力の経験を、さらに次につなげたい。

ISSは今のところ、2020年まで運用される予定だ。日本が学び、作り上げた技術を戦略的に活用したい。アジア諸国と連携するのもいい。存分に活用してこそ、年間400億円を投じる意味が出てくる。

宇宙へ。次は何をめざすか。オバマ大統領は昨年、小惑星や火星をめざす計画を発表した。月面基地を造って、そこから宇宙へ飛び出していこうという構想もある。

具体化はこれからだが、シャトルで学んだ力は人類を前に進めるに違いない。

毎日新聞 2011年07月10日

シャトル最終便 宇宙の一時代に別れ

惜しみない拍手とノスタルジー、過去の犠牲への痛みと将来への期待や不安。さまざまな思いと課題を残し、米スペースシャトルがラストフライトに飛び立った。

1981年4月のコロンビア号の初飛行から30年。シャトルは16カ国356人、延べ800人以上を地球周回軌道に運んだ。92年の毛利衛さんを皮切りに日本人宇宙飛行士7人もシャトルで宇宙に旅した。

飛行機に乗るように地球と宇宙を往復したい。そんな夢を具現化する再利用型の往還機が、無重量の宇宙をより身近なものにしたことは間違いない。米国の乗り物でありながら世界にも大きな影響を与えた。宇宙開発に一時代を築いたことを評価したい。

自前の有人宇宙船を持たない日本にとっては、有人飛行の経験を積むための貴重な足がかりだった。国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在もこなし、宇宙における国際チームの一員として地位を獲得したのもシャトルがあったからこそだ。

しかし、シャトル計画そのものは、安全面とコスト面で「不合格」だったといわざるを得ない。

86年のチャレンジャー事故、03年のコロンビア事故で合計14人が犠牲になった。百数十回に2度の事故は、決して低い確率とはいえない。背景には往還機であるがゆえの複雑な設計やシステムがある。

結果的に安全対策はコストを押し上げ、打ち上げ目的も限定された。老朽化する機体や地上の施設を刷新する余力も、今の米国には残されていない。

米国のオバマ政権は、アポロ型の使い捨て宇宙船に回帰することを決め、月、小惑星、さらに火星をめざす有人計画を打ち出している。しかし、そのためのロケットの設計はこれからで、先行きは不透明だ。

地球とISSを結ぶ有人輸送機の開発は民間にゆだねられた。初号機が飛ぶまでに数年かかり、その間はロシアのソユーズに高額の「ヒッチハイク」を頼まざるを得ない。

次世代輸送機が不在のままシャトルが引退することで、宇宙の世界地図は変わるかもしれない。シャトルが主役となって建設してきたISSも費用対効果や存在意義が問われている。

そうした中で、ヒッチハイク先がシャトルからソユーズに変わる日本は、将来の有人飛行をどう位置づけていくのか。津波と原発の二重の災害の対応に追われる今、答えを出すのは容易ではない。

小惑星探査機「はやぶさ」のような無人技術に磨きをかけるのか。独自の有人飛行を模索するのか。優先順位と戦略を明確にすることが、今まで以上に重要となっている。

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