検察改革 信頼される強い組織の再建を

毎日新聞 2011年07月09日

検察改革の行方 特権意識を捨て出直せ

最高検が、検察改革の現状と今後の取り組みをまとめた。

外部の有識者も招いて、「金融証券」「知的障がい」など六つの専門委員会を新たに設置することなどが目新しい内容だ。検察官が「公益の代表者」として、専門的な知見を蓄積する体制作りは当然、必要だろう。しっかり取り組んでもらいたい。

だが、大阪地検特捜部の証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件を受けて検察が最も批判されたのは、ストーリー優先の捜査や供述調書偏重の取り調べ手法だった。まず、その点への真摯(しんし)な反省と、再発防止が求められる。

先日、小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る元秘書ら3人の政治資金規正法違反事件の公判で、東京地裁が供述調書の相当部分について証拠採用を却下する決定をした。

決定では、関与を認めた元秘書の供述を維持させるための利益誘導的な調べや、共犯者が既に自白したとうそを言って供述を引き出す手法、さらに目の前でメモを破り捨てるなどの威迫行為が取り調べた複数の検察官にあったと指摘された。

特捜部ならば何でもできるという過度の特権意識が、違法性の高い取り調べの背景にあったと批判されてもやむを得ないだろう。その特捜部について、名称を変更する議論もあったが、見送られた。

もちろん、看板をかけ替えればいいという話ではない。だが、組織内の「特別」意識がマイナスに作用してはならない。検察官倫理規定を10月までに制定するというが、それを待たずに意識改革を進めてほしい。

また、裁判官が疑問なく検察官作成の調書を採用する時代はもはや過ぎ去ったと検察は認識すべきだ。

特捜部の事件については、高検検事らによる「上からのチェック」と、新たに5月に発足させた総括審査検察官による「横からのチェック」、さらに公判段階でのチェック体制を整えるという。

多面的なチェックは必要だ。だが、逮捕と起訴の権限を両方持つ特捜部の体制に本質的な問題があるとの批判を受け、笠間治雄検事総長は、起訴権限を他部の検察官に担わすことも検討していたはずだ。今回は盛り込まれなかったが、特捜部のチェック体制については、引き続き議論していくべきだろう。

江田五月法相の指示を受け、特捜部は取り調べの全面的な録音・録画も試行的に始めた。また、今回、知的障害のある容疑者の取り調べについて、全面的な録音・録画を行う方針を明らかにした。

実効性のある検証をするためにも、検察全体で積極的に取り調べの可視化に取り組むことが大切だ。

読売新聞 2011年07月09日

検察改革 信頼される強い組織の再建を

新たな組織を有効に機能させて、不正の根絶と捜査の適正化を図らなければならない。

大阪地検特捜部の元主任検事による証拠改ざん事件などを受けて、最高検が、再発防止に向けた組織改革の内容を公表した。

内部の不正を専門に調べる監察指導部や、検察運営に対し恒常的に助言や指摘を行う有識者の外部委員会を新設した。

この事件では、改ざんの事実を知った同僚検事が上司に報告したにもかかわらず、当時の特捜部長らが隠蔽を図ったとされる。

不正行為の報告を受け付ける監察組織を作ることで、こうした事態の再発を防ごうという狙いは理解できる。

監察指導部は、休憩を与えずに容疑者を長時間取り調べたり、供述の強要や誘導をしたりする行為についても、弁護士から情報提供を受け、調査を行うという。身内への甘さを排し、厳正なチェックに徹する必要がある。

検察の体質が閉鎖的で、外部からの批判にさらされる機会が少なかったことが、組織内におごりを生み、不正の温床となった面があることも否めない。

最高検に新設された外部委員会は、元裁判官や弁護士、学識経験者らで構成される。最高検は積極的に情報を開示するとともに、その助言に真摯(しんし)に耳を傾けることが求められよう。

裁判所では、こうした委員会が全国の地裁に設置されている。検察もできる限り多くの意見を聞く機会を設けるべきではないか。

一時、法相の諮問機関などで存廃論が議論された特捜部については、名称を変えずに、東京、大阪、名古屋の各地検で存続させることになった。ただ、政官界汚職など特捜部が自ら事件を掘り起こす独自捜査の体制は縮小される。

「大型の汚職事件などで結果を出さなければ」という焦りやプレッシャーが、捜査の暴走につながりかねないとの理由からだ。

だが、体制縮小によって、政官界の不正に切り込んできた特捜部の士気まで落としてしまってはならない。引き続き「政・官・財」の癒着に目を光らせる姿勢は堅持してもらいたい。

一方、脱税やインサイダー取引など経済事件の捜査にあたる特捜検事は増員される。金融犯罪の手口は高度化しているだけに、捜査体制の拡充は時代の要請だ。

国税庁や証券取引等監視委員会などと連携を強化し、捜査力の底上げを図ることが急務である。

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