松本復興相辞任 延命政権の限界を露呈した

毎日新聞 2011年07月06日

松本復興相辞任 政権末期の限界を露呈

被災地の人々に申し開きできぬ大失態である。岩手、宮城両県知事に命令口調で高圧的な発言を連発した松本龍復興担当相が就任からわずか9日目で辞任に追い込まれた。

政府と被災者の信頼関係を根底から揺るがした以上、辞任は当然だ。看板人事に失敗し復興行政を混乱させた菅直人首相の責任は極めて重大であり、与党からも即時退陣を求める声が公然と出ている。首相、与野党は政治の迷走を長引かせず、早期に次期政権に移行できる環境整備を急がねばならない。

松本氏は一連の言動を陳謝しいったんは続投を表明したが、野党は国会審議で追及する構えだった。いくら釈明を重ねたところで、もはや取り返しのつかない状況と判断したということだろう。

首相の対応はお粗末の一語に尽きる。松本氏の発言を事実上黙認したうえ、更迭に動くどころか、慰留したのだという。そもそも松本氏には職務を完遂する熱意も最初からなかったのではないか。復興相就任以来の一連の投げやりな言動からはそんな疑念すらつきまとう。

資質すら疑われる松本氏を復興の司令塔に据えた首相の任命責任は重い。復興にめどをつけることが退陣までの役割のはずが、政権の末期症状が混乱を加速させている。こんな状態では復興に取り組む姿勢そのものが問われよう。

被災して今なお避難所暮らしを強いられる人、原発事故で故郷を離れた住民は怒りを通り越してあぜんとする思いだろう。時間との闘いである復旧、復興を遅らせた罪は重い。菅内閣下で閣僚辞任劇は4人目だが、これまでと異質の責任が伴うことを自覚しなければならない。

後任の復興相には平野達男副内閣相が昇格した。これまで被災地支援に取り組み実務に詳しいとはいえ、中央官庁ににらみを利かせるような重みはない。次期政権までのつなぎ人事と受け止められよう。

被災地の「二重ローン」対策などの2次補正予算案、特例公債法案、再生可能エネルギー固定価格買い取り法案の3案件を首相は退陣の条件とするが、国会の状況は厳しい。首相は退陣時期をより明確にするなどして延命への疑念払拭(ふっしょく)に努めるべきだ。

延長国会は6日の衆院予算委員会審議を皮切りにやっと論戦が再開される。2次補正予算案、特例公債法案、原発事故の被災者に賠償する原子力損害賠償支援機構法案は特に処理の遅れが許されぬ課題である。

首相の責任を厳しく問う声が出るのは当然だ。一方で国民生活に支障を来さない大きな見地から、与野党は重要法案の審議を急ぎ、歩み寄りをこころがけねばならない。

読売新聞 2011年07月06日

松本復興相辞任 延命政権の限界を露呈した

菅政権の末期症状としか言いようがない。

松本復興相が、被災地での放言について「被災者の心を痛めたことをおわびしたい」として、あっさり辞任した。

松本氏の言動に対しては、東日本大震災の被災地で暮らす人々に反発の声が広がっていた。正常化に向けて動き始めた国会の審議への影響も懸念された。

復興相が被災者の信頼を損ない、復興の障害となった以上、辞任は当然である。

菅首相の肝いりの閣僚人事は、わずか9日で頓挫した。

政府と地方自治体が一体となって本格的な復興を進めようという時に、こんな人物を指揮官に据えたことに無理があった。首相の任命責任も厳しく問われよう。

松本氏の放言の一つは、達増拓也岩手県知事に「知恵を出したところは助けるけど、出さないやつは助けない」と高飛車に言ったことだ。だが、より知恵を絞るべきはスピード感を欠き、対策が後手後手に回っている政府の方だ。

村井嘉浩宮城県知事に、「お客さんが来るときは、自分が(まず部屋に)入ってからお客さんを呼べ」などと威圧的な態度をとったことも到底理解できない。もとより、政府と自治体は主従ではなく対等な関係である。

松本氏の後任には、復興担当の平野達男内閣府副大臣が昇格した。岩手県選出であることと、これまで被災者支援を担ってきたことの継続性を重視した。

平野氏には、被災地との信頼関係を回復し、復興の司令塔としての役割を果たすことが求められよう。瓦解に向かいつつある政権の中で力を発揮できるだろうか。

復興相の交代について、枝野官房長官は、「復興への影響が小さくなるよう努力する」と述べた。復興への取り組みを、さらに遅らせてはならない。

政府の復興対策本部は、今月中に復興の基本方針を策定する。復興構想会議の提言に盛り込まれた復興財源や様々な特区制度をしっかり肉付けしてもらいたい。

松本氏の辞任で、菅首相の求心力は一層の低下が避けられない。退陣を表明した首相がこの重要局面で政権を担い続けるのは、もう限界である。国政が停滞し、国益を損なうばかりだ。

自民党の谷垣総裁は、菅首相退陣後の新政権では「閣外協力」を模索する考えを表明している。

与野党は、より強力で安定した新しい政治体制を構築するための準備作業を急ぐべきである。

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