タイの総選挙で、タクシン元首相派の政党が半数を超える議席を得て、勝利した。
選挙戦の先頭にたったタクシン元首相の妹、インラック氏が次期首相となる見通しだ。
議会で絶対多数を握っていたタクシン氏を5年前、軍が首相の座から追放して以来、この国の政治は、タクシン支持派対反タクシン派の争いに終始し、社会は分裂してきた。
前者は、東北・北部の農民や都市の貧困層が主体だ。これに対し軍・司法・官僚など、王党派とされる既得権層が民主党政権の約2年半を支えた。
今回の選挙は民主党の実績や政権運営の評価が問われた。昨年5月、タクシン派の集会を武力で弾圧した軍と政権の行いも審判の対象となった。
国民は結局、軍と結託した民主党政権のあり方にノーを突きつけた。初の女性首相候補として、インラック氏が期待を集めた面もあった。
民主党とその背後にいる勢力が選挙結果を受け入れることがなにより肝要である。
というのも、この10年であった5回の総選挙でタクシン派はすべて勝ったが、何度も政権を転覆させられたからだ。
とりわけ軍が再びクーデターで選挙結果を覆すことなどあってはならない。そんな心配が頭をよぎるのは、軍幹部が選挙中もタクシン派へのあからさまな敵意を示してきたためだ。
司法も政治介入を慎むことだ。タクシン派の首相をささいな理由で失職させたり、同派政党を解党したりする一方、空港を占拠した反タクシン派を訴追せず、「二重基準」と批判され、調停機能をなくしていた。
タイではこれまで、政治的な危機の際には、国民に敬愛されるプミポン国王が調停に乗り出し、収束させてきた。だが高齢の国王は長期入院中だ。
こうした状況で、社会の対立を乗り越えるきっかけは、投票で示された国民の意思を、すべての当事者が尊重することしかないのではないか。
焦点は、汚職の罪で有罪となり、逃亡中のタクシン氏に新政権が恩赦を与えるかどうかだ。
帰国が日程に上れば、政局は緊張するだろう。両派がどこで妥協を図るか、注目される。
クーデター前、タクシン氏は強引な政治手法が都市中間層や王党派から反発を受けていた。
兄タクシン氏の「クローン」を自称するインラック氏は、選挙戦で「国民和解」を訴えた。勝った側がよほど謙虚に、より大胆に譲歩する覚悟がなくては和解は進まない。
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