毎日新聞 2011年07月05日
日中外相会談 海の安全で信頼醸成を
尖閣諸島沖での昨年9月の中国漁船衝突事件以降、滞りがちだった日本と中国のハイレベル交流が、東日本大震災の復興支援などの対日融和ムードを背景に、正常な軌道に乗りつつあることを歓迎したい。
松本剛明外相が昨年8月の岡田克也外相以来、日本の外相としてほぼ1年ぶりに訪中し、楊潔〓外相や、胡錦濤国家主席の後継者とされる習近平副主席らと会談した。さまざまな懸案を抱える日中両国だが、対話と協調が日中相互の利益となることは言をまたない。また、世界第2、第3の経済大国である隣国同士が戦略的互恵の精神で関係を深化させられるかどうかは、東アジア全体の安全と平和をも大きく左右する。日中両国はそうした責任を共有し、個別課題に対処する必要がある。
とりわけ、海洋の安全に関する信頼醸成は焦眉(しょうび)の急の課題だ。
尖閣諸島沖の衝突事件や日本近海への中国艦船の進出、東シナ海のガス田開発など、昨今の日中摩擦や懸案の多くは海を巡って起きている。このところの南シナ海の緊張も日本にとって人ごとではない。今回の会談で、松本外相が中国の海洋進出に懸念を示したのは当然である。日中両国は偶発的な事故などを未然に防ぐ努力を重ねるとともに、海における危機管理メカニズム構築のため、さらに知恵を絞ってほしい。
中国側の一方的な延期通告で昨年9月から止まったままのガス田開発交渉は、今回の外相会談でも具体的な前進は図られなかった。日中両国は3年前、北部におけるガス田の共同開発などで合意した際に、東シナ海を「平和・協力・友好の海」にしよう、という認識を共有している。中国はその精神を踏まえて、交渉のテーブルに戻るべきである。
日米が先月、新たな共通戦略目標で中国に国際的な行動規範順守を要求したことに対し、中国側は今回、反発する姿勢を見せた。だが、国際協調的な中国は地域の安定要因となり、中国の利益にもなる。日本は米国と共に、そのことをあらゆる機会に説いてゆかねばならない。
外交には「アグリー・ツー・ディスアグリー(同意しないことに同意する)」という言葉がある。意見の違いは違いとして認め、大局的な見地で前進を図る。日中両国の戦略的互恵関係とは、そうあるべきものだ。
来年の日中国交正常化40周年の節目を前に、今年は日本の首相が訪中する順番の年である。中国側は菅直人首相の訪中を歓迎するとしているが、いつ、誰が行くのかは、首相の退陣時期とからんで不透明だ。政局混迷による外交の停滞から一日も早く抜け出さなければ、腰を据えた対中外交戦略は構築できない。
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読売新聞 2011年07月05日
日中外相会談 中国は「互恵」を行動で示せ
日中間の幅広い問題を率直に話し合ったのは良かったが、中国の海洋進出などの懸案はほとんど前進しなかった。
松本外相と楊潔チ中国外相が北京で会談し、震災復興支援のため、中国が対日貿易投資視察団を派遣することで合意した。来年の国交正常化40周年に向けた交流強化でも一致した。
菅首相と中国の温家宝首相は5月の会談で、「戦略的互恵関係」の更なる深化を確認している。今回の外相会談はその第一歩との位置づけだったが、成果は乏しかったと言わざるを得ない。
東シナ海でのガス田開発の条約交渉について、松本外相が早期再開を求めたのに対し、楊外相は「事務レベルで再開の準備をする」などと述べるにとどまった。
条約交渉は、昨年9月、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の対日報復措置として中国が一方的に中断したままだ。事件で悪化した日中関係を修復するため、中国は早急に交渉の再開に応じるべきだ。
周辺国と軋轢を生んでいる中国の海洋進出に関し、松本外相は、「関係国間の緊張が高まることを懸念している」と述べ、中国側の自制を求めた。楊外相は「2国間の係争は2国間で平和的に解決されるべきだ」などと反論した。
中国から前向きな対応を引き出すため、政府は、米国や東南アジア各国などと連携し、粘り強く働きかける必要がある。
松本外相は、艦船の偶発的な接触が危機に拡大しないようするため、重層的な緊急連絡体制の構築も訴えた。中国の海軍艦船に加え、海洋観測船、漁業監視船とのトラブルを防ぐ狙いがある。
妥当な提案であり、早期の実現を図りたい。
今夏に予定されている閣僚級の第4回ハイレベル経済対話の具体的な日程は決まらなかった。
実務的な対話を重ねることは、両国の信頼関係を深め、双方に利益をもたらす。その対話にさえ後ろ向きな中国の姿勢は、「互恵」への真剣さを疑わせる。
中国側には、重要案件の本格的な協議は、「ポスト菅」政権に先送りしたいとの思惑もあるのだろう。菅政権が末期を迎える中、対中外交が難しさを増していることを意識せざるを得ない。
重要な外交案件で、日本が腰を据えて他国と交渉するには、日本の政権の安定が欠かせない。
自らの政権をずるずると延命させることが、日本外交に多大な悪影響を与えている。そのことを菅首相はきちんと自覚すべきだ。
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