朝日新聞 2011年06月30日
中国共産党 「世界最大」の度量示せ
おしゃれなカフェやレストラン、個性を競うブティックが軒を連ねる上海の新天地は、中国を代表する繁華街の一つだ。
中国共産党は今から90年前の7月、ここで初の大会を秘密裏に開いた。当時の党員は50人余りとされ、十数人が参加した。
1949年の建国までの、苦難の連続。その後の大混乱。内戦や抗日戦、権力闘争、そして飢餓により、おびただしい人命が失われた。党の歴史上、汚点となった事件も少なくない。
しかし、中国はこの30年、高成長を続け世界第2の経済大国になった。旧ソ連や東欧の社会主義国が立ち行かなくなったのとは違い、大胆に改革開放政策を採用し、市場経済を導入した党の役割は特筆すべきだろう。
発展の勢いに乗って、五輪や万博も成功させた。7月1日の結党記念日を前に、北京―上海間1318キロを5時間足らずで結ぶ高速鉄道も営業を始める。
しかし、8千万人を超えた党員のすべてがお祭り気分でいるわけではない。そして多くの市民はむしろ、さめている。
労働者や農民の側に立ち、各民族の利益を代表し、人民に奉仕するのが結党の理念だった。だが、現実はそうではない。
改革開放は沿海部から始まり富裕層が生まれた。党の権威を背にした国有企業の経営者や、党との関係を使って商機を広げた民間経営者は巨万の富を得た。彼らの子供は「富二代」と呼ばれ、七光りで豊かになる。党官僚は権力をカネに換える。
しかし、多数はそんな世界とは無縁だ。ささやかな豊かさを時に感じつつも、絶望的な不公平感を抑えることはできない。
賃上げや土地収用をめぐり当局から弾圧を受けているのは、主人公であるべき農民や労働者だ。こんな矛盾をつくるために党があるわけではあるまい。
農民らは党を打倒するつもりはなく、小さな権利の保障を願っているのだ。だが、今の事態を放置すれば体制を脅かすことにもなりかねない。
社会のゆがみの原因は、政治体制の改革に本腰を入れてこなかったため、党をチェックする仕組みが弱いことだ。党員の犯罪はまず党機関が捜査し、司法にゆだねるかどうかを決める。第三者の目は届かない。
やはり複数政党制が望ましいのだが、党がそこに踏み込むことは近い将来なかろう。ならば非党員を司法、警察、治安部門で大胆に起用してはどうか。党の権威が冒されるという反発が予想されるが、社会の安定を保つには必要だろう。世界最大の党の度量に期待したい。
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毎日新聞 2011年07月02日
中国共産党90年 毛賛歌では逆コース
中国共産党の建党90年祝賀会が1日、北京で開かれた。国家主席の胡錦濤総書記が演説し、中国を世界第2位の経済大国に躍進させたのは共産党だと自賛した。
中国共産党は史上、最も成功した共産党だろう。マルクス、エンゲルスが「共産党宣言」で「立て、万国の労働者!」と述べてから163年。「世界の工場」中国では、労働者階級代表の共産党が政権を独占している。だが、地下のマルクスは喜んではいないだろう。中国が共産主義の理想を体現しているとは思えないからである。
毛沢東が天安門上で「中国人民は立ち上がった!」と新中国建国の宣言をして62年。「一窮二白(一に貧しく、二に遅れ)」の国から、アジアで億万長者の一番多い国になり、世界最速の高速鉄道を走らせ、世界最大のインターネット人口を持つ国になった。みな共産党指導の成果である。それなのに共産党は人民の批判を恐れインターネット検閲を続けている。
「新中国」から「大中国」への転機は、トウ小平の改革・開放路線だった。わずか33年前である。学生を先頭に民主化を求める天安門事件が起きたのは22年前。いまの中国の繁栄も混乱も、この三十数年間の党の路線に起因している。
トウ小平が目指したのは共産党の政治支配と市場経済の両立だった。そのなかで二つの潮流が生まれた。一つは、共産党が市場と社会を強権的に管理することを目指す、毛沢東以来の保守派である。「穏」(安定)重視の「維穏派」と呼ばれる。最近では、国防予算の伸びを治安対策予算の伸びが上回っている。
だが大きなジレンマがある。市場経済に介入すれば党に「特殊権益」が生まれ、賄賂が構造化される。汚職の横行は社会不満を高める。胡演説も「党員は権力を私してはならない」と強調した。
もう一つは、人民の権利を拡大し、貧富の格差を縮めようという、改革派本流の「維権派」である。だが、人民の権利を拡大すれば、共産党幹部の既得権益が脅かされる。
いまの共産党では胡主席、温家宝首相らは維権派に属している。しかし多数派は、江沢民前主席派に近い維穏派である。胡政権は来年の党大会で任期を終え、維穏派の習近平副主席が総書記として次の政権を握ることになっている。
習氏の指導のもとに中国共産党は建党100年をめざす。中国の発展が持続できるかどうかは、習氏が維権政治をどこまで実現できるかにかかっている。が、国内では毛沢東賛歌をみんなで歌う保守回帰運動が盛んだ。大きな期待は持てない。
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読売新聞 2011年07月01日
中国共産党90年 責任大国への道のりは遠い
中国共産党が1日、創設90年を迎えた。
世界2位の経済大国になった中国に国際社会が求めるのは大国としての責任を果たすことだ。
それにはまず、自己の主張を一方的に押し通し、近隣諸国を威圧して摩擦を繰り返す姿勢を改めるべきだ。
初の空母建造が伝えられるなど増強著しい軍は、一段と発言力を強めている。領有権や海洋権益が絡むケースで、中国政府が強硬な姿勢を取る背景には、軍の影響力があると指摘されている。
党が軍を指揮する仕組みの軽視ではないか。懸念は拭えない。
党90年に合わせて営業開始した北京―上海間の高速列車は、日本の東北新幹線「はやて」の車両に技術改良を加えたものだ。
中国側は独自開発した技術だと強調するが、中国鉄道省と日本側企業との間で第三国に技術移転しない約束があったという。にもかかわらず、米国など海外5か国・地域で特許申請中とは驚きだ。
日本側も中国が知的財産権を尊重しないことは分かっていたはずで、脇の甘さは否めない。
足元の国内にも問題はある。
農民や都市住民らは、強制的な土地収用や役人の横暴、汚職に反発して、連日、暴動や集団抗議を起こしている。その数は年間18万件を超えたとの試算もある。
貧富の格差拡大に象徴される社会の不平等に対する国民の不満は限界に達している。
治安維持の国家予算が今年初めて国防費を上回った事実を見ても社会不安の深刻さが分かる。
党・政府に異議を唱える知識人たちを相次いで拘束し、自宅軟禁するなど、当局の人権軽視は、はなはだしい。
チベット、ウイグルなどの少数民族と、漢族との対立も続いている。最近はモンゴル族による暴動が発生した。開発一辺倒の少数民族政策の限界を示すものだ。
中国共産党が1921年に誕生した時の党員はわずか50人余、それが今や8000万人を超える巨大組織に膨れ上がった。
全人口の6%に過ぎないこのエリートたちは、党組織を通じ、あるいは政府、国有企業の幹部などとして種々の特権を享受する特殊な利益集団と化している。党指導部のスローガン「調和社会の実現」は、むなしく響くばかりだ。
中国共産党は来年秋、党大会を開催し、引退する胡錦濤総書記に代わって習近平氏を新総書記に選出する予定だ。大国のかじ取りを担う習氏の責任は極めて重い。
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