毎日新聞 2011年06月29日
税と社会保障 決めた事はやり遂げよ
被災地復興に必要な補正予算は当然急がねばならない。再生可能エネルギーの買い取り法案も大事だろう。だが、6月末までに「やる」と決めていながら、まだ果たせていない重要な課題があることを菅直人首相は忘れていないか。
税と社会保障の一体改革だ。政府は20日までに与党の同意を得て、政府案を最終決定する方針だった。だが財源となる消費税を「15年度までに10%まで引き上げる」とする提案に民主党から反対が噴出、意見集約できない事態に陥っている。国民新党も増税に強く反対しており、月内の閣議決定が危ぶまれている。
「デフレ下で増税はできない」「被災地復興に水を差す」「菅首相のもとで決めるべきでない」。理由はいろいろだが、日本の社会保障や財政の現状・先行きに対する危機感がなさ過ぎるとしか言いようがない。
震災があろうとなかろうと、景気が悪かろうと良かろうと、人口の高齢化は進み、現行の社会保障制度が持続不能となることは、とうに明白になっていた。赤字国債を増やしたり埋蔵金をかき集めるなどして無理やり帳尻を合わせる予算編成が限界に達したことは、民主党政権も分かったはずだ。
だから、今年6月末までに抜本的な改革案をまとめることにしたのである。昨年12月14日の閣議決定だ。
それから半年以上。退陣表明にかかわらず、閣議決定したことを実行するのは首相の当然の責務である。在任期間が短くなったのならなおさら、責任の全うに全力を注ぐべきではないか。ところがこの時期に、増税反対急先鋒(せんぽう)の亀井静香・国民新党代表を副総理に据えようとしたり、固辞され首相補佐官とするなど、改革への熱意を疑わざるを得ない。
一方、政府案をとりまとめる会議には、民主党政調会長である国家戦略担当相も、与党2党の代表者も参加してきた。この期に及んで、増税は反対、社会保障費の増加抑制策も嫌、などと与党の議員が唱えることを恥ずかしく思わないのだろうか。
今や、多くの先進国が具体的な目標年を掲げ、財政健全化に取り組んでいる。「10年代半ばごろまで」などというあいまいさに甘え先送りしている国はない。国債価格が急落(長期金利が高騰)してからでは遅いと分かっているからだ。
民主党内には、次の首相の下で仕切り直そうといった声もあるようだ。しかし、政権として一度約束した改革を、リーダーが嫌いになったからと棚上げするような与党が、果たして信用されるだろうか。
時間は限られている。市場から不信任状を突きつけられるまで動けないような政治では情けない。
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