税と社会保障 決めた事はやり遂げよ

朝日新聞 2011年07月01日

税と社会保障 閣議決定で歯車を回せ

菅政権はきのう、税と社会保障の一体改革に関する政府・与党案を決めた。

与党内から反対論が噴き出していた消費税率引き上げについては「2015年度までに10%に」という原案を「10年代半ばまでに10%に」と書き換えた。時期をぼかす代わりに、税率は明示するという決着だった。

「ムダを省けば財源は出る」と主張してきた民主党が、初めて増税を認め、消費税率を10%に上げると明記したのは半歩前進だろう。だが、政権与党としての責任を果たしているとは、とてもいえない。

理由は二つある。

ひとつは民主、自民、公明の4月末の「3党合意」に沿っていない点だ。

3党は「政府・与党は、実行可能な案を可及的速やかにかつ明確に示し、国民の理解を求める」ことで合意した。消費増税は単独の党が担うには荷が重いし、社会保障改革は政権交代があっても継続する部分が多い。だから与野党で協力しようという判断だった。

だが政府・与党案で、増税の時期をぼかしたことで「明確」な案とは言い難くなった。肝心の財源確保があやふやなままでは、年金、医療、介護など社会保障改革の具体的な制度設計に入りようがない。

二つめは政府・与党案を閣議に報告するだけで、閣議決定を見送ったことだ。民主党は「野党各党に協議を提案し、参加を呼びかける」というが、「増税抱きつき戦法」のようで、あまりに虫がよすぎる。

閣議決定をすることが、与党の総意として「増税の覚悟」を示すことになる。

しかし、民主党内には、退陣していく菅直人首相のもとで重要政策を決めることへの反発や、増税への抵抗感が根強い。また、与党の一角を占める国民新党が増税に反対している。それで閣議決定ができない。

これでは、自民党の石破茂政調会長が「与党が納得していないものを、何で議論しなくちゃいけないの」というのも無理はない。

一体改革は、環太平洋経済連携協定(TPP)とともに、菅政権の2大テーマだった。首相は年初に「政治生命をかける」と大見えを切っていた。

だが最終調整の場に、首相の姿はなかった。いまさら首相に政治力の発揮を求めはしない。だが、なんとか閣議決定をするという「こだわり」くらいは示せなかったものか。

一体改革は、もう待ったなしなのだ。

毎日新聞 2011年07月04日

社会保障改革 男は本気で考えないと

菅内閣は本当に危機感が足りないと思う。税と社会保障の一体改革をまとめはしたが内容はぼかし、閣議決定も見送った。厳しい現実から逃げてばかりの政権に社会保障改革などできるのだろうか。医療や福祉の亀裂は足元に広がっている。特に男は大変なことになることを政府・与党の幹部はもっと知るべきだ。

「男性患者は退院させたくてもどこも引き受けてくれない」。認知症治療に携わっている堺市の病院の医師は厚生労働省の検討会で語った。認知症で入院治療をしても妄想や徘徊(はいかい)などの「問題行動」が改善されれば地域で暮らしていける。ところが退院できずにずっと社会的入院を余儀なくされている人がいる。同病院が原因を分析したところ、退院できる人とできない人の医学的な有意差は見られず、退院できない主な理由は「年金額が少ないこと」と「男性」だった。

病院から自宅に退院させようとしても男性患者の場合、家族らが反対して引き受けてくれず、特養ホームなどの施設を当たっても「うちは男性枠はいっぱいなので」と断られるという。日常生活ができない、家族やケアスタッフ、ほかの入所者らと良好な人間関係が保てないことなどが原因らしい。

一方、失業者や低所得者の生活支援をしている埼玉県内の福祉職員は「最近は独居で仕事も金もない50代男性ばかりが目立つようになった」と言う。正規雇用から締め出された若年層が非正規雇用になだれ込み、もともと非正規だった中高年男性が締め出されて仕事を失い、アパートなどに引きこもっている。生活保護を申請しても50代だと仕事を見つけるよう勧められ、なかなか認められないという。

税と社会保障の一体改革は、年金財政の立て直しや増え続ける医療費などのために消費増税が焦点となっている印象が強いが、子育てや若年者雇用などを含めた「全世代型」に社会保障を抜本改革することがねらいだ。その中でも現時点で200万人を超える認知症の人の生活支援、中高年層の貧困などは切実だ。「互助」「共助」の福祉を担ってきた家族や地域社会の機能が低下している中、行き場を失った人々の問題は社会に暗い影を落としている。特にこれまでは福祉の対象としてあまり着目されなかった「男性」が深刻な状況にあるのだ。

蓮舫氏が退任し菅内閣は全員が男になったが、男の老後について現内閣はまるで現状認識が足りない。さらに、消費税を10%へ引き上げる程度ではこの国の超高齢化は乗り越えられないということも強く指摘しておきたい。

読売新聞 2011年07月01日

消費税「10%」 与野党協議への条件は整った

長年の懸案である社会保障制度の抜本改革が、ようやく動き出した。だが、これは一里塚に過ぎない。画餅に終わらせてはなるまい。

菅首相を本部長とする政府・与党の「社会保障改革検討本部」が、社会保障と税の一体改革案を正式に決定した。

改革案は、社会保障財源を確保するため、消費税率を「2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げる」と明記している。

原案では、税率引き上げの期限を「2015年度」と明示していたが、民主党内の反発に配慮し、曖昧な表現になった。閣議決定も見送るという。これでは、社会保障改革と財政再建に向けた政府の本気度が疑われかねない。

一方で、「税率10%」は譲らなかった。党内からは「おおむね」という表現を加えるように要求する声が強かったが、これをはねつけた点は評価していいだろう。

民主、自民両党が社会保障財源に関して「消費税10%」で足並みをそろえた意義は大きい。党派を超えた協議を実現するための最低条件は整ったと言える。

政府・与党案には、積み残された課題も少なくない。まず、消費税率を引き上げる時期だ。経済状況の好転を「条件」としているが、何を基準に好転したと最終的に判断するかは難しい。

消費税率引き上げによる増収分が、地方自治体の社会保障予算にどれだけ回るかも明確でない。

医療や介護制度の無駄に切り込み、効率化を図る視点が弱い。

各論への反対や疑問は、少なからずあろう。だが今は、小異を捨てて大同につく時だ。

「2010年代半ば」に消費税率引き上げを実現するには、時間は少ない。速やかに与野党協議を開始するべきである。

野党も、改革の方向性自体に異論はないはずだ。誰が首相であっても進めねばならない。菅政権であることを理由に、協議のテーブルにつかないのはおかしい。

民主党内では今後、退陣表明している菅首相の後継をめぐる駆け引きが活発になるだろう。消費税率の引き上げが、代表選の争点の一つになる可能性もある。

一体改革案の取りまとめにあたった与謝野経済財政相は、「菅代表個人ではなく、民主党として決めたことだ」と述べ、菅首相の退陣後も、この案を堅持すべきだとの考えを示した。

当然である。政府・与党として一度決めたことを、後退させてはならない。

毎日新聞 2011年07月02日

消費税引き上げ 覚悟が伝わってこない

なんとか形は作ったが、これでは「本気で実行する気がない」と宣言しているようなものだ。菅直人首相が「政治生命をかける」と言い切った税と社会保障の一体改革は、消費税の引き上げ時期をあいまいにするなど、政府原案から大きく後退した形での政府・与党決定となった。

原案で「15年度までに10%」となっていた当面の増税期限は、民主党内からの反発を受けて「10年代半ばまでに」と緩められた。経済状況の好転という条件も付いた。

「10年代半ば」について与謝野馨経済財政担当相は、「14、15、16年度を含んだ表現」と説明する。確かにそうだろうし、15年度が16年度に1年ずれたところで、国の財政が劇的に悪化する話でもない。財政はすでに危機的状態なのである。

だが、今回の決着は二つの大きな問題をはらむ。一つは、あいまいにしたことが発する負のメッセージだ。本当に実現させる意思があれば、15年度、あるいは16年度と明示できただろう。経済の好転を条件にしたことも併せ、何か理由をつけて先送りしたがっていると勘ぐられても仕方あるまい。

もう一つは改革を前に進める上での障害だ。増税時期を明確にしなければ、表裏一体の関係にある社会保障制度改革の設計もできない。閣議決定も見送っており、このままでは法案策定や野党との協議といった次のステップを踏み出しにくい。

昨年、主要国はカナダでの首脳会議で、「13年までに財政赤字を半減させる」と宣言した。現状が悪すぎる日本だけ、「15年度までに基礎的収支の赤字を半減」という緩い独自目標でよしとされた。だが「15年度に10%」と言明もできないようでは、緩い目標さえ達成が危ぶまれる。

これまで国債市場の関心は、ギリシャ問題などを抱えた欧州に集中してきた。一方で日本は、先進国最悪の債務水準でありながら極めて低い金利で国債の発行を続けてこられた。しかし今後、注目の対象が米国、日本へと移らない保証はない。

日本は金利が低い今でも国債の利払いに年約10兆円を費やしている。国債が度々格下げされ、金利が急騰すれば主体的な改革などできなくなる。市場、時間との勝負だ。改革実現に向け、今回あいまいな表現で逃げた増税時期の問題も含め、早急に詰めの作業に入らねばならない。

財政がここまで悪化した責任は長期にわたり与党の座にあった自民党にもある。早期に与野党協議を始めてもらいたい。菅首相の辞任がどうこうという次元のテーマではなく、この先、何十年にわたって私たちの暮らしに影響を及ぼす、日本の課題なのである。

読売新聞 2011年06月30日

社会保障と税 肝心な部分を玉虫色にするな

民主党の仙谷由人代表代行が会長を務める調査会は、社会保障と税の一体改革について、執行部一任の形で了承した。ただし、党側の主張を反映させることが条件という。

政府・与党の改革本部が示していた「消費税率を2015年度までに10%まで引き上げる」との方針に関しては、時期や税率に幅をもたせる方向が強まっている。

だが、この点は今回の改革の根幹を成す部分であり、玉虫色にしてはならない。

政府・与党はきょうにも正式に一体改革案を決める。菅政権は、6月中に政府・与党案を取りまとめると約束していた。当初方針通りに「2015年度までに10%」を堅持すべきだ。

党調査会の議論では、「退陣表明した首相の下で決めるべきではない」「デフレ脱却に逆行する」「選挙に負ける」などと反対する声が強かった。

しかし、社会保障の安定財源をどう確保するかという議論を先送りできる段階は、とっくに過ぎている。この期に及んでもなお反発するというのでは、政権党として無責任に過ぎる。

高齢化の進行で、社会保障政策を維持するだけでも予算は毎年1兆円以上、自然に膨らむ。

国と地方の債務は約900兆円に上る。消費税率を上げずに野放図な借金を続ければ、国債の価格は下落し、金利は上昇する。

金利が上がると膨大な借金に対する利払い負担が増え、財政は一段と悪化する。そうなれば社会保障の充実どころではない。日本の財政再建は国際公約でもある。

菅首相もよく分かっているからこそ、「社会保障と税の一体改革に政治生命を懸ける」と言明してきたはずだ。それなのに、首相自ら反対派の説得にあたることはなかった。

しかも首相は、政権基盤強化のために、消費税率引き上げに強く反対する国民新党の亀井代表を首相補佐官に任命した。社会保障改革より政権延命を優先している、と見られても仕方あるまい。

消費税率引き上げに反対する民主党議員も、目先の選挙対策しか考えていないのではないか。

社会保障と税の一体改革は、どのような政権であっても、実現すべき国家百年の計である。

自民党はすでに昨年の参院選の公約で、「消費税10%」を掲げている。民主と自民両党が掲げる方向性に大きな違いはない。

与野党協議を早く開始し、協力して改革に取り組むべきだ。

毎日新聞 2011年06月29日

税と社会保障 決めた事はやり遂げよ

被災地復興に必要な補正予算は当然急がねばならない。再生可能エネルギーの買い取り法案も大事だろう。だが、6月末までに「やる」と決めていながら、まだ果たせていない重要な課題があることを菅直人首相は忘れていないか。

税と社会保障の一体改革だ。政府は20日までに与党の同意を得て、政府案を最終決定する方針だった。だが財源となる消費税を「15年度までに10%まで引き上げる」とする提案に民主党から反対が噴出、意見集約できない事態に陥っている。国民新党も増税に強く反対しており、月内の閣議決定が危ぶまれている。

「デフレ下で増税はできない」「被災地復興に水を差す」「菅首相のもとで決めるべきでない」。理由はいろいろだが、日本の社会保障や財政の現状・先行きに対する危機感がなさ過ぎるとしか言いようがない。

震災があろうとなかろうと、景気が悪かろうと良かろうと、人口の高齢化は進み、現行の社会保障制度が持続不能となることは、とうに明白になっていた。赤字国債を増やしたり埋蔵金をかき集めるなどして無理やり帳尻を合わせる予算編成が限界に達したことは、民主党政権も分かったはずだ。

だから、今年6月末までに抜本的な改革案をまとめることにしたのである。昨年12月14日の閣議決定だ。

それから半年以上。退陣表明にかかわらず、閣議決定したことを実行するのは首相の当然の責務である。在任期間が短くなったのならなおさら、責任の全うに全力を注ぐべきではないか。ところがこの時期に、増税反対急先鋒(せんぽう)の亀井静香・国民新党代表を副総理に据えようとしたり、固辞され首相補佐官とするなど、改革への熱意を疑わざるを得ない。

一方、政府案をとりまとめる会議には、民主党政調会長である国家戦略担当相も、与党2党の代表者も参加してきた。この期に及んで、増税は反対、社会保障費の増加抑制策も嫌、などと与党の議員が唱えることを恥ずかしく思わないのだろうか。

今や、多くの先進国が具体的な目標年を掲げ、財政健全化に取り組んでいる。「10年代半ばごろまで」などというあいまいさに甘え先送りしている国はない。国債価格が急落(長期金利が高騰)してからでは遅いと分かっているからだ。

民主党内には、次の首相の下で仕切り直そうといった声もあるようだ。しかし、政権として一度約束した改革を、リーダーが嫌いになったからと棚上げするような与党が、果たして信用されるだろうか。

時間は限られている。市場から不信任状を突きつけられるまで動けないような政治では情けない。

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