南シナ海 多国間の枠組み支援を

朝日新聞 2011年06月27日

南シナ海 多国間の枠組み支援を

強大になる一方の隣国とどう折り合ってゆくか。経済の依存は深まり、安全保障面では圧力が強まる――。頭を悩ますのは日本だけではない。

ベトナムで反中国デモが繰り返されている。街頭活動を厳しく制限してきた一党独裁下では極めて珍しい光景だ。

先月下旬、ベトナム沿岸に近い南シナ海で、中国船がベトナムの石油探査船の調査ケーブルを切断したことが発端だ。

ベトナムは、中国船が自国漁船に発砲するなど侵犯行為を重ねていると主張する。当局はデモを黙認しているのだ。

フィリピンもスプラトリー(南沙)諸島の自国領に中国が建造物を構築したと抗議した。

中国はかねて、石油資源などが期待される南シナ海の大部分の領有権を主張してきたが、経済発展とともに軍事費を増大させてきた近年、より強硬な形で他国を牽制(けんせい)するようになった。

それは尖閣諸島をはじめとする東シナ海と似た構図だ。

中国との紛争をたびたび経験してきたベトナムは潜水艦を購入するなど軍備を増強し、海上での実弾演習を実施した。

これに対し中国でも反ベトナム感情が高まっているという。

中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2002年、南シナ海の領有権の平和的解決をうたった「行動宣言」に署名した。ASEANは法的拘束力を持つ「行動規範」への格上げをめざすが、集団交渉を避けたい中国は二国間協議を求める。

米国も「航行の自由は国益」として、南シナ海情勢に関与する構えだ。クリントン国務長官は、中国の動きを「地域に緊張をもたらす」と批判した。

米国はフィリピン、ベトナム両政府と協議したうえで、中国との直接協議に臨んだ。

日本の船舶にとっても重要な海上交通路にあたる。

ASEAN各国は、尖閣諸島や日本近海での日中のせめぎ合いを注意深く見ている。日本としても南シナ海情勢により大きな関心を寄せる必要がある。

圧倒的な軍事力を持つ中国には、行動宣言の精神を尊重し他国への挑発を慎むよう求めなければならない。ASEAN各国には、軍拡はいたずらに緊張を高めると指摘したい。

海洋資源については、領有権を棚上げし、関係国が共同開発を模索するしか道はなかろう。

日本も加わるASEAN地域フォーラムが来月に、米国とロシアが初参加する東アジアサミットは秋に予定されている。行動規範の策定を後押しし、多国間の枠組みを支援したい。

毎日新聞 2011年06月30日

南シナ海 中国の自制が必要だ

決して「対岸の火事」ではない。

南シナ海で領有権を争う中国、ベトナム、フィリピンなどの対立が強まっている。中国が艦船活動を活発化させているためで、ベトナムでは市民らの反中デモが続き、フィリピンは28日から米軍との合同軍事演習に入った。やはり領有権を主張する台湾も近く軍事演習を行うとされ、震災対応に忙しい日本にもきな臭い空気が伝わってくる。

思い出されるのは、尖閣諸島をめぐる昨秋の日中摩擦だ。中国が東シナ海や南シナ海で「膨張政策」を取っているのは明白だろう。日本周辺では、九州から台湾、フィリピンなどを結ぶ第1列島線から、伊豆諸島-小笠原諸島-グアムと続く第2列島線へと勢力圏を東に拡大することを狙っていると言われる。中国は最高実力者の故トウ小平氏による韜光養晦(とうこうようかい)(謙虚に能力を隠す)路線を踏み越え、自国の「内海」を拡大して米国と張り合おうとしているようだ。

ベトナム外務省によれば、南沙諸島周辺では今月、同国の漁船が中国艦船から威嚇射撃を受け、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)で海底地質調査をしていた同国の探査船が、調査ケーブル切断装置を持つ中国船に活動を妨害された。先月にも中国船によるケーブル切断や威嚇射撃があったという。今月中旬、ベトナムが南シナ海で実弾演習に踏み切り、中国との緊張が高まった。

宮城県沖の日本のEEZ内に中国の海洋調査船が入り込む事件も起きている(今月23日)。こうした中国艦船の動きは容認できない。東シナ海にしろ南シナ海にしろ石油資源への思惑があるのだろうが、中国はアジアの大国として、国連常任理事国として、平地ならぬ穏やかな海に乱を起こす行動は慎むべきである。

もちろん中国にも言い分はあろう。中国側は言う。南シナ海の問題は2国間対話で解決すべきだ、米国は当事者ではない、と。しかしクリントン米国務長官が日米安全保障協議委員会(2プラス2)で表明したように、中国が「地域に緊張をもたらしている」のは確かであり、中国艦船の威嚇射撃などは、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が02年に署名した「南シナ海行動宣言」に反しているとの声も強い。

キャンベル米国務次官補と中国外務省の崔天凱次官の間で行われた米中初のアジア太平洋協議(25日)は平行線に終わったが、米国が言うように南シナ海の問題は多国間の枠組みで取り組むべきである。来月行われるASEAN地域フォーラム(ARF)や、米露が初めて参加する今秋予定の東アジアサミット(EAS)でも、日米は緊密な連携を保って、この問題に対処したい。

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