強大になる一方の隣国とどう折り合ってゆくか。経済の依存は深まり、安全保障面では圧力が強まる――。頭を悩ますのは日本だけではない。
ベトナムで反中国デモが繰り返されている。街頭活動を厳しく制限してきた一党独裁下では極めて珍しい光景だ。
先月下旬、ベトナム沿岸に近い南シナ海で、中国船がベトナムの石油探査船の調査ケーブルを切断したことが発端だ。
ベトナムは、中国船が自国漁船に発砲するなど侵犯行為を重ねていると主張する。当局はデモを黙認しているのだ。
フィリピンもスプラトリー(南沙)諸島の自国領に中国が建造物を構築したと抗議した。
中国はかねて、石油資源などが期待される南シナ海の大部分の領有権を主張してきたが、経済発展とともに軍事費を増大させてきた近年、より強硬な形で他国を牽制(けんせい)するようになった。
それは尖閣諸島をはじめとする東シナ海と似た構図だ。
中国との紛争をたびたび経験してきたベトナムは潜水艦を購入するなど軍備を増強し、海上での実弾演習を実施した。
これに対し中国でも反ベトナム感情が高まっているという。
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2002年、南シナ海の領有権の平和的解決をうたった「行動宣言」に署名した。ASEANは法的拘束力を持つ「行動規範」への格上げをめざすが、集団交渉を避けたい中国は二国間協議を求める。
米国も「航行の自由は国益」として、南シナ海情勢に関与する構えだ。クリントン国務長官は、中国の動きを「地域に緊張をもたらす」と批判した。
米国はフィリピン、ベトナム両政府と協議したうえで、中国との直接協議に臨んだ。
日本の船舶にとっても重要な海上交通路にあたる。
ASEAN各国は、尖閣諸島や日本近海での日中のせめぎ合いを注意深く見ている。日本としても南シナ海情勢により大きな関心を寄せる必要がある。
圧倒的な軍事力を持つ中国には、行動宣言の精神を尊重し他国への挑発を慎むよう求めなければならない。ASEAN各国には、軍拡はいたずらに緊張を高めると指摘したい。
海洋資源については、領有権を棚上げし、関係国が共同開発を模索するしか道はなかろう。
日本も加わるASEAN地域フォーラムが来月に、米国とロシアが初参加する東アジアサミットは秋に予定されている。行動規範の策定を後押しし、多国間の枠組みを支援したい。
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