電力株主総会 原発リスクを問い直せ

朝日新聞 2011年06月27日

電力株主総会 原発リスクを問い直せ

原発事故がもたらした未曽有の事態に、株主たちがどう向き合うか。

電力10社の株主総会が28、29日に開かれる。原発を持つ9電力のうち6社で、原発撤退などを求める株主提案が出された。

事故を起こした東京電力では、402人の株主が(1)古い原発から順に停止・廃炉(2)新設・増設は行わない、と定款を改めるよう求めている。定款変更には3分の2以上の賛成が必要で、ハードルは高い。

ただ、議案の賛否をアドバイスする大手助言機関の一部がこの提案への賛成を促しており、これまで賛成が5%程度だった反原発提案がどれだけ支持を得られるかに注目が集まる。

もちろん、その結果も大事だが、何より重要なのは、今回の事故が電力会社の経営に投げかけた課題の数々について、株主と経営陣が真摯(しんし)に主張をぶつけ合い、克服の道を探ることだ。

まず経営側には最大限の情報開示が求められる。「政府による検証を待つ」といった逃げ口上を弄(ろう)してはいけない。

株主は、企業価値の向上という原点に立って、会社側、株主側それぞれの提案を吟味し、疑問点をただしてほしい。

事故の賠償問題では、株主責任は問われず、長期にわたって消費者負担で賄う法案が国会に提出されたが、この枠組みでは東電にとって積極的な投資や機動的な事業展開は不可能だ。政府が決めたこととはいえ、半ば「死に体」の会社となることを株主として認めるのか。

他の電力会社にも共通するのは、原発リスクの再評価だ。いったん事故が起きると会社が吹き飛ぶリスクを抱えても、原発は株主の立場からビジネスとして見合うと考えるのか。「国策民営」というあいまいな形ではなく、原発運営は国へ切り離すという考え方もあろう。

社会的責任投資という視点もある。原発は事故を起こさなくても、使用済み燃料の処理問題が子々孫々までのしかかる。そのような事業に正当性があるのか、という論点だ。

さらに、電力会社自ら自然エネルギーに力を入れたり、電力の需給調整をIT技術で最適化するスマートグリッド(次世代送電網)を積極的に導入したりして、電力改革を先導していくほうが先々、得策ではないか。そんな議論も期待したい。

電力業界は個人株主の比率が高い。生活者としての健全なそろばん勘定に基づいて、電力会社の経営を根本から問い直す。今年の総会で、株主は歴史的な使命を帯びている。

毎日新聞 2011年06月29日

東電株主総会 社内論理より安全守れ

福島第1原発事故を起こした東京電力の株主総会が開かれ、出席者数は過去最高、開催時間も過去最長を大きく更新した。株主からの質問は、取締役報酬や企業年金の減額、損害賠償、原発の安全対策など極めて多岐にわたった。今回の事故に対する経営責任、さらには原発事業のあり方が、厳しく問われているということだ。

「東電の体質を変えないと何度も事故は起きる」。株主の間から上がった批判を東電経営者は重く受け止めるべきだ。07年の新潟県中越沖地震で東電柏崎刈羽原発が被災して以降、原発震災はありえない「仮想事故」ではなくなった。東北沖の巨大地震の危険性についても、2年前に経済産業省の審議会で取り上げられたが、東電の安全対策には生かされなかった。

02年夏に発覚した福島第1、第2原発や柏崎刈羽原発での「トラブル隠し」で、東電は安全管理に関するガバナンスの欠如を厳しく批判された。原発事業は専門性が高く、閉鎖的・排他的になりがちな分野ともいえる。それだけに、積極的に情報を公開し、社会のチェックを受け入れることが不可欠であるはずだ。

しかし、東電にそうした文化は根付かなかった。今回の総会で退任した清水正孝・前社長は、5月の決算発表の席上、「(東電には)地域や顧客への目線を失い、社内論理でいってしまう傾向が残っている」と自戒した。今度こそ、社内論理優先の社風を改め、安全管理を徹底する社内システムの構築を求める。

今回の株主総会では、402人の株主が提案した原発の段階的廃止も大きな焦点になった。否決はされたものの、一定の賛成を集めた意味は大きい。

今年は、原発を保有する9電力会社のうち東電や、政府の要請で停止した浜岡原発(静岡県)を抱える中部電力など6社で、脱原発を求める株主提案があった。議決権行使助言会社が機関投資家に対し、「原発は民間企業が続けるにはリスクが大きすぎる」として「脱原発」提案に賛成するよう助言する動きもあった。

確かに、原発の立地や安全管理には巨額の費用がかかる。事故が起きた際、事実上、損害賠償額の上限も免責も認めない現行の賠償制度では、電力会社のリスクは極めて大きい。一方で、国の責任はあいまいだ。国策である原発を、このまま民間企業の電力会社に委ねることには、無理がある。

今後、依存度を下げていくにしても、当面一定の原発は稼働することになる。最も大切な安全性を高めるには、どんな形態が望ましいのか。これを機に、国民的な議論を深める必要がある。

読売新聞 2011年06月29日

東電株主総会 厳しい声を経営改革に生かせ

株主の厳しい声を、経営改革にどう生かすか。東京電力が突きつけられた課題は重い。

28日に開かれた東電の株主総会は、福島第一原子力発電所の事故を受け、大荒れとなった。出席した株主は昨年の3倍近い9300人に達した。所要時間も6時間を超え、東電の記録を大幅に塗り替えた。

総会では、安全対策の不備や事故収束の遅れ、情報提供の不十分さなどに批判が相次いだ。勝俣恒久会長など、経営陣の責任を問う声も多かった。

東電は株主の指摘を、真摯(しんし)に受け止める必要がある。事故の早期収束を図るとともに、再発防止などに全力を挙げ、信頼を回復しなければならない。

取締役の選任など、会社側の提案は可決された。清水正孝社長は引責辞任し、西沢俊夫新社長が就任した。今後、新体制の下でどのように経営改革を進めていくかが問われている。

原発事故の被害者に対する損害賠償の支払いのため、東電は資産売却など、合理化努力の加速が求められる。企業年金の削減も検討すべきだろう。

今年の総会では、事故後とあって、一部株主が毎年のように提案している原発事業撤退の議案に対する賛否が注目された。

結果は反対多数による否決だった。電力の安定供給に原発は欠かせない。撤退すれば、火力発電の燃料費などがかさんで収益が低下し、被害者への賠償にも支障が出る。否決は妥当な判断だ。

ただ、例年は5%ほどの賛成が今年は約8%に増えた。東電は、原子力の安全性に対する不信感が強まっている証しと受け止めなければならない。

総会では、「巨大な天災地変」による事故は電力会社が免責されるという、原子力損害賠償法の規定についても論議された。東電は「免責も可能と考えたが、政府に支援を求めて被害救済を急いだ」などと説明した。

ところが、東電の資金繰りを公的資金で支える「原子力損害賠償支援機構法案」の審議が遅れている。このままでは賠償金支払いが滞る恐れもある。政府・与党は法案成立を急がねばならない。

ただ支援策には、数兆円以上とされる賠償負担を民間企業の東電に負わせるという問題点がある。原子力行政を推進した政府がもっと責任を分担すべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/764/