毎日新聞 2011年06月27日
世界遺産登録 その精神を重んじたい
「小笠原諸島」(東京都)が世界自然遺産に、続いて「平泉」(岩手県平泉町)が世界文化遺産に登録されることが決まった。いずれも、地元の人たちが大切にしてきた遺産が人類共通の財産と認められたもので歓迎したい。特に「平泉」は東北地方で初めての文化遺産で、被災地復興のシンボルになると期待される。
「小笠原諸島」は東京湾から約1000キロ南にある島々。大陸から隔絶されたところで、多彩な生物が独自の進化を遂げ、「東洋のガラパゴス」と呼ばれる。行政だけでなく、島民も主体となって外来種の排除など、自然保護活動に取り組んできたのが高く評価された形となった。
一方、「平泉」は平安末期(主に12世紀)に東北地方で繁栄した奥州藤原氏の都だ。戦いに明け暮れた日々を経て、平和な理想郷としてつくられたとされる。その時に思想的な支柱になったのが浄土思想(阿弥陀仏によって万民があまねく救済されるという思想)だった。
登録が決まったのは、金色堂で名高い中尊寺や庭園が有名な毛越寺、これらと調和した景観をつくる金鶏山など、五つの構成資産。いずれも浄土(仏国土、仏がすむ場所)を現実世界に表現しようとしたもので、アジアの仏教と日本独特の自然信仰が融合していると評価された。地域全体が浄土を表しており、800年前の姿が多く残っているのも評価のポイントになった。
「平泉」から、さまざまな現代的意味も読み取れるのではないか。たとえば、中央との衝突を避けて独自性と自立性に富んだ国がつくられたこと。大陸の文化を積極的に取り入れた国際性、他の地域にも影響を与えた先駆性も指摘されている。これらは東日本大震災からの東北地方の復興を考えるうえでも、大いに参考になるだろう。
「平泉」は08年の審査では、価値の証明が不十分だと登録が見送られた。今回は浄土思想を前面に出し、遺産を絞ったのが功を奏した。「平泉」の価値が一つのわかりやすいストーリーにされ、国際的に理解されやすいものになったのだ。ただ、藤原氏の居館跡である柳之御所遺跡は、国際記念物遺跡会議(イコモス)の勧告通り、除外された。
「平泉」の登録は大震災で大きく落ち込んだ東北への観光客が回復する起爆剤になると期待される。地域の誇りともなり、起死回生の光明になるだろう。
ただ、「平泉」も「小笠原諸島」も単なる「観光地」にしてしまうことはできない。これらの遺産が体現する浄土思想や自然保護の精神を重んじ、登録を後世に継承していくよすがにしたい。
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読売新聞 2011年06月27日
世界遺産 復興を後押しする「平泉」登録
岩手県の「平泉」が世界文化遺産に、東京都の「小笠原諸島」が世界自然遺産に、登録されることが決まった。
国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)による2008年の審査では、平泉の「文化的景観」をアピールしたが、登録は見送られた。再挑戦の今回は、「浄土思想の表現」であることを強調し、ようやく悲願を果たした。
東日本大震災後、めっきり減った観光客が戻ってくるきっかけとなろう。復興への心の拠り所にもなる。何より、被災地への大きな励ましとなるにちがいない。
平安時代末期の12世紀、平泉では奥州藤原氏の下で、洗練された仏教文化が開花した。中尊寺・金色堂をはじめとする文化遺産は、浄土思想を背景に平和の楽土を実現させようと造られたものだ。
東日本大震災でも、これらの文化財はほとんど損傷を免れた。金色堂では、震災犠牲者の冥福を祈る法要も行われている。代々受け継がれた平泉の文化財を、今後も大切に伝えていきたい。
小笠原諸島は「東洋のガラパゴス」と呼ばれる。大陸と一度も陸続きになったことがなく、動植物が独自の進化を遂げたからだ。
目下の難題は、外来種の排除だという。元々は生息していなかった動植物が繁殖し、小笠原固有の生物を脅かしている。
中でも、戦後の米国統治の頃に入り込んだとされるグリーンアノールというトカゲは、固有種の昆虫を食べる。このため、生態系への影響が懸念されており、環境省は捕獲に力を入れている。
鹿児島県の屋久島では、1993年の世界遺産登録を契機に観光客が増え、自然破壊が問題視されるようになった。
小笠原諸島でも、世界遺産を看板とした「観光立島」への期待が大きい。地元では、空港建設を求める声も根強い。
しかし、世界遺産は人類共通の貴重な財産を国際社会の監視下で保護することを狙いとする。保護と観光振興をどう両立させるのか。難しい課題だが、後世の評価に堪える答えを見いだしたい。
世界遺産の登録は1978年に始まった。その数は既に900を超え、多すぎるという指摘もある。そのため、審査は年々厳しくなっている。
国内では、古都鎌倉や富士山、富岡製糸場などが世界遺産候補の暫定リストに記載され、政府の推薦を待っている。平泉と小笠原の“勝因”を分析し、今後に生かしていくことが重要だ。
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