朝日新聞 2011年06月26日
復興提言 さらなる深化が必要だ
「被災地の人々と心を一つにし、全国民的な連帯と支えあいのもとで、被災地に希望のあかりをともす」。そううたった復興構想会議の提言が菅直人首相に手渡された。
「地域・コミュニティー主体の復興を基本とする」「来るべき時代をリードする経済社会の可能性を追求する」といった原則を掲げ、復興への様々な処方箋(しょほうせん)を盛り込んだ。
具体策では、「減災」のためのまちづくりや産業再興について、被災地の実情に合わせた選択肢を提示している。市町村の能力を最大限に引き出す「復興特区」の活用も挙げた。21世紀の産業を育てる再生可能エネルギーの拠点を福島などで展開する案もうなずける内容だ。
提言の方向性は、私たちが求めてきたものと重なり合う。
だが、踏み込み不足に思える点も少なくない。
例えば、土地をめぐる課題だ。入り組んだ権利関係の調整といった復興の足かせになっている問題は「必要な措置を考慮しなければならない」、国などによる土地の買い上げは「難点がある」と述べるにとどめた。
手続きの迅速化に特区的手法を使うというが、もっと具体的な解決策を示して、事態を打開できなかったか。
また、被災自治体が提案を具体化する手順が見えない。どの計画を優先的に進めるべきか、どんな段取りが必要なのか、という工程表も不可欠だ。
そうでなければ、事業の着手や制度設計を省庁に委ねざるをえず、「地域主体」の原則が絵に描いた餅にすぎなくなる。
一方、漁業再生の手法として民間資金の導入による活力誘引策を盛り込んだ。村井嘉浩・宮城県知事の強い要望を採り入れたものだが、地元の漁業者に疑問や反発の声がある。
このように、実現には越えるべき課題も多いが、従来の役所主導の利害調整に一石を投じ、新たな道筋を示すことこそ構想会議が果たすべき役割だ。
五百旗頭真議長は、当初予定していた年末の最終提言を取りやめ、前倒し的に今回の提言に盛り込んだという。背景には、構想会議の設立を主導した菅首相が退陣表明したことへの危機感もあろう。事実、復興担当相の人事ひとつとっても、菅政権の腰はふらついた。構想会議の今後の役割も不透明だ。
提言は、困難な被災地の現状に向き合い、希望への道を切り開いたが、さらに深化させねばならない。私たちも復興の実行段階で既得権の調整に陥らぬよう、厳しく監視していきたい。
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毎日新聞 2011年06月25日
再生エネルギー 政局と絡めず着実に
再生可能エネルギーがにわかに脚光を浴びている。太陽光や風力による電気を電力会社が買い上げる法案の成立を、辞任する条件のひとつとして菅直人首相が掲げたからだ。
発電コストが高いうえ、不安定な電源の拡大は電力の質に影響するとして、電力会社は再生可能エネルギーの活用に消極的だった。
しかし、福島での原発事故によって地震国の日本が抱えるリスクを痛感させられた。政府はエネルギー政策を見直すことになり、電力に占める再生可能エネルギーの割合を20年代の早期に20%を超える水準にすると、菅首相は表明した。
原発への依存度を下げ、再生可能エネルギーの活用を進めることは、震災後の日本の課題だ。にもかかわらず、政局を乗り切るための手段として取り上げられている。残念なことで、着実に推進していくべき課題として取り組んでもらいたい。
そのためには、問題点も整理しておかねばならない。現在の太陽光発電の余剰分だけでなく、風力や地熱なども含めた再生可能エネルギーによる発電を全量買い取る。その負担は電気料金に上乗せして回収するというのが、この法案の内容で、これにより太陽光や風力などでの発電が事業化できる。
ただ、この法案の閣議決定は震災直前の3月11日午前のことだった。震災後、原発が相次いで停止し、石油や天然ガスなどでの発電に切り替わり、その分、電気料金の水準が上がるということを想定していない。
脱原発を決定したドイツは、発電の半分を安い石炭に頼っている。日本の発電で石炭火力の比率は低いものの、地球環境問題を考えると、石炭火力をどんどん増やすわけにもいかないという事情もある。ドイツとは状況が異なっている点をきちんととらえ、電力料金の産業に与える影響も十分に考える必要がある。
また、太陽光や風力による電力は不安定なため、導入量は電力ネットワークの規模に左右される。被災地の東北は風力発電に適しているが、東北電力の規模はそれほど大きくない。電力会社の垣根を越えた広域での発電と送電網の運用で、吸収できる量を増やすべきだ。
電力会社以外の発電事業者も、電力会社の送電線を利用せざるを得ないが、送電線を借用する条件と料金を改め、電源の分散化につながる仕組みにしたい。
電気料金の上昇は産業界に厳しいものの、通信と組み合わせた賢い電気の使い方を進めるスマートグリッドなど、電力供給のあり方を変え、新しい産業を育てる面もある。
政局を乗り切るためではなく、将来に責任を持てる仕組みを築いてもらいたい。
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読売新聞 2011年06月26日
構想会議提言 復興を日本再生につなげたい
東北の被災地の復興を日本全体の再生にもつなげたい。
復興構想会議の提言がまとまった。復興の主役となる市町村の要望を極力盛り込み、政府が地域の自立を支援する姿勢を明確にした。
大災害を完全に封じるのではなく、被害を最小限にする「減災」の考え方に基づく新しい地域づくりを掲げている。復興の基本指針としては妥当だろう。
政府は提言を肉付けし、具体化へ最大限努力する必要がある。
提言のポイントの一つは、規制緩和や自治体への権限移譲を認める特区制度の大胆な活用を打ち出したことである。
例えば、漁業再生を目指す特区構想だ。地元漁協とともに地元企業も漁業権を取得しやすくする。企業の資金と知恵をテコにして、担い手不足が深刻な漁業の活路を見いだすのが狙いだ。
漁協側は強く反発しているが、政府は、県とともに、粘り強く、理解を求めていくべきだ。
提言は、市街地や農地、漁港でそれぞれ異なる土地利用計画の手続きを簡素化し、窓口を一元化する特区の創設も明記した。広範囲にわたり、数多くの町づくりを迅速に進めるのに必要となろう。
政府は特区実現のための法案づくりを急がなければならない。
津波で壊滅した被災地では、高台への集団移住を容易にする制度を提案した。自治体財政に余力がない以上、国の全面的な財政支援も検討しなければなるまい。
原発事故に直撃された福島県に対しては、放射線の影響に関する最先端の研究・医療施設の整備や、再生可能エネルギーの研究拠点づくりを打ち出した。
事故のマイナス面をプラスに転じる発想は重要だ。県民が将来に希望を持てるよう、政府主導で検討を急いでもらいたい。
提言に盛り込まれた、こうした案を実現するカギは、安定財源を長期間確保できるかどうかだ。
構想会議が臨時増税を打ち出したことは理解できる。具体的には政府に対し、「基幹税を中心に多角的な検討」を求めている。所得、法人、消費各税の組み合わせを考慮する必要があるとの趣旨だ。
政府内には、消費税増税に慎重論がある。だが、提言がうたうように、財源を「今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いで確保」するには消費税率引き上げも前向きに検討すべきである。
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