アフガン撤兵 和平へ踏み出すときだ

朝日新聞 2011年06月24日

アフガン撤兵 和平へ踏み出すときだ

10年ごしの戦争に、和平への転機が訪れるのだろうか。

オバマ米大統領が、アフガニスタンに駐留する米軍の撤退計画を発表した。7月から開始して年内に1万人、来年夏までに計3万3千人を引き揚げる。駐留する約10万人の約3分の1が撤収することになる。

「戦争の潮はひきつつある」とオバマ氏は語った。血みどろの戦闘の相手であるイスラム勢力タリバーンに対しても、「米国は和解のイニシアチブに参加する」と呼びかけた。

流れを変えた最大の要因は、今年5月に国際テロ組織アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことだろう。米国が2001年にアフガニスタン攻撃に踏み切ったのは、当時のタリバーン政権が、かくまっていたビンラディン容疑者の引き渡しに応じなかったからだ。同時多発テロの首謀者がいなくなり、米国にとってアフガニスタンは死活的な利害ではなくなった。

もう一つは、米国の財政だ。リーマン・ショックの影響で米国の財政赤字は膨張し、国防費も大幅な削減を迫られている。アフガニスタンだけで年間1200億ドル(約10兆円)もの戦費を湯水のようにつぎ込み続けることはできない。

オバマ氏が「アメリカよ、今からは国造りに集中していくときだ」と訴えた言葉は、不況に苦しむ国内世論を反映したものだろう。

大統領選挙に向けた日程も、考慮したはずだ。米兵3万3千人が撤退した直後の2012年秋に、再選をかけた大統領選挙が控えている。アフガニスタン戦争は増派を決めた「オバマの戦争」とも呼ばれる。撤退が実現すれば米国民にアピールするはずだ。

だが、この10年間に最も大きな犠牲を強いられてきたのは、アフガニスタンの人たちだ。国連によると、戦闘に巻き込まれて死亡した民間人が先月は368人と、この4年間で最悪を記録した。死者の多くは反政府勢力の仕掛けた爆弾によるものだが、米軍による誤爆も数知れない。人々が治安の回復を実感するにはほど遠い現実がある。

大事なことは、米軍の撤退が内戦の再燃につながらぬよう、交渉を進めることである。米国がカルザイ政権とタリバーン側との和解に前向きになったことは進展だ。タリバーン指導部に影響力を持っている隣国のパキスタンも協力してほしい。

どの国も大きな痛手を負った長すぎる戦争だ。今度こそ本当の出口戦略にしたい。

読売新聞 2011年06月25日

駐留米軍撤収 アフガン治安を見極め慎重に

10年近く続いた長い戦争も、ようやく終わりへの道筋が見え始めたということだろう。

オバマ米大統領が、アフガニスタン駐留米軍の撤収計画を発表した。年内に1万人、来年夏までにさらに2万3000人が戦地を離れる。

残る米軍6万8000人も、アフガン治安部隊に権限を移譲するのに伴って、順次、帰国させていく方針という。治安支援に部隊を派遣している英独仏など他の国々も本格的に引き揚げる予定だ。

撤収は、何よりアフガニスタンにおける治安確保を大前提としなければならない。テロの温床となる破綻国家に逆戻りすることがないよう、現地の状況を見極めながら、慎重に進めてもらいたい。

オバマ大統領は、ブッシュ前政権が始めた二つの戦争のうち、イラク戦争を「間違った戦争」と批判し、米軍の撤収を実行した。アフガニスタンでの対テロ戦争は「必要で不可欠」として、逆に米軍兵力の増強で対処してきた。

撤収開始は、この増派が一定の成果をあげたことによる。

確かに旧支配勢力タリバンの攻勢は弱まった。アフガン治安部隊も30万人近くまで増え、治安権限の移譲も一部で始まっている。

10年前の米同時テロの首謀者で国際テロ組織アル・カーイダの指導者ウサマ・ビンラーディンを、潜伏先のパキスタンで米特殊部隊が殺害したことも、撤収への大きな要因となった。

だが、今回の撤収計画には不安も残る。

米国内には、長引く戦争に厭戦(えんせん)気分が募っている。かさむ一方の戦費、景気の低迷、高止まりする失業率への不満や不安。大統領自身、今後は、他国よりも米国の再建に焦点をあてる、と内向き傾向を強めている。

自らの再選がかかる来年秋の大統領選に向け、財政悪化を回避したいという思惑もあるだろう。

米国が兵力縮小を急ぐことによって、再びタリバンが勢いづくようなことにならないか。

タリバンを圧倒する軍事力を維持しつつ、治安確立へ努力を倍加すべきだろう。アフガン政府とその治安部隊を強化し、隣接するパキスタンとも協力して対テロ掃討を徹底する必要がある。

日本は民主党政権に交代後、人的貢献の代わりに、アフガニスタンに巨額拠出することで、地域安定化へ側面支援をしてきた。

だが、その効果は大して上がっていない。今後の実効ある使い道を真剣に探るべきである。

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