国会延長問題 頭冷やし、まともな姿に

朝日新聞 2011年06月23日

延長国会 さっさと懸案片づけよ

国会の会期末のごたごたは、何がなんだかわからない。与党の執行部が野党とともに、菅直人首相に辞任の時期を明らかにせよと迫り、首相が拒んだ。

この騒動は、後世の笑いぐさになる。日本の政治は、ここまで墜(お)ちていたのか、と。

結局、70日間の会期延長が決まった。8月末までの熱い夏になる。東日本大震災への対応を急ぐのだから、国会に夏休みがないのは当たり前だ。

だが、これで政治が動くのか。さらなる停滞と混迷へと突き進んでいるようにしか見えないのが実情だ。

首相は第2次補正予算案に、赤字国債の発行を認める特例公債法案、太陽光や風力などの普及を図る再生可能エネルギー特別措置法案といった懸案の処理に意欲を示している。

私たちは、どれも早く成立させるべき課題だと考える。しかし、首相がいつごろ辞めると言わない限り、与野党の泥仕合は続きそうだ。党執行部の説得を退けたのだから、首相は党内でも孤立を深めるだろう。

それでも、内閣不信任案が否決されている以上、首相を引きずりおろすのは容易ではない。

ここは、すべての国会議員が大胆に発想を変えたらどうか。

「首相おろし」で与野党が協調できるのならば、首相が意欲を示す政策課題に取り組み、さっさと片づけてしまうのだ。

慎重を要する審議を早く打ち切れというのではない。進めるべきことをきちんと進める。それだけで、首相がとどまる理由を消していける。

たとえば、特例公債法案をこのまま放置すれば、国は予算を執行できなくなる。そんな事態は野党も望むまい。成立を引き延ばして首相を追い込む戦術を改め、成立させるのだ。

「資金繰り破綻(はたん)」の恐れをなくし、首相の外堀も埋められるのだから、野党にとって一石二鳥ではないか。

そのために、民主党は子ども手当など歳出の見直しを急ぐ必要がある。国会を正常化させるために、与野党が速やかに汗をかくときなのだ。

震災の日の朝に閣議決定された再生エネ法案が、審議にすら入れないのもおかしい。自然エネルギーの普及には、与野党とも異論はない。だったら、早く合意点を見いだせばいい。

国会は仕事をしよう。それで局面を変えれば、首相は続投の大義名分を失う。

参院で問責を決議し、仕事をさぼることで追い込む。こんな作戦を野党が練っているなら、それは愚策中の愚策である。

毎日新聞 2011年06月26日

論調観測 国会会期延長 正常化か、早期退陣か

会期末ぎりぎりの22日に、国会が会期延長を決めた。その1週間前、菅直人首相は再生エネルギー法の早期制定を求める勉強会に参加し、「国会には菅の顔をもう見たくないという人がたくさんいる。本当に見たくないのか。それなら、この法案を早く通した方がいい。その作戦でいきます」と満面の笑みで宣言した。

冗談ではなかった。自ら政策課題を付け加えた首相は粘り腰を見せ、退陣をめぐる駆け引きから、会期の延長幅は二転三転した。結局、70日間で決着したが、国会はまともに機能するのか。各紙が、23日の社説で取り上げた。

まず、首相を含めた国会全体で正常化を図るべきか、首相の早期退陣かで論調が分かれた。

山積する課題に取り組むため、もともと内閣不信任案提出に反対する一方、大幅延長を主張してきた毎日は「バナナのたたき売りではあるまいし、与党の延長幅提示の混乱は目に余る」とドタバタ劇を批判。その上で、「貴重な70日間。今度こそ与野党が協力して被災地を正面から見据えた政治を」と国会全体での取り組みを求めた。

東京も「折角の国会延長だ。国民、特に被災者の思いに応える論戦を交わしてほしい」と正常化を期待し、野党にも「国政運営の責任を共同で負うことを忘れてもらっては困る」と注文を付けた。

内閣不信任案提出を「是」としていた読売、産経は首相の早期退陣を求めた。読売は就任会見で首相が目標に掲げた「最小不幸社会」をもじって、「『宰相』による不幸社会に陥ってしまっている」「延命によって政治空白が長引くことを自覚し、早急に首相の職を辞すべきだ」と主張。産経も「延命を優先させることで、予算や重要法案をめぐる与野党の協力関係を破壊している」「一日も早く退陣して『新たな体制』を」と突き放した。

国会に対し、「首相が意欲を示す政策課題に取り組み、さっさと片づけてしまうのだ」「それで局面を変えれば、首相は続投の大義名分を失う」というのは朝日。冒頭の首相の「作戦」を逆手に取り、早期退陣を求めているようでもあるが、野党に対し、国会審議に協力するよう注文を付けたとも読める。

もっとも、「延長国会では国政上の懸案の処理を急ぎ、菅直人首相の退陣に早く道筋をつけてほしい」という日経を含め、退陣時期を明示しない首相の姿勢は、各紙とも厳しく批判している。【論説委員・大高和雄】

読売新聞 2011年06月23日

国会会期延長 首相延命策には付き合えない

「最小不幸社会」を目指したはずなのに、「宰相」による不幸社会に陥ってしまっている。

菅首相は、自らの延命によって政治空白が長引くことを自覚し、早急に首相の職を辞すべきだ。新しい体制を築く以外に政治再生への道はない。

通常国会の70日間の会期延長が決まった。民主党の提示した延長幅が、90日→120日→50日→70日と迷走した揚げ句だった。

何のための延長なのか、首相退陣はどう絡むのか。それが明確ではないことの証左でもある。

首相と民主党の岡田幹事長は、特例公債法案の成立や「新たな体制」下での第3次補正予算案の検討などを記した合意案をまとめ、自民、公明両党に提示した。だが、両党は「首相退陣時期があいまいだ」などとして、拒否した。

この間のゴタゴタは、何も決められず、物事を動かせない菅政権を象徴しているかのようだ。

首相は、消費税率引き上げや、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加などの重要政策を掲げながら、具体的な成果を上げていない。実現への道筋や手立て、落とし所を考えず、場当たり的な言動を繰り返してきたためだろう。

電力会社に自然エネルギー買い取りを義務づける再生可能エネルギー特別措置法案の成立にこだわり始めたのも、その一つだ。

法案は震災当日の午前中に閣議決定されており、震災対策関連ではない。経済界には、買い取り価格の上乗せで電力料金が値上がりし、日本企業の国際競争力が失われかねないとの懸念もある。

賛否が分かれる法案をあえて持ち出したこと自体、延命策と見られても仕方がなかろう。

政府・与党は、消費税率引き上げを柱とする「社会保障と税の一体改革案」に対する民主党内の反発を抑えられず、決定をズルズルと先送りしている。「政治生命を懸ける」と言明した菅首相が、自ら事態打開に動く気配はない。

求心力を失った首相が居座る限り、官僚機構は動こうとせず、与党でさえまとまらない。

非常時の今、貴重な国会日程を浪費してはなるまい。

延長国会で与野党は、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案をはじめ、二重ローン対策や原発賠償策を盛り込んだ第2次補正予算案の成立など最低限必要な政策の実現を急がねばならない。

本格的な復興対策となる第3次補正予算案は財源論議から逃げられない。新首相の下、新たな政治体制で編成するのが筋である。

毎日新聞 2011年06月22日

国会延長問題 頭冷やし、まともな姿に

この非常時に国会会期の大幅延長は当然の話であるにもかかわらず、なぜ、ここまでもつれなくてはいけないのか。菅直人首相と民主党執行部の間ではようやく会期末前夜、延長は8月末までとすることなどで一致したが、与党内、与野党間の駆け引きばかりが続く姿にあぜんとする思いだ。東日本大震災の被災者、さらには国民が望むのはこんな国会ではない。与野党とも頭を冷やし、早くまともな国会に戻すべきだ。

菅首相が退陣時期を明確にすれば、野党は第2次補正予算案や赤字国債を発行するための特例公債法案などの審議に協力する、と岡田克也民主党幹事長らは首相を説得。これに対し、首相は本当にそれが確約されるのか、と疑念を呈する。一方、自民党や公明党は首相の早期退陣が前提との立場を崩さない--。

この間の堂々巡り状況を簡単に説明すればこうなろう。さらに事態を複雑にしたのは菅首相がここにきて再生可能エネルギー固定価格買い取り法案の成立に意欲を示し始めたことだった。

この法案は大震災発生直前に閣議決定された。東電福島第1原発の大事故を受け、当然、手直しが必要だろうが、私たちは法案の目指す方向性は評価したいと考える。

だが、成立させるためには相当の時間がかかると予想されるため、野党側は同法案を持ち出したこと自体、首相の延命策だと反発。首相も「菅の顔が見たくないなら早くこの法案を通した方がいい」などと挑発的な発言をし、事態を一層こじらせた。要するに双方、法案の是非論より、政局優先だった。

菅内閣に対する不信任決議が衆院で否決されてから3週間近く。「首相はいつ辞めるか」ばかりに与野党の関心が集中し、政治の停滞は目を覆うばかりだ。とりわけ、首相と民主党執行部のすり合わせにこれほど時間がかかるようでは、野党から「政権の体をなしていない」と批判されても仕方あるまい。

私たちは混乱だけを狙ったような今回の不信任案にはそもそも反対してきた。しかし、既に指摘してきたように一度、退陣の意向を表明した首相には限界がある。菅首相や民主党執行部はもっと早期に退陣時期と菅内閣に残された政策課題を明確にしておくべきだった。一方、野党も一歩踏み込んで協力すべきところは協力するとの姿勢を打ち出すべきではなかったろうか。

会期延長が22日正式に与野党で合意し決定できたとしても、かねて私たちが求めてきた大震災の復旧・復興のための与野党協調体制ができるかどうかも分からない。誰のための政治か。原点に立ち返ってほしい。

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