IAEA宣言 原発安全に福島の教訓生かせ

朝日新聞 2011年06月22日

IAEA会合 原発安全の監視役に

原子力をめぐる国際社会の空気が変わった。そのことを痛感させる国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会合だ。

目を引くのは、いま世界に渦巻く脱原発の動きに関心を払ったことだ。閣僚宣言は、原子力を選ぶ国がある一方で「原子力を使わないことにした国、段階的にやめるとした国もあることを認識する」と明記した。

IAEAは、1953年の国連総会で当時のアイゼンハワー米大統領が「平和のための原子力」を唱えたのがきっかけで57年に生まれた。核の番人であると同時に「平和利用の促進」を旗印にする。その国際機関が、脱原発を無視できなくなったことの意味は大きい。

これは、皮肉にも福島第一原発事故がIAEAの役割を変えつつある、ということではないか。原子力開発を促すよりも、その安全を「監視」することこそが今、求められている。

一つには、脱原発の潮流が強まっても、すぐにすべての原発が止まるわけではないからだ。動き続ける原発がある限り、大事故を防がなくてはならない。

もう一つは、新興国や途上国に、高まるエネルギー需要を満たすために原発建設をめざす国が少なくないことだ。背景に、先進国側の原子力ビジネスの思惑もある。新しく原発に手をのばす国の安全態勢づくりを支援しなくてはならない。

こうしたなかで、天野之弥(ゆきや)事務局長は、IAEAの国際専門家チームが、世界中の原発の安全評価に乗り出す考えを明らかにした。たとえば無作為に選んだ1割の原発について、原発の運転だけではなく、緊急時の対策から規制のあり方まで調べあげようという構想だ。

この構想には、二つの面から期待できる。

まず、一律の基準をつくるだけでなく、原発ごとに調べることに意義がある。原発の安全では、立地点にどんな災害リスクがあり、周辺にどれだけ多くの人々が住んでいるかといった自然、社会条件も考えなくてはならないからだ。これは今回、思い知らされたことでもある。

さらに、日本のように「原子力村」が根を張る国では、外の目が評価に欠かせない。

気になるのは、この構想に立地国がどこまで協力するかだ。同意を得たうえで進めるというが、原子力は国家技術の性格があるため、すんなり受け入れない国もあるかもしれない。

日本が送り込んだ事務局長の提案だ。まずは、日本政府がこの国際チームを率先して受け入れたらどうだろうか。

毎日新聞 2011年06月22日

世界の原発 安全へ規制の強化を

国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会議が、原発の安全対策強化に関する閣僚宣言を採択した。天野之弥事務局長による5項目の安全対策も示された。

「核の番人」といわれるIAEAは、これまで核兵器の拡散に目を光らせるお目付け役と位置づけられてきた。原発施設の安全については強制力のある権限を持っていない。

しかし、原発の安全は世界の課題である。世界には米国、フランスを筆頭に全部で約440基の原発がある。中国、インド、ベトナム、アラブ首長国連邦など途上国・資源国を中心に新設計画も数多い。

大事故がひとたび起きれば、その影響は甚大で、国内だけでなく世界に及ぶ。福島第1原発の事故を教訓に、世界の原発の安全性を高めることが急務であり、国際的な対策を迅速に進めたい。

閣僚宣言には、事故防止策としてIAEAの役割の強化や、安全基準の見直しなどが盛り込まれた。天野提案では、津波や地震、長期にわたる全電源喪失などを考慮し、安全基準を1年以内に見直すとしている。

自国の原発の危険と安全性の検証も宣言に盛り込まれた。これはIAEAに促されるまでもない当然のことだ。ただ、自国だけで評価すると甘くなる恐れは否定できず、かといってIAEAがすべてを評価するのも難しい。

天野提案のように国際的な専門家チームが抜き打ち的に調査を行うのは、客観的な安全確保のために重要な方策だろう。その際には強化された新たな安全基準で評価すべきだ。

安全基準の強化への対応は各国の思惑により分かれる。原発輸出国のフランスやロシアは積極的だが、新たに原発の導入をめざす途上国は消極的な傾向があるようだ。

安全基準が厳しくなれば、対策強化による原発のコストがかさむ。途上国にとっては原発導入が難しくなる。先進国でも新設のハードルは高くなるだろう。

しかし、福島第1原発の事故で明らかになったように、安全よりコストを優先させれば大惨事を招きかねない。国民や近隣諸国の人々の命や健康、生活を脅かすだけでなく、事故対応や賠償のコストははかりしれない。

IAEAの安全基準は加盟国に順守を義務づけているものではない。しかし、国際的な法的枠組みを強化し、規制に強制力を持たせることが必要ではないか。

閣僚宣言は福島第1原発の事故について日本とIAEAが透明性のある包括的な評価を示すことを求めている。世界の原発の安全のために真摯(しんし)に対応することは、事故を起こした日本の義務である。

読売新聞 2011年06月22日

IAEA宣言 原発安全に福島の教訓生かせ

世界の原子力の安全性向上に、「フクシマ」の教訓を生かす第一歩とすべきだ。

ウィーンで開かれている国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会議で、IAEAの機能強化を柱とする閣僚宣言が採択された。

東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、宣言は、安全対策を検証する必要性を指摘した。

国際社会の取り組みについて、原発の安全基準の見直しや、IAEAが専門家を派遣して各国の原発の安全性を評価する新たな制度の導入を提案した。

事故時には、迅速で継続的な情報提供が重要としたうえで、緊急対処能力や訓練を強化していくべきだとも強調した。

原発事故への不安は、世界各地に広がっている。IAEAが原発の監視や、安全対策の強化に乗り出すのは当然のことだろう。

日本政府は、IAEAに全面的に協力しなければならない。国際的な原子力技術の向上に貢献する責任も重い。

世界では原発75基が建設中で、さらに91基の新設計画がある。中国やインドなど原発推進の新興国に続いて、中東やアジアの途上国も新規導入を計画している。

しかし、原発に関する共通の安全基準は確立していない。安全性を高めるとコストがかさむため、原発利用を本格化したい新興国では、規制強化への反発が強い。

IAEAは「核の番人」と言われるが、安全対策を国際的に徹底させるのは容易でない。

国際協調の重要性は一段と増している。事故時の国際救援体制の整備や、途上国に対する原子力技術の支援なども求められる。原発を推進してきた日本は、主導的な役割を果たさねばならない。

海江田経済産業相はIAEAの閣僚級会議で演説し、福島原発事故の経緯と収束への対応を説明した。日本の他の原発では緊急安全対策を2度実施し、運転に安全上の支障はないと強調した。

日本の取り組みに一定の理解が得られたとしても、事故を収束させねば、信頼回復は難しい。

国内では、定期検査で停止した原発の運転再開が急務になっている。電力不足が、経済成長とこれから本格化する復興の足を引っ張ってはならない。

政府は事故対応と安全性向上について理解を得る努力を、国内外で粘り強く続ける必要がある。

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