東京五輪 都民は望んでいるか

朝日新聞 2011年06月18日

東京五輪 都民は望んでいるか

また、東京にオリンピックを招致したい。石原慎太郎都知事がきのう、そう表明した。

落選した2016年大会につづく挑戦で、20年の開催をめざす。「大震災からの復興」をキーワードに、9年後に立ち直った日本を世界に見せようと訴えていくという。

日本オリンピック委員会(JOC)は、すでに会場計画がある東京の再挑戦を歓迎し、一部の競技を被災した東北地方で実施するプランも温めている。

「平和」を旗印に意欲をみせていた広島市は市長交代で撤退しており、この夏までの国内選考は、東京が正式に名乗りを上げればすんなり決まりそうだ。

だが、13年9月の開催地決定をめざして走り出す前に、確認しておくべきことがある。

まずは、国民、とりわけ都民は開催を望んでいるのか、だ。

招致活動だけで100億円規模の巨費が飛び交う。それなのに前回はあまり盛り上がらず、国民も都民も支持率は50%台にとどまった。最終選考に残った4都市で最も低かった。あのときと、世論に変化があるようには見えない。

東京都には招致のために積んできた基金が4千億円ある。これだけの資金を未来に生かす方法はいくらもある。それを五輪につぎ込んでいくには、世論の支持を確かめてほしい。

もうひとつは、東日本大震災後のこの国のあり方を、どう考えるのかである。

石原知事は「東京が日本のダイナモ(発電機)になる」と主張する。たしかに、1964年の東京五輪のころ、日本は首都を中心に経済的な発展の上り坂を駆け上がっていた。

だが、五輪に合わせて再び都心の基盤を整えれば、いま以上に東京一極集中をすすめかねない。首都圏を大地震が襲うことも想定されるなか、いま求められているのは、もっと多極分散型の国づくりではないか。

ただ、招致の客観情勢は、南米初のリオデジャネイロ(ブラジル)に屈した前回よりは期待が持てるかもしれない。アフリカ初の看板で有力視された南アフリカが先ごろ断念したため、いまのところのライバルは前回の東京大会の1回前の開催地だったローマくらいなのだ。

ひとつの山場は7月に来る。18年冬季五輪の開催地が決まるのだ。3回連続で挑む平昌(ピョン・チャン)(韓国)が勝つと、18、20年と冬夏連続でアジアで開くことへの抵抗感が国際オリンピック委員会(IOC)に生まれかねない。

招致に乗り出すかどうか。まずは都議会の議論に注目する。

読売新聞 2011年06月19日

東京五輪招致 復興の証しに聖火を灯したい

東京都の石原慎太郎知事が、2020年の夏季五輪を招致したいとの意向を表明した。

9年後、東日本大震災の惨禍から立ち直った日本の姿を、世界に見てもらう復興五輪にするという。知事は都議会で「世界中から寄せられた友情や励ましへの何よりの返礼となるに違いない」と意義を強調した。

東京開催が決まれば、復興に向けて、日本に活力を与える起爆剤ともなり得るだろう。

20年五輪の開催地は、2年後の国際オリンピック委員会(IOC)総会で決定する。聖火が再び東京に(とも)るよう、招致の動きに弾みをつけていきたい。

東京は16年五輪の招致失敗を経ての再挑戦である。16年の開催地に決まったブラジルのリオデジャネイロは、「南米初の五輪を」と訴えて、広範な支持を得た。

これに対し、東京は、なぜ五輪を開くのか、という明確なメッセージを欠いていたことが、前回の招致失敗の教訓といえよう。

戦後復興の象徴だった1964年の東京五輪に続き、大震災からの復興の証しとしての五輪を、という今回の主張は、各国の共感を得られるのではないだろうか。

前回は低調だった国内世論を盛り上げるためには、復興五輪の意義やメリットを国民に分かりやすく示すことが大切だ。

都は、16年五輪のために積み立てた約4000億円の基金を今も保有している。交通機関や宿泊施設など優れた都市機能がある。治安の良さも広く知られている。

東京のこうした面は大きなセールスポイントとなるだろう。

被災地で競技の一部を実施する案もあるという。ぜひとも具体化させてほしい。

20年五輪には、既にローマが名乗りを上げている。招致レースを勝ち抜くには、国を挙げての取り組みが必要だ。石原知事も「国やスポーツ界、経済界など国家の総力が結集され、機運が盛り上がることが不可欠だ」と語った。

折しも、スポーツ政策を国家戦略として推進することを規定したスポーツ基本法が、17日に国会で成立した。新法は、五輪など国際大会の招致、開催のために、国が資金確保などの面で「特別の措置を講ずる」と定めている。

今は復旧・復興財源の確保に全力を挙げるべき時だが、いずれ政府として、五輪招致をどう支援していくのか、姿勢を示す必要がある。都や日本オリンピック委員会(JOC)などと連携し、検討を進めてもらいたい。

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