原発再稼働 自治体の不安に応えよ

朝日新聞 2011年06月17日

原発再稼働 自治体の不安に応えよ

定期検査を終えた原子力発電所の再稼働に、立地自治体が同意しない状況が続いている。定期検査は13カ月に1度義務づけられており、このままでは来年春にはすべての原発が止まる。

電力の原発依存はできるだけ早く脱却すべきだが、代替電力の準備が整わない状態だと、日々の生活や経済活動に大きな影響が生じると予想される。

政府は、福島第一原発の事故を受けて各電力会社に求めた緊急安全対策への対応が済んでいることを根拠に、運転再開を求める構えだ。

だが、対策といっても電源車の配備など応急措置的な内容が多い。福島の事態を目の当たりにして、住民の安全を優先する知事らが首を縦に振らないのは当然でもある。政府は自治体の声を重く受け止め、震災を踏まえた運転再開基準の見直しに、急いで着手すべきだ。

作業にあたって求められるのは、「最悪の事態」に対する目配りだ。これまでは「事故が起きないこと」を前提にしてきた。福島では津波だけでなく、地震の揺れによる被害も指摘されている。周辺設備も含めた耐震性能は十分か。いざ事故が起きた場合の態勢や情報伝達、住民避難の方法、訓練などにも今回の事故を反映させ、実践的な中身にする必要がある。

先般、国際原子力機関(IAEA)に提出した報告書は、稼働条件を改める際の、ひとつの目安になる。

報告書に盛り込んだ28項目にわたる教訓を、できるものからどんどん電力会社に実施させていく。事故時に隣接する原子炉が影響を受けないよう操作の独立性を高める手立てなど、一定の時間を要する対策についても期限を設けて実現を急ぐ。

一律の基準を設けるだけでなく、炉の形式や立地場所など原発が置かれている状況の違いにも注意しなければならない。

年数のたった原子炉や、過去に大きな揺れを経験してきた原発など、リスクが大きいものは再稼働を認めないといった仕分けをしていくべきだ。

基準づくりの段階から地元の意見を反映させていく仕組みも考えたい。最後に「ノー」という権限しかなければ、自治体はそれを行使するしかない。意見交換を重ね、ていねいに積み上げることが、結果的には信頼回復への近道となる。

もとより、原発を再稼働するか否かの重要判断を、電力会社と自治体の協議に委ねてしまっていることこそが不自然だ。

国が前面に出て、先送り状態を打開しなければならない。

毎日新聞 2011年06月19日

原発再稼働要請 説明不足で時期尚早だ

定期検査などで停止している原発について、海江田万里経済産業相が「再稼働は可能」との見解を公表した。近く原発の立地自治体を訪問し、再稼働を要請するという。

当面のシビアアクシデント(過酷事故)対策が適切に実施されているとの判断だが、福島第1原発の事故原因さえ、まだ検証されていない。原発の安全基準や防災体制も根本的に見直されようとしている。現場の汚染水処理も足踏みを続けている。

この段階で政府が既存の原発に「安全宣言」を出すのは時期尚早ではないか。再稼働を促す理由も説明不足だ。立地自治体の県知事らも、まだ不安を抱えている。

今回の判断の背景にある過酷事故対策は政府が7日に各電力に報告を求めた。国際原子力機関(IAEA)への報告書を踏まえたもので、あくまで、福島第1原発の事故を念頭においた短期対策だ。

報告指示から10日余りしかたっておらず、対策の有効性が十分点検されたか疑問が残る。中長期対策がなされるまでのリスクの評価も不透明だ。老朽化した原発や立地場所ごとのリスクも考慮されていない。

政府が求める中長期対策には地震・津波対策の強化や電源・冷却機能の確保、水素爆発防止対策のさらなる強化などが盛り込まれている。

原子力安全委員会は、今後、安全設計審査指針や防災指針の見直しを進める方針だ。原発の耐震設計審査指針も見直しは避けられない。

こうした中長期対策がなされていない今の段階で、どれだけのリスクが軽減され、どのようなリスクが残されているのか、政府はもっと具体的に語るべきだ。

そもそも、第三者機関による事故の調査・検証は始まったばかりだ。この検証では政府も「被告席」にすわることになる。政府の過酷事故対策は妥当なのか、津波対策に偏り過ぎていないか、別の要因による別の過酷事故への対応は十分かも検証が必要だ。

政府が再稼働を急ぐ背景には、電力不足への懸念がある。原発54基のうち37基が被災や定期検査などで停止し(調整運転を含む)、8月末までにさらに5基が定期検査に入る。海江田経産相は「電力供給の不安やコストの上昇は、産業の空洞化を招く恐れがある」と強調している。

しかし、火力や水力発電などでどれほど補えるか、節電による削減余力がどれほどあるかといったデータは十分に示されていない。政府や電力会社は詳細に示すべきだ。

政府は、「原発のリスク」と「多数の原発が停止することによるリスク」をきちんと示した上で、国民の不安を解く努力をしてほしい。

読売新聞 2011年06月19日

原発再開要請 地元への丁寧な説明が必要だ

定期検査などで停止している各地の原子力発電所の運転再開に向け、政府は18日、現時点での安全対策は適切、との判断を示した。

これを受けて海江田経済産業相は、今週末にも原発立地の自治体を訪問し、検査などで止まっている原子炉の運転再開を要請する考えを明らかにした。

東京電力福島第一原発の事故で、原発の安全性に懸念を強める自治体の説得は、これからが正念場となる。政府には十分かつ丁寧な説明が求められよう。

今回の安全対策は水素爆発などの過酷事故を想定したものだ。

原子力安全・保安院が、原発を持つ国内11社に対し、全電源喪失といった緊急時に、中央制御室の作業環境、通信手段などが確保できるかどうか、報告を求めた。立ち入り検査も実施した。

3月末にも各社に安全対策を指示し、5月6日、地震と津波に対する短期的な対策は適切だと“お墨付き”を出している。

ところが、同じ日に菅首相が中部電力浜岡原発の運転停止を要請したことが、原発を抱える自治体に不安を広げる結果となった。

原発のある14道県の知事は、浜岡だけを停止した根拠を政府が責任を持って示さない限り、運転再開に同意できないとしている。

今回、政府としては、2度にわたる緊急安全対策の結果公表で、運転再開への条件は整ったと見ているのだろう。

だが、原発のある自治体からは、政府は浜岡の疑問に答えていない、との反発が出ている。こうした指摘に、政府はきちんと説明を尽くさなければならない。

日本の電力事情を考えれば、定期検査を終えた原発については安全性を確認した上で、順次運転を再開することが必要だ。

現在運転している原発も、検査で来年夏までにはすべて止まる。全国的に電力不足が深刻化し、生産減少や消費の冷え込みが景気の足を引っ張る恐れがある。

電力コストの上昇で、企業が工場を海外へ移す「産業空洞化」も加速しかねない。

海江田経産相は、ウィーンで20日から始まる国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会議に出席し、福島第一原発事故の後の安全対策などについて報告する。

日本の原発の安全強化策を世界にアピールし、国際的信認を回復することが急務である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/757/